投稿日:2025年12月14日

固有振動数の見落としが重大不具合を招く設計の盲点

はじめに~製造業現場に潜む「盲点」

製造業の現場において、故障や思わぬ不具合が生じる原因は実に様々です。
中でも、設計段階で見落とされがちな「固有振動数」。
これは、現場経験者なら一度は悩まされたことがある隠れたリスク要因です。

シンプルな構造体から複雑な設備・装置まで、振動のトラブルは決して他人事ではありません。
しかし、その重要性や本質が分かりやすく語られることは、意外と少ないのが実状です。
この記事では、固有振動数の基本から具体的な現場事例、「なぜ見落とされやすいのか」という問題提起、そしてアナログとデジタルが入り交じる現場での最適解まで、20年以上の現場経験をもとに深掘りしてご紹介します。

固有振動数とは何か~基礎を丁寧に掘り下げる

固有振動数の定義と現場との関わり

固有振動数とは、物体や構造物が本来持つ「振動しやすい周波数」のことを指します。
例えば、ギターの弦を弾くと決まった音が鳴るのは、弦に特有の固有振動数があるからです。
一方で、製造業の現場では、各部品や装置、配管、床などあらゆる構造体が複数の固有振動数を持っています。

何げなく設計された架台やフレーム、機械、その全てが音叉のように「特定の周波数」では驚くほど大きな振動を発生させるポテンシャルを持っています。

共振現象の怖さ~なぜ設計者が悩むのか

固有振動数で外部からエネルギー(例:回転機の回転数、モーターの電磁励振、近接する設備のひずみ)が加わると、「共振現象」が生じます。
これが起きると、通常の何倍、何十倍という大きな振動となって現れます。
機械のボルトが緩む、溶接が割れる、電子基板が折れる、シリンダーが壊れる…このような現場クレームの背後には、安易に軽視されがちな「固有振動数の見落とし」が潜んでいたという事例が後を絶ちません。

現場でよくある「設計の盲点」とは?

なぜ固有振動数は見落とされるのか

現実の設計現場では「強度は十分に確保した」「図面通り組み立てたのになぜ?」という声が挙がりがちです。
その理由は、以下のような業界構造や現場習慣に根差しています。

– 設計段階での動的シミュレーションの重要性が共有されていない
– 過去の「なんとなくの経験則」に頼ってしまう
– CADやCAEなどのITツール浸透がまだら(アナログ重視の組織文化)
– 調達購買が「価格重視」で設計変更相談が後回し
– 製造現場での「現物合わせ」文化と理論設計の分断

固有振動数という「数値で見えないリスク」は、目に見える不良や不適合に比べて対策が遅れがちです。
ましてや昭和から続くアナログ主導の工場や、伝統的なサプライヤーでは、共振対策や振動解析そのものがノウハウとして共有されていないことも多いです。

ありがちな不具合事例

– モーター駆動の搬送装置が特定の速度域で激しく揺れ、量産が停止
– 新規導入したロボットアームの根元部ボルトが、数日で緩んでしまう
– テスト運転では問題無かったが、量産運転でベルトコンベアのフレームがひび割れ
– サプライヤー側で追加した補強リブが、逆に振動を増幅させる結果に

これらは全て「机上の設計検討」で終わったことが、本質的な共振リスクを見逃す背景となりました。

真の対策とは何か?~現場目線のラテラルシンキング

昭和的な現場勘とデジタル技術の両立

「昔からこう作ってきた」「壊れたら直せばいい」は、昨今通用しません。
なぜなら、ライン停止や納期遅延、顧客からの多額のペナルティが現場を直撃する時代になったからです。
一方、CAD/CAEでの振動モード解析も、入力条件が現実とかけ離れていれば意味がありません。

こうした時代の要請に応え、現場で効果を出すには――
– アナログ的な「現物観察」と「現場耳」で発生現象を把握する
– IT/デジタルのCAE(固有振動数・共振のモーダル解析)を生かす
– 「現物合わせ」的な補強策(例:支柱追加、ダンパーの後付け)を設計段階で想定する
– サプライヤー(外注先)にも振動特性や過去トラブルのノウハウ共有を促す
– 調達購買と連携し、安価な部材選定だけでなく、機能安全・保守コストの全体最適で判断する

このような、右脳と左脳のバランスをもった「ラテラルシンキング(水平思考)」こそが、現場での不具合ゼロに近づく第一歩です。

現場主導でも出来る簡易チェック法

本格的な振動解析設備がなくても、現場レベルで固有振動数リスクを事前察知する方法があります。

– ハンマーで軽く叩いて簡易的に音を聞き、異音や共鳴を観察
– スマートフォンの無料アプリやFFTアナライザーで現場計測
– 試運転中に「振動発生条件(回転数・速度など)」を詳細に記録
– 過去の同型機クレーム情報を繰り返し学習し、設計フローに反映

たったこれだけでも、「対策忘れ」「責任転嫁」という、現場で忌避される二大リスクを減らせます。

業界あるある~なぜ「多忙なバイヤー」は動的問題を後回しにしがちか?

購買・調達担当は、つい目先のコストや短納期調整に追われ、サプライヤーとの細かな技術的協議をおざなりにしがちです。
しかし、ここに落とし穴があります。

– 安価な材料や汎用品での調達は、固有振動数が既存部品と大きくズレるリスクが高まる
– 出荷前検査が静的項目しか見ていない(実運転モードでの共振未評価)
– 品質トラブルはサプライヤー側責任として処理しようとする

結果、納入後に設備が使えない、原因追及の長期化、現場の信頼失墜につながるのです。

調達購買こそ、「現場が本当に困るのはどんな不具合か」を理解し、サプライヤーとの間で「固有振動数・共振」をキーワードにした質的な提案協議を増やすべきです。

サプライヤー視点~バイヤーの「頭の中」を理解する

サプライヤーの立場で大切なのは、「バイヤーは品質・コスト・納期だけでは判断しない」ことを認識することです。
リピーターになってもらうには、他社で頻発した共振トラブル、納入品の固有振動対策事例、現物評価のポイントなど「付加価値提案」をセットで提供する姿勢が必要となってきます。

不具合発生後の事後対策よりも、設計段階で潜在リスク情報を交換し合う協働が、長期的な信頼を育みます。

今後を見据えた製造業人材への提言

昭和・平成・令和と時代が移り変わる中で、現場はどんどん多様化・複雑化しています。
古き良き「現場勘」、最先端の「デジタル解析」、さらにはバイヤー・サプライヤーをまたいだ全体最適――
これらすべての知恵と工夫を、現場で発掘・融合することが、製造業の発展に不可欠です。

固有振動数の見落としは、明日起きるかもしれない重大事故の「抜け穴」でもあります。
今日から現場の設計フローや調達品質、現物評価ポイントに「固有振動数と共振」の概念を定着させていきましょう。

現場第一線で働く皆さん、バイヤーやサプライヤーの皆さんが、新しい地平を切り開くことを心から願っています。

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