イベント業がオリジナルTシャツを作るためのプリント方法と在庫リスク対策

はじめに：なぜイベント業でオリジナルTシャツが必要か

イベント業に携わる方であれば、オリジナルTシャツが必須アイテムである理由はすぐにご理解いただけるでしょう。

スタッフの統一感を演出するだけでなく、来場者や参加者の一体感、さらには企業やイベントブランドの認知度向上にも寄与します。

毎年数多くのイベントで、Tシャツが象徴的なアイテムとして活用されているのはそのためです。

しかし、「どのプリント方法を選べばいいのか」「在庫をどう管理すればよいのか」、こうした悩みを抱えている方も多いでしょう。

この記事では、20年以上の製造業現場で培った生産・調達・在庫管理のノウハウをもとに、現場目線で実践的かつ効率的なオリジナルTシャツ製作のポイントを整理します。

オリジナルTシャツプリント方法の基礎知識

Tシャツのプリント方法には複数種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。

まずは主要なプリント方法について特徴を押さえておきます。

シルクスクリーンプリント

最もポピュラーな方法で、版（スクリーン）にインクを通して生地に刷り込む印刷法です。

大量生産に向いており、コストパフォーマンスにも優れています。

デザイン・色替えごとに版を作成する手間と費用が発生するため、小ロット・多品種にはやや不向きですが、インクの定着がよく発色も鮮やかです。

インクジェットプリント

専用プリンタを使い、データから直接Tシャツへインクを噴射して印刷します。

写真やグラデーション表現、多色刷りに底力を発揮します。

版が不要なため小ロット・多品種にも向いていて、近年はイベントや限定品Tシャツにもよく利用されています。

ただし、シルク印刷に比べ洗濯耐久性や色鮮やかさはやや劣り、印刷コストも枚数が多くなると割高に。

転写プリント

印刷したシートをTシャツに熱転写して貼り付ける手法です。

小ロット・短納期・低コストに優れており、フルカラーでも1枚から対応できるのが強みです。

ただし、シート部分の通気性や風合いは本体生地と異なるため、高級感を求める場合は選択に注意が必要です。

刺繍

高級感と立体感を表現できるのが刺繍です。

耐久性も非常に高いですが、複雑なカラー表現や大面積には不向きで、コストも高くなりがちです。

イベントTシャツとしては、ワンポイントやスタッフ識別用に最適です。

現場発想：イベント用途で本当に選ぶべきプリント方法とは？

プリント方式の選択で迷った際、重要なのは「イベントの規模」「必要な枚数」「デザインの複雑さ」「納期」「予算」です。

ここで現場目線のポイントを挙げます。

小規模イベントなら「インクジェット」や「転写」が賢い選択

小規模イベントや、スタッフ・出演者だけの限定Tシャツなど、枚数が少なくデザインのバリエーションが欲しい場合は、インクジェットプリントや転写プリントの活用をお勧めします。

版の初期費用が不要なので無駄なコストを省くことができます。

また、転写プリントなら極端に納期が短くても対応可能な場合が多いため、イベント直前の追加・変更オーダーにも対応可能です。

中～大規模イベント、シンプルなデザインなら「シルクスクリーン」

参加者やスタッフの人数が多く、同じデザインを大量に刷る場合は、シルクスクリーンプリントが圧倒的なコストメリットを発揮します。

1色、2色といった限定された配色であれば、コストと品質のバランスが非常に良好です。

大量に在庫を持つ必要がある場合は、倉庫のスペースや管理方法にも事前に注意が必要です。

顧客満足・ブランド向上なら「刺繍」や「複合方式」を検討

フォトスポットスタッフや特別なVIP用など、ブランドイメージや記念性を高めたい場合は刺繍や、刺繍＋プリントの複合方式も有力です。

メーカーや販促業者によっては、同じデザインで一部だけ加工方法を変えることも柔軟に対応してくれるようになりました。

イベントTシャツ製作の「在庫リスク」とは？

Tシャツ事業で最大のネックは在庫リスクです。

実際に製造業の世界でも「過剰在庫」「欠品」「デッドストック」は、利益を侵食する最大要因。

イベント業においても例外ではありません。

読み間違えたサイズ・デザインの偏りが、イベント終了後に段ボールいっぱいの残余在庫となれば、廃棄や無償配布のリスクが生じます。

環境負荷や企業イメージの観点からも、近年ますます適正在庫の重要性は高まっています。

「適正在庫管理」の具体的方法

1．分納・追納・追加発注の活用

すべてを一度に作るのではなく、初回ロットは最低限に抑え、追加制作が可能な体制を作ることです。

最近は1週間以内に再発注できるサービスも多く、プリント方法やサプライヤーによっては、追加生産・サイズ別納入も容易です。

初回は最小限で発注し、イベント開始前後の実際の現場ニーズや参加者状況をみて柔軟にコントロールしましょう。

2．汎用デザインによる「横展開」

業界柄、デザインを流用できると在庫リスクが激減します。

「イベント名＋日付」「エリア名＋ロゴ」など最低限の情報以外は共通デザインとし、今後のイベントでも再利用できるものを意識しましょう。

本年度限定ものは小ロット印刷へシフトし、翌年や他会場で流用可能なベースデザインは数多めに作っておくことで、廃棄リスクを大きく減らせます。

3．サイズ予測には「製造業的視点」でデータ分析を

Tシャツの発注で最も在庫になりやすいのはサイズの偏りです。

過去の参加規模・性別・年齢層などのデータをもとに、S・M・L・XLそれぞれの適正比率を継続的に分析しましょう。

既存イベントならアンケートや過去販売実績を必ずフィードバックし、サプライヤーにも積極的に情報を公開して協力を仰ぐのがポイントです。

アナログ文化が根強く残る業界で試したい新機軸

イベント業も、製造業同様に「デジタル活用」が大きな成長エンジンです。

ですが昭和から続くアナログな商習慣や紙ベースの管理もまだまだ根深いのが現実。

現場経験から、アナログ業界でも取り入れやすい新しい地平線をご提案します。

Web発注・オンライン管理システムの利用

今や、Tシャツ製作業者の多くがオンラインでの見積り・発注・納品管理を提供しています。

発注履歴や納品スケジュール、在庫の「見える化」は、追加入荷やリスクコントロールの大きな助けとなります。

また、データ活用により翌年への発注最適化にもつながります。

印刷業者と「サプライチェーンパートナーシップ」を組む

平成・令和時代の製造業では、優良サプライヤーとの関係構築が常識となりました。

Tシャツ印刷業者と定期的な情報交換や共同在庫管理契約を結び、未使用在庫の返品や翌年繰越しも含め柔軟なパートナーシップを築くとよいでしょう。

信頼関係が深まることで納期の柔軟化・コストダウンも実現しやすくなります。

クラウドファンディングや予約販売型システムの導入

イベント開催前にネットで予約販売やクラウドファンディング方式をとることで、実需要を確実に把握し、在庫ロスや現金先出しリスクを劇的に減らせます。

現場経験を活かすと、販売予測数から逆算して最適な生産数・納期・納品ロットの設定が可能となり、「売る前に作る」という従来のリスクが大きく改善します。

まとめ：製造業的思考でイベントTシャツを成功させる

オリジナルTシャツ制作は、単なるノベルティや販促グッズにとどまらず、イベントブランディングや収益向上の重要なキーアイテムです。

現場で求められるのは、柔軟なプリント方式選択と、実需に即した在庫コントロール、そしてアナログ業界でも着実に進むデジタル化・サプライヤー連携の推進です。

蓄積されたデータと現場の経験、調達購買・生産管理・品質管理の知見を生かし、時代遅れにならないTシャツづくりを目指しましょう。

バイヤー志望の方はもちろん、現場担当者やサプライヤーにも本記事が一助となれば幸いです。