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スプレードライの基礎と最適微粒化への応用およびスケールアップ

目次
はじめに:スプレードライとは何か
スプレードライは、液体を微粒化し、一瞬で乾燥させて粉末化するプロセスです。
食品、医薬品、化学、セラミックスなど多岐にわたる産業で活用され、特に大量・連続生産が求められる現場でその強みを発揮します。
日本の製造業では昭和の時代からなじみ深く、現在もなお、デジタル化が遅れる分野では必須の技術として根付いています。
この記事では、スプレードライの基本原理から、最適な微粒化への応用、そして工場現場で重要なスケールアップについて、現場目線で解説します。
新たに製造業に入る方、バイヤー志望者やサプライヤーにも役立つ知見をお伝えします。
スプレードライの基本原理と装置
スプレードライの基礎的な仕組み
スプレードライは、液体原料を高圧ポンプまたは回転アトマイザーによって微細な霧状にし、その粒子に高温の乾燥ガスを接触させて瞬時に乾燥・固化させます。
このプロセスにより、液体は数秒〜数十秒という短時間で高品質な粉末に変わります。
そのため「熱に弱い」成分を保持したままの粉末化や、均一粒径のパウダー製造が可能になります。
主要なスプレードライ装置の種類
製造現場でよく採用されるのは次の3種類です。
1. ノズル式:加圧ポンプで液体を細いノズルから噴射し、細粒化
2. アトマイザー(回転円盤式):高速回転体で液滴を遠心力により微粒化
3. コンビ式:上記両方のハイブリッド方式
それぞれ得意分野や課題が異なるため、作りたい粉末に適した方式を見極めることが重要です。
ノズル式は高粘度液に強く、アトマイザーは低粘度で粒度分布の制御に優れます。
コンビ式は限界突破を狙うプロセス改善の場面で活躍します。
スプレードライが選ばれる理由
現場でスプレードライが根強く支持される理由は、「大ロット・連続運転が可能」「少ない人員で回せる」「粉体物性が安定している」などの生産性に直結する強みがあるからです。
一方で、製造設備の初期投資や運転コストは高めであり、小ロット多品種や短納期要求には不向きという弱点も持っています。
最適な微粒化を実現するための実践的アプローチ
微粒化の評価指標と現場での重要性
スプレードライで求められる「微粒化」は単なる粉砕ではありません。
粒子の大きさ(粒径)、形状、分布幅、バルク密度、流動性―これらのパラメータが製品品質に直結します。
たとえば即席スープの粉末とセラミックス原料用粉末では、「理想的な粒子」の条件は全く異なります。
現場では試験・分析を重ねて、狙い通りの粒度分布、流動性を維持しながら、歩留まりや生産効率の最適化に腐心しています。
ノズル・アトマイザー運転条件の工夫
理想的な粒径を得るには、装置の運転条件(液供給圧、ノズル径、回転速度、スプレー角度)と、原液の粘度や固形分濃度が決め手となります。
特にノズル式の場合、原液の粘度が高すぎると「ノズル詰まり」や「不均一霧化」につながりやすいです。
一方、アトマイザー型は「粒度分布が広がりがち」「過度にミスト化してキャッチ率が下がる」などの課題があります。
現場ではラボ実験に加えて、医薬品や食品ならGMPおよびHACCP順守も視野に入れながら、「運転パラメータマトリクス」をつくるのが定石です。
迷ったときは“最小限のパラメータ動かし”を一つ一つ積み重ねて最適解を探す、これが昭和から続く現場の強みです。
壁面付着・歩留まり向上への対策
スプレードライ現場の永遠の課題の一つが「壁面への粉体付着」と「歩留まりの悪化」です。
高含水や高糖分、高粘性の原液では、乾燥塔の壁や内部配管に半乾きの粉がこびりつきやすく、量産ラインでの清掃や停止リスクが高まります。
対策としては、乾燥空気温度・湿度の管理、原液組成の微調整、塔内エアフローの最適化――地味ですがこれらの手作業がモノを言います。
また近年は、設備側の「壁面冷却」や「焦げ付き防止コーティング」の導入、スケーラブルな自動洗浄システムで歩留まりの大幅改善も実現しています。
「昭和なアナログ知恵」と「令和の新設備」を上手に融合させるのが生産現場の肩の力の抜きどころです。
スケールアップの課題と成功事例
実験室スケールから工場規模への壁
スプレードライの最大の難所が「スケールアップ」です。
ラボやパイロットプラントで作った理想的な粉末が、いざ億単位のロット生産になると物性が大きく変わる。
この現象は日本の製造業でも繰り返し経験され、そのたびに数々の「現場知見」が蓄積されてきました。
主な失敗要因は、「熱風の流れ方の違い」「原液供給量の増加によるパラメータ変化」「壁面冷却や排気処理能力の不足」などです。
加えて、ユーザー要求が厳格化する現代では、粉末の特徴(粒径・残存水分・フロー性など)についても狭い規格範囲が求められます。
そのため、バイヤーもサプライヤーも「スケールアップで何が変わるか」を深く理解し、信頼のおける工程管理体制が必要です。
現場目線でのスケールアップ手法
現場で「スケールアップの落とし穴」を回避するためには、段階的なパイロット試験と詳細なデータ収集が欠かせません。
1. 原液の前処理、調製方法を極力本番に近づける
2. 乾燥塔・ノズル等の型番、寸法、設置位置をラボスケールと一致させる
3. 排気、分級、集塵など粉体搬送系も本番を想定してモックアップする
4. テストバッチではなく、連続運転テストの積み上げ
ここで重要なのは「一足飛び」より「百回の微調整」で下地を固めること。
また、「実際に何キロ、何トン作ったか」よりも、「何回失敗し、どのノウハウを蓄積したか」に自信を持てる現場が、バイヤーからの信頼も高くなります。
サプライヤー側でも、こうした現場目線の“ずらし方”を理解していると、見積もり段階や商談において大きなアドバンテージとなります。
成功事例:自動車部品向け粉末のスケールアップ
自動車業界向けの高機能粉末素材をスプレードライで量産化した事例では、装置メーカー・化学メーカー・ユーザーが密に連携し、小型パイロット機×5連運転→大型実機への分割導入→実地検証という段階を踏みました。
失敗を避けるためには「一気に大型設備へスケールアップしない」「仕様を絞って先行投入する」ことが奏功し、最終的に歩留まりは95%以上を確保、多変量解析を活用した微粒化条件の最適化も成功しました。
このように「意思決定を急がない」「現場の感覚値を定量化する」ことが、最先端技術でも変わらぬ現場の鉄則です。
昭和的アナログ文化とデジタル時代の調和
アナログ技術の強みと現場力
今もなお昭和から生き続ける日本のスプレードライ現場では、「勘・コツ・経験値」に基づいた装置調整や、現場作業者による不具合検知・早期対応が生産品質を守っています。
AIやIoTによる自動化よりも、「五感を使った現場ウォッチング」や、「ラインウォーク中のひと声」が、現場では極めて価値のある情報となります。
これこそ“日本の現場”が世界で通用する原動力です。
デジタル技術との融合による高度化
とはいえ、グローバル化・多品種少量時代の進行で、従来のアナログ文化だけでは生き残れません。
最近では、運転データのAI解析、乾燥挙動のシミュレーション、画像解析によるオンライン粒度測定、遠隔監視システムの導入など、デジタル化が進んでいます。
ただし、「現場の声」と「データ」をうまく掛け合わせ、両者の良いところだけを活かしてこそ真の強みになります。
バイヤー、サプライヤー双方が現場のアナログ文化を理解しつつ、デジタル技術導入を推進することで、日本のスプレードライ現場は今後も大きな発展が見込まれます。
まとめ:未来に向けたスプレードライの展望
スプレードライは時代を超えて、さまざまな産業で活躍を続ける日本の“ものづくり”の根幹技術です。
その最適化には、装置・運転条件の知見、昭和から受け継いだ現場力、小さな失敗を積み上げる職人魂が必要です。
これに現代のデジタル技術が融合すれば、今後ますます複雑化・高度化する市場ニーズにも柔軟に応えることができるでしょう。
バイヤーをめざす方は「現場で何に悩み、どう乗り越えているのか」を想像力豊かに理解し、サプライヤーの方も「バイヤーが本当に求めている価値」を知ることが、長期的なパートナーシップには不可欠です。
現場から世界を変える「スプレードライ」。業界全体の発展を願って、次なる挑戦を積み重ねてまいりましょう。
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