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コーターマシンで使うシール材部材の膨潤と寿命低下

目次
はじめに
製造業の中でも、コーターマシンを使用する現場は、高品質なコーティング工程を実現するために日々さまざまな課題と向き合っています。
その中でも、「シール材部材の膨潤」と「寿命低下」は、設備稼働率や製品品質、そしてコスト競争力に大きく影響を及ぼす重要課題です。
私は現場で20年以上、さまざまなシール材の選定やトラブル対応、改善活動を積み重ねてきました。
その経験をベースに、この記事では、シール材の膨潤現象や寿命低下の原因、対策のポイント、そして今後のトレンドなどについて、現場目線かつ業界トレンドも交えて、実践的に解説します。
コーターマシンとは何か
コーターマシンは、基材(フィルム、紙、金属箔など)に液状または半液状の材料(コーティング剤、接着剤、塗料など)を薄膜状に均一に塗布するための設備です。
リチウムイオン電池、フィルム、シール材、プリント基板など、様々な業界の根幹を支えています。
このマシンに使われるシール材は、混入異物の遮断、溶剤漏れ防止、ライン停止時間短縮など、目立たないけれども極めて重要な部品です。
シール材はなぜ膨潤するのか
シール材膨潤のメカニズム
コーターマシンで使うOリングやパッキン、ガスケットなどのシール材は、多くの場合ゴムや樹脂系素材で構成されています。
しかしそのほとんどが、コート液や溶剤(たとえば有機溶剤や界面活性剤など)と長時間接触する過酷な環境下にあります。
ゴムや樹脂は、こうした化学物質と「膨潤反応」を起こします。
これは、溶剤分子が材質の内部に浸透し、膨れ上がった状態になる現象です。
特に、NBR(ニトリルゴム)、EPDM、シリコン、PTFEなど材質ごとの耐薬品性の違いが、膨潤のしやすさ・しにくさを左右します。
現場で発生する膨潤の実例
・Oリングが規定サイズより膨らみ、シール性が低下
・コーティング液がポタ落ちして製品歩留りが悪化
・膨潤後、弾性低下や脆化(ポロポロになる)で突発的な液漏れ
・溶剤性変更や新規液剤開発時に、従来のシール材が急速に劣化
これらは生産現場ではよくある光景です。
現場工員は「またシール材か」と半ばあきらめて交換対応している場合が多く、その背景まで問題意識が及んでいないケースも珍しくありません。
シール寿命が低下する本当の理由
膨潤以外にもある“シール殺し”の要因
膨潤は代表的なトラブル要因ですが、シール材の寿命低下には次のような要素も絡み合っています。
・溶剤や熱、圧力変動による材質の劣化促進
・過剰な締め付けや誤組み込みによる物理的ダメージ
・気温・湿度差による結露や膨張・収縮サイクル
・マシントラブル発生時の急冷・急加熱
・清掃溶剤など使用資材との「相性」
コーターマシンのように、微妙な条件管理が品質の生命線となる設備では、こうした複合要因のどれかひとつでも管理を誤ると、シール材の「突然死」が起きます。
シール交換サイクルの最適化と見逃しやすい落とし穴
多くの現場では、「半年ごと」「1年ごと」など定期交換ルールを設けていますが、本来は
・実稼働状態での膨潤率(%)
・硬度変化(ショア硬度)
・寸法変化率
・伸度や弾性率の変化
を測定し、“寿命データ”を蓄積していくことが重要です。
ここで軽視されがちなのが「予兆管理」です。
寸法が基準値を1mm超える前段階、あるいは感触が普段と違う“違和感”段階で異常検知できれば、ラインストップ前に手を打つことができます。
しかし、昭和気質濃厚な現場では「まだ使えるだろう」の根拠なき経験則が今も支配的です。
このギャップこそ、寿命低下トラブルがなくならない理由の一つと言えます。
膨潤対策と現場でできる根本的アプローチ
材質選定(バイヤーの視点)
膨潤対策の基本は、「材質とコーティング剤・溶剤との適合性検証」にあります。
バイヤーやサプライヤーの立場から見ても、最初に
・現在使用中の溶剤成分、温度条件、圧力サイクル
・過去トラブル事例
を洗い出し、適合する候補材質を徹底的に比較検討することが不可欠です。
代表的なシール材の耐薬品相性
・NBR(ニトリルゴム):鉱物油に強いが有機溶剤に弱い
・EPDM:アルカリや酸性溶液に強く、油・有機溶剤に弱め
・FKM(フッ素ゴム):耐溶剤性が幅広く、高価格帯
・PTFE(テフロン):ほぼあらゆる薬品に強いが物性が脆い
安価なNBRでは対応できず、長寿命化やライン安定化を重視すればややコストは上がってもFKMやPTFEへの変更を検討すべきタイミングかもしれません。
設計段階でのチェックポイント
・シール材が膨潤しても寸法クリアランスに十分余裕が取られているか
・締め付けトルクや装着向きが、膨潤/劣化を逆に促進していないか
・分解/交換性について現場目線でチェックされているか
サプライヤーとしては「うちの材質は○○までOK」と言い切っても、現場設計上のわずかなミスマッチが大きな落とし穴となります。
バイヤーの交渉テクニック
バイヤー目線では、ただ安い材質を追い求めるのではなく
・現場のリアルな設備負荷を前倒しで共有する
・材質変更品は、短期・中期比較テストを厳格に要求
・(可能であれば)過去の失敗事例を包み隠さず公開
この“オープンな提案依頼”が、サプライヤーの提案力や開発力を引き出すカギです。
従来の「価格だけ」「納期だけ」の条件闘争から脱却することで、現場に適した膨潤対策の突破口が開けるはずです。
アナログ業界の壁と今後のトレンド
なぜアナログ管理が根深いのか
製造業、特に化学やフィルム系の現場では、歴史的に“ベテランオペレーターの勘”や“長年の慣習”がシール材運用を支配してきました。
・手帳で管理、交換履歴の情報共有が不十分
・不適合や膨潤複合要因が属人化して共有されづらい
・サプライヤーから「使いすぎ」or「過剰在庫」どちらも嫌われるプレッシャー
こうした昭和型アナログ思考から新しい管理体系に移行するには、現場・技術・バイヤー三位一体のマインドチェンジが不可欠です。
最新トレンドと次世代への提案
1. データドリブン保全
IoTセンサーでシール部の液漏れリスク、圧力変化、弾性低下をリアルタイム監視し、膨潤予兆を可視化する、という取り組みが一部の先進企業で始まっています。
2. マテリアルサイエンスの進化
近年は「膨潤しにくい」新規エラストマーやハイブリッド系シール材が開発され、サプライヤー提案の幅も急激に拡大。従来にない新素材の導入チャンスです。
3. 共創型バイヤー戦略
現場/バイヤー/メーカー/サプライヤーが一体となって、今まで表に出なかった“リアルな実稼働データ”を評価基準に加え、ユーザー主導で材質改良・管理革新を進めていく姿勢が注目されています。
まとめ ― 深く考え、実践し、現場を変革しよう
コーターマシンで使うシール材の膨潤や寿命低下は、単なる消耗品の話にとどまりません。
歩留まり向上、設備稼働向上、異常検知の精度アップ、ひいては工数や人材配置、現場力全体の底上げにつながるテーマです。
今こそ、昭和型の「なんとなく対応」から脱却し、
・実稼働データに基づく膨潤・寿命の見える化
・現場と設計、バイヤーとサプライヤーの知見融合
・マテリアルサイエンスやIoTといった新潮流の導入
こうしたラテラルシンキングが不可欠です。
安易な定期交換だけに頼らず、「なぜ膨潤するのか」「どうしたら寿命をのばせるか」「バイヤーやサプライヤーはどこまでサポートできるか」を今一度問い直しましょう。
現場に根ざした深い思考と、多様な立場の共創こそが、アナログ業界を本質的に変革し、製造業の未来を切り拓くカギです。
シール材ひとつをとっても、現場目線で見直していくことの奥深さと面白さを、ぜひ今後の日々の業務に生かしてみてください。
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