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検査で拾える不良より拾えない不良の方が怖いという品質保証の本音

目次
検査で拾える不良より拾えない不良の方が怖いという品質保証の本音
はじめに:製造現場のリアルな悩み
製造業において「品質」は最も重要な経営資源のひとつです。
現場で仕事を続けていくと、どうしても気になることがあります。
それは「どんなに厳しい検査をしても、検査では見つからない不良がある」という現実です。
多くの人は「検査=品質保証」と思っていますが、現場の本音を言えば必ずしもイコールではありません。
むしろ、“検査で拾える不良”は氷山の一角にすぎません。
製造現場で経験を積んだ立場から、その理由や現実、そしてこれからの対策について現場目線で深掘りします。
検査で拾える不良とはなにか
まず「検査で拾える不良」とは何かを改めて考えてみます。
たとえば、見た目の不良(キズ、変色、異物付着)や、寸法の公差範囲外といったものは比較的見つけやすい不良です。
検査基準や検査治具を用いて、マニュアル通りに進めることである程度の不良品は検出できます。
こうした「見える」不良は日々の業務の中でも繰り返し検出され、現場では「定量的」な扱いができます。
なぜ検査で拾えない不良が怖いのか
検査で拾えない不良とは、言い換えれば「検査工程で発見することが困難な不良」です。
それには大きく分けて次の2つがあります。
- 偶発的・潜在的な不良(例えば微細な内部クラックや電子部品の内部断線)
- 工程上で再現性が低い問題(たまにしか発生しないが、機能上致命傷となるエラー)
このタイプの不良は、納品後やユーザーの使用環境で“初めて現れる”ことが珍しくありません。
当然、クレームやリコールなど多大なコストと信頼損失につながります。
現場でよくある「検査の限界」
私が経験してきた現場でも、何度か「あれほど検査したのに、なぜ…」という事故がありました。
たとえば自動車用の部品で、外観や寸法だけでは判断できない金属疲労や内部構造の異常が、市場に出てから発覚したケースがありました。
具体的には以下のような検査の限界があります。
- 限られたサンプル数でしか検査できない(全数検査が困難)
- 目視検査では熟練度差や人依存性が発生する
- 物理的に壊さないと分からない部位の欠陥
また、昭和から続くアナログ工場では、検査データの管理やトレーサビリティが不十分な場合もあります。
これによって、不良の早期発見・再発防止がますます困難になるのです。
アナログ文化と「検査頼み品質保証」から抜け出すために
現場では「最後は検査で見逃さなければ大丈夫」という迷信のような雰囲気が根強く残っています。
しかし、現実は違います。
「検査は品質保証の最後の砦」であって、「検査が全てのリスクを潰せるわけではない」のです。
今後、アナログな文化に留まるのではなく、デジタル技術や工程設計理念の取り入れが不可欠です。
現場目線で考える“拾えない不良”を減らすには?
拾えない不良を減らすために、現場レベルで取り組める対策を以下にまとめます。
工程FMEAと不良モードの見える化
FMEA(故障モード影響解析)は古典的ですが不良の“原因と影響”を網羅的に洗い出します。
「この工程でどんな不良が潜むか?」
「この不良が最終ユーザーに到達した場合のリスクは?」
現場、保全部門、設計が一体となって、仮想的に不良を洗い出し、リスクを分析します。
これを習慣づけるだけで“拾いきれないリスク”を事前につぶすことが可能になります。
工程能力(Cpk、Ppk)の客観的評価
「検査で良否判定」ではなく、「工程そのもののばらつきを見て、不良発生要因を前倒しで補正する」視点も重要です。
SPCや工程能力管理をうまく取り入れ、工程内で“不良が発生しにくい”状態を作ります。
ヒューマンエラー低減策
検査員に依存したアナログ検査は、どうしてもバラつきが出ます。
自動化できる箇所は極力自動化し、人による工程では二重チェックやデータ記録の仕組み導入、さらにはVR/ARによる教育も現場レベルで有効です。
IoT・AI/画像解析の活用
近年ではIoTやAI画像解析技術の活用で「従来見逃していた兆候」を検知できるようになりました。
ベテラン検査員の“勘”をデジタルとして継承する時代です。
「AI・IoTは経営層の言葉」と遠ざけず、現場小さな案件から“導入・小さく失敗・学ぶ”サイクルが大切です。
サプライヤー・バイヤーそれぞれに伝えたい、本当の品質管理
サプライヤーの立場:「検査に頼らず未然防止」
バイヤー(購買担当)から見れば、サプライヤーは納品後トラブル防止を徹底してほしいというのが本音です。
そのためには次のポイントが重要です。
- 検査成績書や出荷検査の情報だけでなく、工程設計や現場改善の報告を積極的に共有
- 過去のクレームや不具合事例を“見える化”して未然に横展開
- 4M(人・機械・材料・方法)の小さな変化もバイヤーに開示する透明な関係構築
バイヤーを目指す人へ:「検査数値の裏を読む力」
現場経験者からすれば、「検査合格=安全」ではありません。
バイヤーとして品質情報、クレーム履歴、現場の実際の管理状況まで広く聞き取り・見学する“現場観察力”を養いましょう。
また、数字やデータだけでなく、「なぜここは手書き対応なのか」「直近6か月で変更点はないか」などの具体的な問いかけが、リスク発見の突破口になることもあります。
製造業の未来を担う現場力と品質保証
自動化・デジタル化は“人”の洞察力を補う存在
自動化やAIは便利ですが、最終的には「人が“なぜこの異常が起きたのか”を深く追及する姿勢」が大切です。
現場では、トレーサビリティ強化、新しい検査機械の導入、IoT設備の異常通知など、どんどん新しい技術が入っています。
しかし、「拾えない不良」との戦いは終わりません。
むしろ現場の主体性や、徹底した仮設・検証の繰り返しが価値を発揮します。
まとめ:「拾えない不良」に常に備える“現場文化”を
「検査で拾えない不良が怖い」というのは、メーカーにとって永遠の課題です。
その現実を認めたうえで、拾えない不良を減らす努力、工程起点の改善、ヒューマンエラー低減、デジタル導入など、現場が一丸となった取り組みが大切です。
昭和から続くアナログ文化と、これからのDXをどう融合させるか—。
それが、今の日本の製造業が乗り越えなければならない最大のハードルだと考えます。
バイヤー、サプライヤー、現場作業者、そのすべてが一つの「品質保証チーム」です。
「検査に頼りきり」ではなく、「検査の裏に隠れるリスク」にも敏感になり、人と技術が共に成熟した現場づくりを進めていきましょう。
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