精密部品の寸法が温度変化で簡単に狂う樹脂特性の壁

精密部品に求められる寸法精度と温度変化の関係

精密部品は、自動車、医療、電子機器などの産業分野で重要な役割を担っています。
これらの分野では、部品同士のかみ合わせや動作精度が厳しく求められるため、μm(マイクロメートル)単位の寸法精度が要求されることも珍しくありません。

近年、金属部品に加え、軽量化やコストダウン、耐薬品性・絶縁性の必要性から樹脂製の精密部品需要が高まっています。
しかし、樹脂は金属とは異なる物理的特性を持っており、製品設計や成形時にはその特性を理解した上で対策が不可欠です。
特に大きな課題として立ちはだかるのが「温度変化による寸法変化」です。

樹脂特有の線膨張係数とは

材料の膨張・収縮メカニズム

多くの物質は熱を受けると分子の運動が激しくなり、結果として体積が増加します。
この現象が「熱膨張」です。
固体では、主に長さ方向への変化(線膨張)が問題となります。

材料ごとに、温度が1度上がったとき、どのくらい伸びるのかを示す指標が「線膨張係数(α)」です。
この値が大きいほど、同じ温度変化でも寸法変化が大きくなります。

樹脂の線膨張係数は金属の約10倍以上

一般的な金属の線膨張係数は10~20×10^-6/℃程度です。
これに対して、多くの樹脂は60~200×10^-6/℃にもなります。
つまり、材料が同じ条件にさらされた場合、金属よりも樹脂の方が圧倒的に寸法変化しやすいのです。

例えば、100mmの樹脂部品を室温20℃で製造して、40℃の場所で使用した場合、線膨張係数が100×10^-6/℃なら、
100mm × 20℃ × 100×10^-6 = 0.2mm
も寸法変化します。
この程度の数値でも、μmオーダーの精度が求められる組立工程では致命的な狂いとなる場合があります。

寸法公差と樹脂特性のジレンマ

精密部品の設計においては「設計公差」と「成形公差」の両面から寸法精度を考慮する必要があります。

設計公差の観点から

精密機器でしばしば求められる±10μm以下の公差を樹脂パーツ単品に設定するのは非常に困難です。
組み立て途中で発生する温度差や、最終的な使用環境による温度変化を想定しなければ、完成時点ですでに規格外となることもあり得ます。

成形公差の観点から

樹脂部品は金型による射出成形や押出成形などで作られますが、冷却過程での収縮やムラ、成形時の温度依存性によって、金型寸法通りに仕上げること自体が難しいです。
さらに、成形直後と24時間後では含水率や組織変化により寸法が微妙に変動することもあります。

温度変化による寸法狂いの実例

具体的な業界別に、寸法狂いによってどのような不具合が発生するかを見ていきます。

電子部品のケース

電子デバイスの外装ケースや、センシング部品の支持体で樹脂が頻繁に使用されます。
精密な位置決めが必要なピンやカメラモジュールの保持部において、工場の成形現場(例えば25℃)からエンドユーザーの使用条件(40℃以上)まで温度変動が生じると、数十μmから100μm超の拡大・収縮が氷解し、モジュールのズレや、最悪の場合コネクタの嵌合不良や短絡の原因になります。

自動車部品のケース

エンジンルームやEVバッテリーパックには樹脂部品が多く使われますが、これらは冬場の-10℃から夏場の60℃という広い温度範囲で寸法変化に晒されます。
配線や組み立て穴の位置精度は装着性や振動対策に直結し、温度膨張によるガタつきや亀裂、圧迫損傷のリスクが高まります。

医療機器のケース

医療用デバイスはオートクレーブ滅菌(120℃超)後にも寸法精度が求められます。
樹脂特性を十分加味せず設計した場合、使用直前での変形や組立不良が発生し、信頼性・安全性に大きな関わりがあります。

寸法管理のための具体的な対策

樹脂の寸法変化問題は、材料選定、設計段階、成形工程、そして使用環境の全てを俯瞰して対策する必要があります。

材料選定の工夫

まずは、できるだけ線膨張係数の小さいエンジニアリングプラスチックや、ガラス繊維などの充填材入りグレードを選択することが効果的です。
例えば、ガラス繊維強化ポリアミド(ガラス入りPA)は純粋なPAよりも、線膨張係数を半分以下に抑えられます。
また、PPSやPEEKなどのスーパーエンプラは、一般的な汎用樹脂よりも寸法安定性が高い傾向にあります。

製品設計時の配慮

温度変化が大きい場合を考慮して、設計段階で下記を考えます。

・組み立てる際の勘合部分には膨張・収縮の余裕を持たせるクリアランスを設ける
・必ず使用環境温度での寸法をシミュレーションし、必要に応じて設計寸法や公差を調整
・温度に依存しやすい部分には厚肉やリブなどの補強構造を設けて変形を抑える
・対称性のあるデザインによって、歪みバランスをコントロールする

成形プロセスの最適化

成形時の温度管理を徹底し、金型冷却や離型タイミングを最適化することで、収縮ムラや変形を最小限にとどめます。
さらに、成形品の寸法安定に必要な、成形後の適切なエージング(時効安定化)工程も重要です。

使用現場での温度管理

実際の使用現場でも、必要に応じて温度制御装置や断熱材を設置し、極端な温度変化を避ける取り組みが有効です。
また、保管時や輸送時の環境温度変化による狂いについても配慮し、箱詰めや緩衝材などの工夫を加えます。

CAD/CAEによる事前シミュレーション

先端的な設計現場では、CADやCAEを活用した熱膨張シミュレーションが主流です。
使用想定温度範囲で材料ごとの寸法変化データを入力し、組立時や稼働時にクリアランスや勘合に過不足が出ないかをモデル検証します。
これにより、事前の干渉チェックやトラブル予防がしやすくなります。

また、樹脂の吸水膨張や経年劣化による寸法変化も事前評価することで、長期間の安定状態も加味した設計が可能です。

まとめ:精密部品と樹脂特性の“壁”を乗り越えるために

樹脂製精密部品は、その軽量性・耐食性・成形の自由度など多くのメリットがある一方で、“温度変化による寸法の狂いやすさ”という根本的な壁を必ず意識しなければなりません。

寸法精度の壁を乗り越えるには、
・最適な材料選定(グレード、充填材の選定等)
・公差設計と組立方法の工夫
・成形工程での厳密な温度・冷却管理
・最先端ツールを使ったシミュレーション
そして
・実際の使用環境を見据えた全工程での寸法管理
これらを総合的に実践してはじめて、真の“精密”樹脂部品が完成します。

樹脂部品を扱う上で、温度変化に伴う寸法変動という壁は避けられません。
しかし技術とノウハウの融合によって、精密部品の新しい可能性が今後さらに広がっていくことは間違いありません。

You cannot copy content of this page