難融点金属(タングステン・モリブデン)EBM造形と核融合炉内装材での試験結果
難融点金属(タングステン・モリブデン)とは
難融点金属とは、非常に高い融点を持つ金属を指します。
この中でもタングステンとモリブデンは、代表的な元素として知られています。
タングステンの融点は約3,422℃、モリブデンは約2,623℃に達し、ステンレス鋼やチタン、ニッケル合金と比べても遥かに高い耐熱性を誇ります。
このため、両者は航空宇宙、電子機器、原子力分野、特に高温環境が求められる部材や重要パーツに幅広く使用されています。
難融点金属は加工の難しさから、一般的な製造技術では限界がありました。
しかし、近年の積層造形技術(Additive Manufacturing, AM)の進化により、従来実現できなかった複雑形状や高機能部材の創製も可能となり、期待が高まっています。
EBM造形技術とは
EBM(Electron Beam Melting、電子ビーム溶融)は、金属積層造形(3Dプリンティング)のひとつの方式です。
この技術は、真空中で金属粉末を強力な電子ビームで急速に加熱・溶融・凝固させることで、目的とする立体構造体を仕上げます。
EBMは高エネルギー密度を持ち、通常のレーザー方式(SLMやDMLS)よりも高融点金属を容易に溶融することができます。
そのため、タングステンやモリブデンといった難融点金属の造形において、EBMは非常に有効です。
また、EBM造形では大気中の酸化を防ぐために真空中で行うため、微細な酸化層や不純物の混入を防ぐことができます。
これも高性能部材には重要なポイントです。
EBMによるタングステン造形の特徴と課題
タングステンEBM造形の利点
EBMによるタングステン造形は、従来困難だった複雑な形状や内蔵冷却チャネルなどの一体型構造の製作を可能にします。
タングステンは非常に高い熱伝導性と強度を持ち、かつ中性子線に対しても高い耐性がありますので、極めて高温となる核融合炉内部やプラズマ対抗材などにも適用が期待されています。
また、EBMでは積層ごとに電子ビームでしっかりと金属粉末が溶融・凝固するため、十分な密度と機械特性が得やすい特徴があります。
その結果、鋳造や従来加工法で問題となっていたミクロクラックや残留応力もコントロールしやすくなります。
造形時の課題
一方でタングステンEBM造形では、急速加熱・冷却を繰り返すことで生じる熱応力や微細な割れ、また粉末の酸化や純度の管理など、多くの技術的課題も残されています。
とくにタングステンは脆性遷移温度が高く、高温でなければ脆く割れやすい性質があるため、造形過程および造形後熱処理プロセスの最適化が不可欠です。
また、プリント後の機械的仕上げが困難なため、造形時点で寸法精度や表面粗度を厳格に制御する必要もあります。
EBMによるモリブデン造形の特徴と課題
モリブデンEBM造形の活用先
モリブデンは高融点・耐食性だけでなく、熱膨張率が小さいことや、中性子吸収断面積が比較的小さいことから、精密機器業界や原子力、プラズマ物理関連の分野で求められています。
EBMでのモリブデン造形は、熱伝導性が高い反面、温度ムラによる割れやすさも抱えますが、パラメータ最適化により複雑なパーツの一体成形が可能です。
例えばプラズマ対向部品や、チャネリング構造を持つ冷却部材などの高度な設計も実現でき、原子力関連機器においては部品点数の削減による信頼性向上やメンテナンス性向上にも貢献します。
造形時の留意点
モリブデンのEBM造形は、比較的収縮歪みや割れへの耐性がタングステンより高いものの、やはり粉末粒径や造形温度管理、除去ガス成分といった細かな制御が欠かせません。
EBMはレーザーより熱影響領域が広くなる可能性があり、不均一な冷却や凝固過程で縞模様や微細応力が生じるリスクもあります。
そのため造形前後の熱処理やアニールの工程設計も重要です。
核融合炉向け内装材への試験適用
核融合炉内装材に求められる性能
核融合炉は超高温のプラズマを長時間維持する次世代エネルギー炉であり、数百万ケルビンもの高温、強力な中性子線・荷電粒子の照射、度重なるサーマルサイクルなど、極めて過酷な環境下での耐久性や安全性が内装材に求められます。
特にプラズマ対抗材(ファーストウォールやダイバータ)は、タングステンやモリブデンといった難融点金属の特性が大いに活かされる領域です。
EBM造形材の核融合炉材料試験
近年、EBMなどAM技術で作製したタングステン・モリブデン部材を用いた核融合炉用材料試験が国内外で進められています。
主な評価内容としては、
– 高温引張試験(室温から2000℃超までの強度・延性評価)
– 線膨張率試験や熱伝導率評価
– 中性子・プラズマ照射試験による反応性、損傷評価
– サーマルショック(急冷急熱)下でのクラック発生挙動
– 疲労強度や衝撃靭性
– 表面粗度・酸化層の特定
などが挙げられます。
結果として、EBM造形によるタングステン材は高密度・高純度を保ちつつ、従来工法と同等か一部パラメータによっては優れた機械物性を示すことが多く報告されています。
またモリブデンについても、EBM造形材は従来焼結材に比べ高い均一組織と延性、微細組織制御による耐熱性・耐照射損傷性の向上が実現可能となりつつあります。
代表的な試験結果の事例
例えば、ある研究グループがEBM造形タングステンを用いて急冷急熱サイクル(最大2000℃から室温への5秒急冷を5000回繰り返し)を行った結果、従来焼結材ではクラックや剥離が生じる温度領域でも、EBM材は割れの発生を大きく抑制できることが確認され、高温サイクル耐性の向上について大きな可能性が示唆されています。
モリブデンについても、プラズマ照射下での吸ガス挙動および表面損傷評価において、EBM造形材の方が組織的に再結晶粒が制御しやすく、表面損耗や粒子飛散量が低減する傾向が見られています。
核融合炉材料としての今後の展望
これらの成果をふまえ、難融点金属+AM技術の融合は、高信頼性・高機能な新世代核融合炉用材料としての実用化に着実に近づいています。
さらなる長期照射・高温運転試験、プラズマ環境下の複合劣化挙動、現地溶接・修復技術など、多角的な研究が今後も加速していくでしょう。
まとめ:難融点金属AM造形と核融合炉応用の未来
タングステン・モリブデンなどの難融点金属とEBMをはじめとする先端AM技術の組み合わせは、従来工法の限界を超える高難度パーツ製作を可能にしました。
とりわけ、極限環境下での耐熱性・耐照射性を求める核融合炉内装材への応用が急速に進展し、有望な成果が多数報告されています。
今後はより一層の微細組織制御、寿命予測、造形プロセスの信頼性向上、実機サイズ部材の連続生産実証、サステナブルな材料・工程開発などが進めば、グリーンエネルギー社会実現に向けてAM造形の価値はさらに高まることが予想されます。
積層造形難融点金属製品の利用は、原子力だけでなく、電子デバイス、宇宙開発、医療機器など幅広い分野においても技術革新を支える原動力となるはずです。