プリントインクの環境対応化とRoHS適合インキの導入動向
プリントインクの環境対応化が求められる背景
近年、地球環境への配慮が世界的に強まる中、工業製品だけでなく印刷業界にも環境負荷低減の取り組みが求められています。
その中心的な課題の一つがプリントインクの環境対応化です。
従来の印刷インクは、発色や速乾性、コスト面を重視して開発されてきたため、金属や有害化学物質を含んでいることがありました。
しかし、その排出や廃棄による環境汚染や、人体への健康リスクが指摘されるようになったため、より環境に優しいプリントインクへの転換が避けられない状況になっています。
また、環境関連法規制の強化や、消費者の環境意識の高まりも大きな要因となっています。
この中でも、とりわけ電子機器分野を中心に大きな影響を与えているのが、ヨーロッパ連合(EU)が制定するRoHS指令です。
RoHS指令とは何か?
RoHS(Restriction of Hazardous Substances)指令とは、EUが2006年から施行した、電気・電子機器の特定有害物質の使用制限に関する規制です。
代表的な対象物質には、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、六価クロム(Cr6+)、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)、および特定フタル酸エステル類などが含まれます。
この指令の目的は、上記の有害物質の使用を制限することで、廃棄時の環境汚染やリサイクル時の作業者の健康被害を防止することにあります。
RoHS準拠製品は、ヨーロッパ向け輸出のためには必須要件となっており、対象は機械や基板、部品はもちろん、プリントインクにも適用されるのが特徴です。
RoHS適合インキへの転換の必要性
RoHS指令への対応は、欧州市場に限らず世界的なスタンダードとなりつつあります。
すなわち、RoHS適合インキを使用した製品でなければ、国際的な事業展開の障壁となる恐れが高まっています。
従来のプリントインクには、鮮やかな発色や耐候性を持たせるために鉛やカドミウムといった有害元素が使われてきました。
また、溶剤としてVOC(揮発性有機化合物)を多用していたため、大気汚染や作業者の健康被害も指摘されてきました。
そのため、RoHS適合インキへ切り替え、無鉛化・無カドミウム化・低溶剤化した製品開発は、メーカーの信頼性や事業継続性、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営において不可欠となっています。
RoHS適合インキに求められる主な技術要件
RoHS適合インキには様々な要件があります。
まず鉛、カドミウム、水銀、六価クロムなどの有害金属を使わないことが大前提です。
たとえばプリント基板用の緑色インキでは、以前は鉛クロム系顔料やカドミウム系顔料が一般的でしたが、これらはRoHS指令で厳しく規制されました。
そのため、代替として有機顔料や無機顔料(バリウムやチタンベース)への切り替えが進められています。
顔料選定のみならず、インキ組成のその他成分(樹脂、可塑剤、安定剤など)に関してもRoHS対象物質の徹底排除が要求されているのです。
さらに、印刷から製品廃棄までの全ライフサイクルで、有害成分の溶出や揮発がないことも証明する必要があります。
第三者機関による分析証明書(COA・SDSなど)の提出も、取引先や認証取得のためには一般的に求められるようになっています。
RoHS適合インキの導入にともなうメリットと課題
RoHS適合インキの導入には、いくつものメリットが存在します。
まず、世界市場での取引の拡大や、欧州規制だけでなく、未来の環境規制にも柔軟に対応できるガバナンス強化が見込めます。
一方、従来型の金属顔料を排除することで、発色性や耐候性といった印刷品質の維持が難しくなる場合もあります。
また、材料コストは高くなる傾向があり、開発・製造プロセスの見直しや新規材料仕入先の選定も必要となるでしょう。
導入初期では生産現場での印刷適性の検証や各種認証試験への対応も不可欠です。
こうした課題に対し、印刷インクメーカー各社は日々研究開発の強化やソリューション提案の充実に努め、顧客企業のスムーズなRoHS導入を支援しています。
国内外におけるRoHS対応インキの最新導入動向
日本国内においては、大手インキメーカーを中心にRoHS適合製品シリーズを展開しています。
特に電子基板向けソルダーレジストインキ、シルクスクリーンインキ、プラスチック容器用などで顕著に導入が進んでいます。
また印刷対象物によっては、VOCを削減した水性インキや、植物由来成分を配合したバイオマスインキの投入も進められています。
世界的な動向に目を向けると、EUのみならず、中国(中国版RoHS)、アメリカ(カリフォルニアRoHS)、インド、台湾などでも有害物質管理規制が拡大しています。
これら各国法令への相互準拠を果たすため、多国籍企業では「グローバル適合インキ」として各国基準をクリアした汎用性の高いインキ導入を進める傾向が強まっています。
特に車載機器、医療機器、産業機器など厳格なコンプライアンスと高信頼性が求められる分野では、RoHS指令以上に厳しい自社基準を設けるメーカーも登場しています。
この流れは年々強まっており、今後は全産業分野における環境適合インキの普及が予想されます。
今後求められる環境対応インキの進化
今後、プリントインキの環境対応化はさらなる進化が求められます。
単なるRoHS適合にとどまらず、REACH規制(EUの化学物質規制)、VOC対策、カーボンニュートラルへの貢献など、新たな課題への対応が重要となります。
今後は、バイオマスインキや水性インキに代表される「グリーンケミストリー」への移行も加速しそうです。
さらには、リサイクルインキや印刷後の剥離性向上、LCA(ライフサイクルアセスメント)による環境負荷定量化など、不可逆的な脱有害化、低炭素化の流れが業界全体を牽引するでしょう。
これらを支える上で不可欠なのは、環境対応と印刷品質・生産性の両立です。
消費者やクライアントが安心して選べる技術的裏付けや、サプライチェーン全体での情報共有・環境コスト低減の仕組み作りも重要です。
まとめ:持続可能な社会の実現へ向けて
プリントインクの環境対応化とRoHS適合インキの導入は、今日の印刷業界にとって欠かせない課題です。
環境規制の強化は、単なる義務対応ではなく、より持続可能な社会の実現に向けた企業価値向上のチャンスと捉えるべきです。
今後も各種法規制や消費者ニーズを的確にとらえ、安全・安心・高品質な環境対応インキの開発と事業への導入が日本の印刷産業の国際競争力維持・強化に直結していくでしょう。
企業は最新の法令・技術情報をキャッチアップし、自社製品のグリーン化、サステナブル対応を積極的に推進することが重要となります。