油脂の分留工程が複雑で人材育成が追いつかない現場の本音

油脂の分留工程が複雑で人材育成が追いつかない現場の本音

油脂の分留工程とは何か

油脂産業における分留工程は、原料となる油脂を加熱し、沸点の違いによって成分ごとに分離する重要なプロセスです。

この技術は、食用油や工業用油脂、化粧品、医薬品など多岐にわたる製品の品質へ直接的な影響を及ぼします。

分留には高温での精密な温度管理、適切な加圧・減圧操作、高度な計器の読解、現場の即時対応力が求められます。

しかし、この一連の工程が非常に複雑であり、かつ繰り返しの熟練でしか身につかない暗黙知を多く含んでいるため、現場では人材育成が悩みの種となっています。

現場が感じる分留工程の難しさ

マニュアル通りに行かない現実

油脂の分留工程には、教科書やマニュアルには載っていない“現場の知恵”や勘所が数多く存在します。

季節や天候、原料ロットの違い、設備のコンディションによって、絶妙な加減が必要となります。

そのため、単なる手順や流れを覚えただけで、すぐに実践できるものではありません。

教科書的に理解していても、実際の現場で適切に対応できる人材を育てるのは至難の業です。

属人化によるリスク

熟練オペレーターのノウハウや職人技に大きく依存しており、知識や経験が属人化する傾向があります。

結果として、数年がかりで一人前に育てた人材が退職や異動で抜けた途端、現場全体のノウハウが大きく失われるリスクを抱えています。

しかも分留工程がうまくいかなければ、製品の歩留まりの悪化や品質事故につながるため、現場のプレッシャーも大きくなっています。

多忙な現場でのOJTの限界

油脂プラントは24時間体制で稼働していることが多く、日々の生産スケジュールに追われています。

その中でOJT(On the Job Training)を丁寧に実施する余裕がなく、新人は断片的な知識・断片的な体験だけで現場に送り出されることもあります。

習得すべき内容が多岐にわたるため、「一通り覚えるのに何年もかかる」という声も少なくありません。

結果的に、ミスやトラブルのリスクが高まり、現場のストレスが増す要因となっています。

人手不足が招く油脂分留現場の現状

若手社員の定着率の低さ

昨今の人口減少や若手離れ、生産現場の3K(きつい、危険、汚い)イメージなど、油脂業界も人手不足に悩まされています。

特に分留工程のような専門性と厳しい現場作業が要求される部署では、「理屈で理解したい若者」と「感覚で体得してきた熟練者」との溝が埋まらず、“若手が育たない”“定着しない”という問題が顕著です。

最初は興味や意欲があって入社したものの、思った以上の難しさやプレッシャー、十分なフォローが受けられない現実に直面し、短期間で辞めてしまうケースも多くなっています。

現場の高齢化と未来への不安

油脂分留の技術や経験を持った熟練者の多くが50代、60代になっています。

その引退や定年退職が現実味を帯びてきていますが、新しい世代が十分に育てられないままだと“技の空白”が生まれてしまう可能性が高まります。

現場では「自分たちの技術を誰が次代に伝えるのか?」という危機感すら生まれています。

人材育成における課題と改善ポイント

暗黙知の形式知化の必要性

これまで熟練者の勘や経験則に頼っていた部分を、現代のテクノロジーやデータで可視化し、「誰でも理解できる・共有できる知識」に変える作業が欠かせません。

たとえば分留工程での温度や圧力変化、各区分での油分配率などを細かくログデータとして残し、それを基に標準操作手順やトラブルシューティングマニュアルを策定していくことが有効です。

また、動画や写真、音声記録など多様なフォーマットで情報を蓄積することで、言葉だけでは伝わりづらい現場感やリアルなイメージも共有しやすくなります。

デジタル技術の活用による省力化

IoTセンサやAIによる画像分析、工程管理の自動化システムなど、デジタル技術の導入が進みつつあります。

これにより、熟練オペレーターの「目利き」や「音の違いによる異常検知」のような感覚的スキルの一部を、AIによる監視やアラートで担保できます。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、現場での負担軽減や新たな教育手法の確立にもつながります。

教育カリキュラムの刷新と多様化

これまでの“現場で見て覚える”という旧来型OJTから、eラーニングやVR(バーチャルリアリティ)を活用した疑似体験型教育へのシフトも有効です。

理論理解からシミュレーション体験、実地研修までを組み合わせ、階層別・段階別に無理なく習熟できるカリキュラム設計が求められています。

また、離職防止にはキャリアパスや役割分担、評価制度の見直しも欠かせません。

現場の本音と今後の展望

現場が本当に求めていること

分留現場の担当者の多くは、「理屈を説明しないと納得しない若い世代」と「感情で体得してきた自分たち」のギャップを強く感じています。

どちらの方法論も否定できません。

大切なのは、双方の強みを生かせるような柔軟な教育体制の構築です。

また、「自分の持つ技術や経験を、会社の資産として次世代に残したい」という声も多く上がっています。

ですが、日々の忙しさや、危機感の共有不足、情報インフラの遅れなどによって、具体的な仕組み作りが進んでいない現状も事実です。

業界全体としての取り組みの必要性

今では一企業だけで問題解決するには限界があり、同業他社や学会、行政との連携も重要となっています。

たとえば分留工程の標準化や技術交流、教育プログラムの共同開発、研修施設やコミュニティの整備など、業界横断的な取り組みが今後の人材育成のカギとなるでしょう。

これにより、個別企業だけでは難しかった「次世代技術者のすそ野拡大」を実現できます。

自動化・リモート化の未来と人の役割

自動化・スマート化が進展する中でも、現場の微妙な判断や新しいトラブルへの対応、改善・工夫を重ねる姿勢は人間ならではの強みです。

AIや設備だけでは担いきれない部分を、いかに人がフォローし、逆に人にしかできない高度な付加価値に特化していくかが問われます。

油脂分留の現場も大きな転換点を迎えており、「変わるところは変える、守るべきところは守る」ことが求められています。

まとめ:難しさを乗り越え現場に活力を

油脂の分留工程は、高度な専門性と現場感覚を要する難度の高い作業です。

人材育成が追いつかず、現場の負担やリスク、高齢化による技術継承の停滞という課題にさらされてきました。

しかし、現場で働く一人ひとりの本音は、「技術も人材も、きちんと次代につなげたい」という前向きな想いにあふれています。

暗黙知の可視化・省力化技術の導入・教育の多様化・産業横断的な連携など、できるところから一歩ずつ進めていくことが重要です。

油脂分留の現場が本来持つ底力を生かし、次世代へつなげる明るい未来をつくりましょう。

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