機能性加工が後工程のプレスで剥がれてしまう現実

機能性加工が後工程のプレスで剥がれてしまう現実

機能性加工とは、金属材料や樹脂、フィルムなどの素材に特殊な機能を付加するために施される表面処理やコーティング、塗装などの加工のことを指します。

耐摩耗性や耐腐食性、撥水性、導電性など多様な特性を与えることができ、現代のものづくりには欠かせない技術です。

しかし、せっかく付加した機能性もその後の製造工程、とりわけプレス加工の段階で剥がれてしまうという問題が現場では多発しています。

これは決して特殊な例ではなく、多くのメーカー、加工業者にとって喫緊の課題となっている現実です。

この記事では、機能性加工がなぜプレス工程で剥がれやすいのか、その原因と現場での実例、対策や今後の展望について詳しく解説します。

機能性加工の主な種類と役割

まず機能性加工にはどんな種類があり、製品にどのような付加価値を与えうるのかを整理します。

代表的な機能性加工の例

機能性加工と呼ばれるものには以下のような代表例があります。

・耐摩耗性コーティング(ナノコーティング、ハードクロムメッキなど)
・防錆処理(亜鉛メッキ、クロメート処理など)
・撥水・撥油コート(フッ素樹脂コートなど)
・導電性コーティング(銀・銅メッキ、導電性インクなど)
・帯電防止処理(帯電防止剤塗布など)
・反射防止膜(光学用途)
・抗菌・抗ウイルス加工

これらはいずれも製品や部品の寿命を延ばし、外観の美しさや使いやすさ、安全性といった様々な要求に応える機能を付与します。

機能性加工が必要となる場面

機能性加工は次のような場面で強く求められます。

・自動車部品や家電製品の金属・樹脂部品
・産業機械や医療機器の精密パーツ
・食品や医薬品の包装材(抗菌・防湿)
・半導体、電子部品の基板や筐体
特に高付加価値化、高機能化が進む現代の製品では、機能性加工の有無が部品性能や評判、競争力を決定づける要素となります。

後工程のプレス加工で機能性加工が剥がれる要因

せっかくの機能性加工が、後工程であるプレス加工時に剥がれてしまう事例は極めて多く報告されています。

この問題にはどのような要因が潜んでいるのでしょうか。

機能性被膜の物理的耐性不足

従来、機能性膜やコート層は薄膜で形成されることが多く、数ミクロンから数百ナノメートル単位で成膜されます。

プレス加工時に加わる引張応力、せん断力、圧縮力に対し、以下のような脆弱性が露呈します。

・基材と被膜の密着力不足による界面剥離
・プレスの曲げや絞りによる膜の亀裂、ピンホール発生
・高圧力による機械的剥離

特にエッジ部やカド部では応力集中が起きやすく、膜が割れたりフレーク状に剥がれたりする事例が後を絶ちません。

プレス工程における潤滑剤・防錆油の影響

プレス加工では金型と素材の潤滑性や防錆を保つ目的で油剤やグリース、離型剤が用いられます。

これら油剤が被膜と基材の界面に僅かでも残っていると、機能性膜の密着性が著しく低下し、加工中に界面剥離が生じやすくなります。

一方、事前に洗浄して油分を完全除去する工程を省略した場合も同様に剥離が起こりやすくなります。

熱による機能性膜の劣化

プレス金型や材料の摩擦によって加工部が高温となる場合、熱に弱い機能性膜は軟化・熔融・分解が生じることがあります。

例としてフッ素樹脂や一部の有機樹脂コートは120℃程度で性能劣化を始めるものもあり、これによって膜が加工応力に耐えきれず剥がれてしまうのです。

プレス方向・条件と被膜性能のミスマッチ

プレス加工の種類(曲げ加工・絞り加工・圧縮加工など)や、加工速度・加圧力・パンチやダイの形状・クリアランスなどの条件によっても、膜の損傷しやすさが大きく異なります。

事前にプレス条件に合わせた適切な膜種や処理方法を選択せず、一般的な機能性加工を行ったのみでは、不可避的に剥離が生じやすくなります。

実際に発生している現場での剥離トラブル

工場現場や加工製造ラインにおける剥離問題の実例について紹介します。

自動車部品での剥離事例

たとえば自動車のサスペンション部品用の防錆クロメート処理を事前に施した鋼材を、後工程でプレス絞り成形したところ、エッジ部や絞り部でコートの割れや剥がれが多発しました。

納品後、塩水噴霧試験で該当部位から錆が著しく発生し、市場クレームとなるケースが散見されています。

電子部品の導電膜剥離

某大手電子メーカーでは、筐体部品に導電性メッキを施した後、プレス加工で打ち抜きや折り曲げを実施したところ、導電膜が想定よりも簡単に脱落。

通電不具合やノイズ・EMC障害の発生要因となり、品質不良率が上がった例があります。

食品包装フィルムの抗菌層剥離

多層ラミネート包装材のうち、抗菌・防臭用のコーティングを事前に塗布したフィルムを、後から抜き型やヒートシール機で加工した場合、局所的なコート剥離が発生。

結果として抗菌性能のばらつき、包装材の規格外品増加につながっています。

プレス剥がれ問題への対応策

では、こうした剥離トラブルを根本から防ぐためにはどのような改善が求められるのでしょうか。

加工順序・工程設計の見直し

最も確実なのは機能性加工の工程を「プレス完成後」に回し、最終形状になった製品に対して機能性膜を施す方法です。

塗装や蒸着、電着メッキなどは、特に複雑な絞りや曲げ部にも均一に被膜形成できるよう、全数処理やインライン化の検討が求められます。

ただし複雑形状や大量生産時には工程再設計コストがかかるため、小ロットや高付加価値品での適用が現実的です。

プレス適応性の高い機能性膜の採用

プレス時の応力や熱に強い新規の被膜材料や成膜プロセスを選定することも重要です。

・基材との密着力を高める下地処理(アンダーコート・プライマー)の適用
・厚膜化による応力緩和
・自己修復性や高靭性を有する新規材料の採用
などにより、現状の剥離リスクを大幅に低減できます。

プレス加工条件の最適化

・金型の表面粗度を微細化し、摩擦・カジリを防ぐ
・加工速度や圧力を段階的に調整し、突発的な応力集中を回避
・潤滑剤と機能性膜との相性を事前に検証する
こうした細やかな条件コントロールによって、被膜表面への損傷や密着低下を防ぎます。

積極的な事前評価・シミュレーション

近年はCAE(コンピュータシミュレーション)や試作時のプレス試験・膜剥離テストによる事前評価を重視する企業が増えています。

最終用途や加工条件を想定した加速試験を行うことで、実運用での剥離不具合リスクの予測・低減が可能です。

今後の技術動向と展望

益々高度化・複雑化する製品要求に応えるため、今後プレス加工と機能性加工の最適連携は大きなテーマとなります。

被膜材料の分野では、ナノコンポジット技術や耐熱・高靭性材料、密着制御界面技術などの研究が活発です。

プロセス技術面では、インライン・オフラインでの自動品質モニタリング、AI活用による加工条件最適化が進み、剥離のリスクを可視化・低減する動きも加速しています。

設計、加工、機能性評価が分断されていた従来の分業構造から、設計段階から生産・仕上げ・品質保証までを統合的にマネジメントする「トータルエンジニアリング」へのシフトも今後求められるでしょう。

まとめ

機能性加工とその剥離問題は、今や自動車・家電・エレクトロニクス・医療用など幅広い分野で深刻な課題となっています。

最も重要なのは「機能性被膜を安易に前工程で済ませない」「あらゆる工程連携を意識したプロセス設計」を徹底し、問題の本質に向き合うことです。

素材、膜材料選び、下地処理、プレス条件適合、製品形状と歩留り評価など、複合的な視点で取り組む姿勢が高品質なものづくりには不可欠です。

剥離トラブルを未然に防ぐには、工程間の「掛け算」を意識した柔軟な改善と継続的な技術開発が今後ますます重要となっていきます。

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