GNSS受信機のマルチバンドRTK固定率向上とマルチパス対策
GNSS受信機のマルチバンドRTK固定率向上とマルチパス対策
GNSS(全地球航法衛星システム)は、位置情報の高精度化が求められる現場で不可欠な技術です。
近年では、RTK(リアルタイムキネマティック)方式を用いたセンチメートル級の位置決定が広く採用されています。
しかし屋外作業現場や都市部では、受信衛星信号の品質が様々な要因で劣化することがあり、その最大の障壁がマルチパスです。
この問題を克服し、マルチバンド対応のGNSS受信機でRTKの固定率を向上させるためのポイントを解説します。
マルチバンドRTKの基礎知識
マルチバンドGNSS受信機とは
マルチバンドGNSS受信機は、複数周波数帯域(主にL1、L2、L5など)で衛星信号を同時に受信できる機器です。
従来型のシングルバンド(L1のみ)に比べて、マルチバンドはセルフ補正ができ、誤差要因に対してより強靭です。
特に周波数依存の伝播遅延(たとえば電離層・対流圏遅延)を高精度に補正できるため、応答速度と信頼性が向上します。
RTK方式と固定率の関係
RTKとは、基準局と移動局の2点間で差分情報をリアルタイムでやり取りし、キャリア位相の整数アンビギュイティ(波の周期ずれ)を解決(=固定)することで高精度測位を実現する手法です。
アンビギュイティが正しく解ける瞬間、これを「固定解(fix solution)」、できない場合は「フロート解(float solution)」と呼びます。
現場で最も重要なのは、この固定解に素早く入り、維持することです。
固定率とはRTK測位において固定解を得ている割合を指し、高ければ高いほど運用効率が上がります。
固定率が低下する主な原因
マルチパス干渉
マルチパスとは、人工構造物や地表、樹木などでGNSS信号が反射し、本来の衛星〜受信機間の直線経路以外のルート(=間接波)で到来する現象です。
このため受信信号に余計な遅れや強度変動が混ざり、測位精度を劣化させます。
特にRTKはキャリア位相情報を厳密に測るため、マルチパスの影響を強く受けやすいです。
衛星数・ジオメトリ劣化
都市部のビル陰や樹間下、高架下などではそもそも受信できる衛星数が減少し、衛星配置が偏ります。
これがRTKのアンビギュイティ解決率を下げる大きな要因となります。
その他の要因
電離層や対流圏の異常分布、リファレンス局との距離増大、無線通信品質低下もRTK固定率に影響します。
マルチバンド受信機でRTK固定率を向上させる技術
複数周波数の効果
L1+L2、またはL1+L2+L5などの複数帯域受信は、電離層遅延やノイズへの堅牢性を高めます。
異常環境下でもアンビギュイティ解決に必要な誤差補正情報が増え、固定率が上昇します。
特にL5帯(GPS、Galileo、Beidou)を含めると、高度なマルチパス抑制も可能です。
複数コンステレーションの活用
GPSだけでなく、GLONASS、Galileo、BeiDou、QZSS(みちびき)など、利用可能な全てのGNSS衛星システムを組み合わせることで、受信衛星数が大きく増加します。
これにより都市部や山間部でも十分な衛星ジオメトリを確保でき、固定率が飛躍的に向上します。
高度なアルゴリズムの導入
最新のマルチバンドRTK受信機には、マルチパスをフィルタリングするための自動信号品質評価、ロバストなアンビギュイティ解法、マルチパス領域の自動検出機能が搭載されています。
AI・機械学習技術を使った信号判別なども今後実用化が進む分野です。
現場で役立つマルチパス対策
受信アンテナの工夫
アンテナ本体と設置方法がマルチパス対策の基本です。
・地表や壁面から離し、ポール上・三脚上など7〜10cm以上高く設置する
・地面や反射物が近い場合はグランドプレーン(導電性板)を併用
・円偏波対応、マルチパス抑制用のアンテナを選択
・車両屋根のようなフラットかつ金属面の上に置く場合には専用設計アンテナを用いる
周囲環境の整備
・金属看板や高層ガラス窓、カーポート、電線などのそばを避ける
・設置点付近の遮蔽物や樹枝を剪定・除去する
・作業員や機材がアンテナの至近距離(1m以内)に立たないよう注意する
現場設定と観測運用の最適化
・衛星仰角マスク(推奨15~20°以上)を設定し、低仰角から来るマルチパス波をカット
・高仰角衛星のみでRTK解決を狙う
・観測開始時にはアンテナ設置→1~2分静止で衛星の安定受信を確保
マルチパス判読と事後対策
受信機ログの確認方法
多くのマルチバンドGNSS受信機には、SNR(信号強度比)やサイクルスリップ、アラート記録機能があります。
RTK固定とフロートの切り替わり位置、SNR低下点、cycle slipの増加タイミングを分析し、問題箇所を特定できます。
解析ソフトウェアでの除外処理
現場観測後、後処理ソフト(RTKLIBなど)で低強度衛星や異常値を取り除く「衛星除外」や「マルチパスフィルタ」を用いることで、高品質な成果を得られます。
今後進化するマルチパス対策とRTK固定率向上技術
5G通信の拡大や、リアルタイム衛星軌道・気象情報を利用した補正データ増強サービスが普及しています。
みちびきCLASやPPP-RTKなどの新しい補正手法も、今後マルチバンド受信機でリアルタイムに利用できる見込みです。
また、マルチパス特性を学習し自動で適応除去するAIアルゴリズムの導入が加速しており、これまで困難だった都市部や難環境下でも安定したRTK固定率が実現できるでしょう。
まとめ
マルチバンドGNSS受信機は、複数周波数・複数コンステレーション・高性能アルゴリズムを武器に、RTK固定率を大きく向上させます。
しかしマルチパス環境では、アンテナ設置や現場整備、ソフト面での工夫も重要です。
これらの基礎対策に加え、新技術の導入により、今後RTK計測の現場はますます高精度・高効率となっていきます。
マルチパスを意識した運用と最新受信機活用の両輪で、GNSS測位の精度と生産性向上を実現しましょう。