印刷適性を改善すると抄紙の難易度が跳ね上がる実態
印刷適性の改善と抄紙工程の関係
紙の製造現場では、製品の品質を高めるために「印刷適性」の改善が強く求められています。
しかし、この印刷適性を向上させる試みが、実は生産ラインの中でも最も難易度の高い「抄紙」工程に大きな影響を与えていることはあまり知られていません。
この背景を探りながら、印刷適性の改善が抄紙の難易度を跳ね上げる理由、現場で直面する具体的な課題、そして今後求められる対応策について詳しく解説します。
印刷適性とは何か?
印刷適性とは、紙が印刷工程を通過した際にどれだけ良質な印刷結果が得られるかという性能を指します。
具体的には、インクの発色、にじみや擦れの少なさ、速乾性、裏写りの制御、平滑性、強度など多岐にわたる指標に基づいて評価されます。
特に近年では、オンデマンド印刷やデジタル印刷が普及し、従来以上に高い紙質が求められるようになりました。
印刷適性の高さは、製品サイトでアピールできる重要な訴求ポイントになるため、各製紙メーカーはこぞって技術開発を進めています。
なぜ印刷適性を改善すると抄紙が難しくなるのか
添加剤の増加と工程の複雑化
印刷適性を高めるためには、通常よりも多くの表面処理剤や填料(クレー、カオリンなど)、カチオン性ポリマーや特殊なサイズ剤を紙に添加する必要があります。
これによって、紙の表面性やインク吸収性は明らかに改善しますが、一方でこれらの添加剤は抄紙機での排水や脱水性、紙の均一性にも影響を及ぼします。
例えば、填料分が急増すると抄紙段階での水分保持力が上がり、乾燥工程に負荷がかかるといった副作用が生じます。
抄紙機の運転安定性への悪影響
印刷適性向上のための処方変更によって、抄紙機での紙抄き(水を抜いてシート状に成形する作業)そのものが難しくなる場面が多く発生しています。
特に用紙表面の平滑性が要求される場合、極めて細かな填料やバインダーを使う必要があるため、ワイヤーパートでの抄紙安定性が低下し、紙が切れやすくなる、あるいはマシンサーキュレーションが悪化するなどの課題が表面化します。
厚みや強度とのトレードオフ
印刷適性にフォーカスして配合バランスを見直すと、紙の厚みやヤング率、引張強度とのバランスが崩れがちです。
これにより、オンライン検査で不良と判定される確率が上昇し、生産効率が落ちることも少なくありません。
抄紙の難易度は、「最終品質を落とさずにいかに生産効率を維持するか」に大きく左右されるため、難易度が跳ね上がる主因となっています。
現場で起きている具体的な問題
紙の切れやスリーブロークの増加
印刷適性向上のために配合を大きく変えることで、抄紙機では「紙の切れ」や「スリーブローク」が多発しやすくなります。
紙が途中で切れるたびにラインを一旦停止せざるを得ず、ロスタイムが増加します。
特に、高速抄紙機や超幅広機では安易に印刷適性重視の配合を導入できない実態があります。
厚み・坪量ムラの発生
表面へのコーティング剤、バリア剤、填料の増加は、紙の厚みや坪量のコントロールを難しくします。
結果として、できあがった紙の仕上がりにばらつきが生じやすくなり、等級外として出荷できなくなるケースが発生します。
乾燥工程での大きな負担
脱水性が低下した紙は、乾燥工程において熱ロスが顕著です。
さらに、乾燥ムラや波打ちなどの仕上がり不良が増え、トータルの生産性が大きく下がるリスクを伴います。
高難度抄紙を乗り越えるための現場対応
工程管理の高度化とリアルタイムモニタリング
最先端の抄紙現場では、印刷適性向上のために工程管理そのものを高度化しています。
流体力学シミュレーションやIoTセンサーによる24時間監視体制、製紙薬品の自動定量制御などを取り入れ、極限までロスを減らす工夫がされてきました。
また、製品サンプルのAI判定による品質早期警告システムも普及が進んでいます。
現場チームによる微調整・フィードバック
実際の抄紙現場では、配合のわずかな変更が即座にライン全体へ影響するため、オペレーターの熟練度とチームワークも非常に重要です。
定期的なラインパトロールや異常傾向の即時共有、トライ&エラーによるベストな運転点の模索など、地道な対応が不可欠です。
外部技術との連携
添加剤メーカーや印刷機メーカー、製紙用計測機器のサプライヤー企業と密に連携しながら、スペックインやテストパットの共同実施が多くみられます。
新しい薬品や抄紙ネット、ワイヤーパート部材の導入によって、歩留まり改善や生産ロス低減につなげる動きが活発です。
今後の印刷適性と抄紙の最適バランスとは
印刷適性の改善は、最終顧客からの信頼や製品差別化に直結する一方、抄紙工程全体の負担増大や工程難度の大幅上昇というトレードオフが存在します。
このバランスをいかに最適化するかが、紙業界の競争力強化および持続的成長の鍵となります。
今後は、原材料の高度な選別や特性評価技術、新しい紙質評価手法の導入、そして工程間での情報共有の徹底が必須です。
あわせて、省エネルギー設計や環境配慮型薬品の開発も求められます。
お客様からの期待値が年々上がる中で、抄紙現場での対応力・改善力をいかに磨くかが重要なテーマです。
まとめ:高い印刷適性を生みつつ、抄紙難易度を克服するために
印刷適性の改善が避けられない今、現場では抄紙の難易度上昇という厄介な課題に直面しています。
この実態を十分に理解し、配合・設備・オペレーション・技術導入の各側面から全方位的にバランスを取りながら進化することが業界の命題となります。
最終製品の高品質化と、抄紙現場の生産効率・作業安全の両輪によって、これからの日本の紙づくりはさらに高い付加価値を実現していくことでしょう。