抄紙速度を上げると一気に歩留まりが悪化する構造的理由

抄紙速度の向上と歩留まり悪化の密接な関係

製紙業界における大きな課題の一つに、「抄紙速度を上げると歩留まりが悪化する」という現象があります。
この問題は多くの製紙工場で共通して発生しており、なぜ抄紙速度の向上とともに歩留まりが下がってしまうのか、その構造的な理由を理解することが、効率的な生産体制の構築や利益向上に直結します。
この記事では、抄紙工程の流れや、速度向上が歩留まりへ与える影響、そしてその根本的な構造的要因について詳しく解説します。

抄紙工程の基礎理解

抄紙とは、パルプを水と混ぜてスラリー状にし、これをワイヤーパートに流し込んで水分を抜き、繊維を絡み合わせることで紙を成形するプロセスです。
この抄紙工程には、「ワイヤーパート」「プレスパート」「ドライパート」などの段階があり、それぞれの役割が歩留まりや紙の品質に大きく影響します。

歩留まりとは、投入した原料が最終製品の紙となる割合を指します。
つまり、歩留まりが悪化するということは、原料パルプが紙として残らず、排水や損紙、ロスとして失われる割合が多くなることを意味します。

抄紙機の速度とその制約

生産量を上げるためには、抄紙機の速度、すなわち紙を成形・搬送する速さを向上させることが有効です。
しかし、単純に速度を上げれば良いというわけではありません。
現場では、一定以上の速度に達すると歩留まりが急激に悪化する、という壁が立ちはだかります。
では、なぜこのような現象が発生するのでしょうか。

抄紙速度が歩留まり悪化を招く主な構造的理由

1. ウェブ(紙層)形成の乱れと繊維の脱落

抄紙速度が上がると、ワイヤーパートで紙層を形成する際に十分な時間が確保できなくなります。
繊維が正しく絡み合ってネットワークを形成する前に次の工程に流れてしまうため、微細な繊維やフィラー(充填剤)がワイヤー目から抜け落ちやすくなります。
これは、ニップ部分での水切れ効率が低下し、微細分が白水として排出される割合が増加することが原因です。
この現象こそが歩留まり悪化の第一要因です。

2. 白水系(回収水系)能力の限界

抄紙工程で排出される白水は再利用・回収されますが、高速化に伴って一度に排出される白水量が増加します。
しかし、この白水系の処理能力には限界があります。
処理が追いつかなくなると、システム全体から微細分が流出する度合いが高まり、繊維やフィラーの回収効率が低下します。
このため、原料として投入した繊維が最終的に紙として残る割合が減少し、歩留まりが悪化します。

3. 強制乾燥による乾燥ロスの増大

抄紙機の速度が上がると、ワイヤーやプレス部で十分に水分を抜き切れず、ドライパートへ多量の水分が持ち込まれます。
その結果、ドライヤーへの負荷が増加し、紙の表面で急激な乾燥が進行します。
この急速な乾燥は、表面繊維やフィラーの剥離を引き起こしたり、紙とロールの間で剥がれが発生したりすることで、損紙(不良紙)が多発します。
これらは全て歩留まりにネガティブな影響をもたらします。

4. 紙質(均一性)の低下と機械的トラブル

抄紙速度を上げたことで、紙層の繊維配向やフィラーの分布が乱れます。
その結果、紙の表面に斑点やムラ、弱い箇所ができやすくなり、後工程のカッターや巻き取り中に破れやすい紙となります。
これにより、設定外の損紙やブレーク(紙切れ)が多発し、歩留まりが一段と悪化します。

5. ケミカル添加の限界

歩留まりを維持するために、ワイヤーパートに保持剤や補助剤などのケミカルを多用するケースが増えます。
しかし、速度が上がりすぎるとケミカルの分散や効力が追いつかず、保持率や脱水効率が思うように改善できないことがあります。
また、過剰なケミカル添加は逆に紙質や工程安定性を損ねる場合も存在します。

速度と歩留まりの最適バランスの見つけ方

生産効率重視で速度を追求しても歩留まり悪化による原料ロスや損紙増加がコスト圧迫に直結します。
したがって、抄紙機を運用する上では「許容可能な歩留まり水準と生産速度」のバランスが最も重要となります。

歩留まり維持のための代表的対策

・白水の回収・処理能力の増強化(水処理設備増強や濃度管理)
・保持剤などケミカルの最適化(種類、投入量、投入ポイント)
・原料パルプのレシピ適正化(長繊維・短繊維比など)
・抄紙機構造の見直し(ワイヤー長さ、プレス配置、乾燥ゾーンの制御力アップ)
・オンライン計測機器でのリアルタイム監視と迅速なフィードバック

現場ではこれら複数の項目を組み合わせて総合的に管理することで、抄紙速度と歩留まりの最適ゾーンを維持していくことが求められます。

今後の抄紙プロセス改善のポイント

製紙業界では、人手不足や原料高騰、生産コストの増大といった経営環境の変化が続いています。
そのなかでも「抄紙速度の最適化」に取り組む意味はますます大きくなっています。

AIやIoTを活用した装置連携や、オンライン品質モニタリング、ビッグデータを活用した生産情報解析など、最新のデジタル技術が抄紙プロセスにも積極的に導入されています。
これにより、歩留まり低下の予兆をリアルタイムに検知したり、原料やケミカル投与の自動最適化、トラブル発生時の迅速な原因特定が可能となりつつあります。

また、紙質や歩留まりの向上には、原料パルプそのものの改良や、抄紙機の物理構造自体の見直しも今後の重要なテーマとなるでしょう。

まとめ:抄紙速度と歩留まりの構造的課題を理解し、戦略的に対応を

抄紙速度の引き上げは生産性向上の有力な手段ですが、それに伴う歩留まり悪化には「繊維・フィラーの流出」「白水システムの過負荷」「乾燥ロス増加」「機械的トラブル増」「ケミカル効力減退」など、複数の構造的要因が複雑に絡みます。

この現象を根本から解決するためには、工程の全体最適、生産条件の幅広い見直し、リアルタイムデータの活用など、多面的な対策が不可欠です。
自社の設備・原料・生産計画に合ったカスタマイズと現場の不断の改善努力が、歩留まり・品質・収益すべてをバランスよく高めるカギとなります。

今後も、最新技術・先進的な知見を積極的に取り入れながら、高速生産と高歩留まりを両立する製紙現場づくりを進めていくことが重要です。

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