印刷機の温度上昇でインキが柔らかくなり品質が乱れる理由
印刷機の温度上昇がインキに与える影響とは
印刷現場において、安定した品質を維持するためには、さまざまな要因をコントロールすることが必要です。
その中でも、印刷機の稼働によって発生する「温度上昇」は、インキの性質や印刷品質に大きく関わる重要なポイントです。
印刷機の温度が上昇すると、使用しているインキが柔らかくなりやすくなります。
その結果、印刷物の品質が乱れる事例が後を絶ちません。
本記事では、なぜ温度上昇によってインキが柔らかくなり、品質トラブルの引き金となるのかを詳しく解説します。
インキの性質と温度の関係
インキの組成と状態変化
印刷用インキは、主に顔料、樹脂、溶剤、添加剤から構成されています。
この中で、インキの粘度や柔らかさを左右する大きな要因は「樹脂」と「溶剤」です。
また、これら成分の化学的性質は「温度」に強く影響されます。
インキの粘度は、温度が高まると低下しやすくなります。
逆に温度が低い環境下では、インキは粘度が高く硬い状態を保ちやすくなります。
これは、インキ中の樹脂や溶剤が、温度変化によって分子の動きや粘度を変えることに起因しています。
そのため印刷機の温度が上昇すると、インキが本来の設計よりも柔らかくなりやすいのです。
現場でよくあるトラブルと温度管理
印刷工場では、機械の稼働によってローラーや胴体、周辺装置が発熱します。
特に長時間にわたり高速運転を続けると、インキローラー部やインキ溜まりの温度が上昇し、インキの柔らかさが急激に進行します。
その結果、機械が停止状態から稼働状態へ移ったときと、連続運転後の状態では明らかにインキの状態が異なります。
作業者の間では、「午前と午後で刷り上がりの色が違う」「開始時より濃度ムラやカスレが出やすい」といった声も多く、温度上昇によるインキの性状変化が品質に直結していることが分かります。
インキが柔らかくなることで起きる品質乱れのメカニズム
インキの転写性と付着性変化
インキは、適度な粘度と柔軟性によって、印刷機上で安定した転写(紙やフィルムへインキを転がす動き)を実現しています。
しかし、温度が上がって柔らかくなったインキは、紙や版に広がりやすくなり、付着量が増加しがちです。
その結果、インキ溜まり・ローラー・ブランケット(版と紙の間にインキを中継する部品)での転写バランスが乱れ、以下のようなトラブルに発展します。
- 網点(ドット)が太る(ドットゲイン)
- 紙面上のインキ濃度が不均一化する
- セットオフ(重ねたときに裏移りする)が起こりやすくなる
- 細線や文字部分のにじみやカスレの発生
こうした現象は、刷り出し当初は良好でも、徐々に品質のバラツキや不具合へと発展し、最終的に製品の歩留まりを低下させる原因となります。
見落とされやすいインキ硬度の経時変化
朝一番や機械の始動時には、温度が安定していてインキも粘度が高めの状態です。
しかし、連続稼働や外気温の変化、室温上昇など様々な要因が重なることで、同じロットのインキでも時間経過とともに柔らかくなりやすい特徴を持ちます。
特に夏場や、全館空調が効きにくい印刷工場では、午前と午後、またはロットごとに仕上がり状態が異なりやすいのはこのためです。
品質を一定に保つ上で、「インキ硬度の変化を監視」することが欠かせません。
温度上昇を抑える具体的な対策
印刷機本体の冷却・温度管理
印刷機が発熱し、インキ部分の温度が上昇しすぎないように以下の対策が有効です。
- インキローラー冷却装置や循環式冷却水システムの導入
印刷機メーカーによっては、インキローラーや主胴体に冷却システムを搭載できるオプションがあります。これにより、安定した適温状態を維持しやすくなります。 - 作業場の空調・換気の徹底
夏場や湿度の高い時期には特に、室温管理を徹底することが大切です。局所的に空調でスポット冷却する工夫も効果的です。
インキの性状・保管方法の見直し
印刷現場で使用するインキ自体も、作業前に冷暗所で保存し、本来の適正温度(15〜25℃程度)に保つことが推奨されます。
また、メーカーやブランドによって耐熱性や粘度変化の度合いが異なる場合もあります。
可能な限り、温度変化の少ないインキを選定することや、必要であれば現場状況に合わせてインキメーカーに相談するのもおすすめです。
現場での微調整と工程管理
印刷中にインキの柔らかさを感じた場合、インキローラーや伝達部への注油やクリーニングによる“熱だまり”の防止が重要です。
また、運転スピードや印圧など、印刷条件を適宜調整する運用も品質安定化に寄与します。
日報や工程管理シートに印刷機の稼働温度、仕上がり状態、インキ粘度の変化などを記録し、問題発生時のフィードバック体制を整えることも効果的です。
まとめ:温度管理が印刷品質の安定に不可欠
印刷業においては、「いつ・どんな条件でも均一な品質を保つこと」が顧客信頼や生産効率の鍵となります。
そのためには、印刷機の温度管理とインキ性状の変化をしっかりと監視することが必要不可欠です。
特に、印刷機の長時間稼働や夏場の高温環境では、インキが柔らかくなりやすく、品質が乱れるリスクが高まります。
温度上昇を抑えるための機械設備やインキ保管、作業現場の空調環境、現場での細かな調整が品質安定や製品トラブル防止に直結します。
日々の現場での取り組みやちょっとした気遣いが、大きな製品クレームやロスを未然に防ぐことにつながります。
今後も、印刷現場での品質向上を目指す方は、「温度上昇」と「インキの柔らかさ」に着目し、機械・材料・オペレーションの最適化に取り組んでみてください。