石炭の灰の融点が低くスラグ化しやすい問題

石炭の灰の融点が低くスラグ化しやすい問題とは

石炭は世界中の火力発電所や製鉄所などで重要なエネルギー源として使用されています。
しかし、石炭を燃焼させる過程で生じる「灰(アッシュ)」には、その構成成分や物理特性によっていくつもの技術的課題が存在します。
中でも、灰の「融点が低くスラグ化しやすい」という問題は、設備運用やメンテナンス、生産効率に大きな影響を与えます。

本記事では、石炭灰の融点が低くスラグ化する現象について、問題点、発生メカニズム、影響、対策方法などを分かりやすく解説します。

石炭灰とスラグ化の基礎知識

石炭灰とは何か

石炭灰は、石炭中に含まれて燃焼時に残る無機物の総称です。
これは、主にシリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)、カルシウム(CaO)、マグネシウム(MgO)、カリウム(K2O)、ナトリウム(Na2O)などから構成されています。
石炭を完全に燃やすと有機物は消失し、無機物成分が灰となって残ります。
灰分含有率は石炭の種類や採掘場所によって異なり、1~20%程度の範囲に分布します。

スラグ化とはどういう現象か

スラグ化とは、灰が高温で溶融し、ねばりけのある粘性流体(スラグ)に変化する現象を指します。
このスラグはボイラーや炉内で壁面などに付着しやすく、冷え固まると硬いガラス質の堆積物となります。
スラグの形成メカニズムは、燃焼温度が灰の「融点」を上回った場合に起きやすいです。

灰の融点が低いとどんな問題が起きるか

設備の運転トラブル

灰の融点が低い石炭を使用すると、燃焼炉内の運転温度(一般に1000~1500℃)でスラグ化が容易に発生します。
スラグがボイラー管や壁面に付着すると、熱伝導率が低下し、ボイラー効率を大きく損ないます。
また、スラグ付着によって煤吹きや保守作業の頻度が増え、予定外の停止や操業コストの上昇につながります。

熱交換器やダクトの目詰まり

スラグ化して流動化した灰分が下流に流れ出すと、熱交換器や灰排出装置、ダクトなどの機器を詰まらせます。
これにより煙道の圧力損失が増大したり、灰分の搬出作業の手間が増加する要因となります。

燃焼効率の低下

スラグがストーカ―炉や流動層炉の炉床に付着すると、通気が悪くなり燃焼反応の阻害や未燃炭の発生につながります。
結果として発電効率やエネルギー利用率が悪化します。

メンテナンスコストの増大

スラグによる堆積物が機器の摩耗や腐食を促進し、設備の寿命を短縮します。
定期的な除去、交換作業も多くなり、保守コストが嵩みます。

なぜ石炭の灰の融点が低くなるのか

灰の化学組成が影響

灰の融点はその主成分の化学組成構成に大きく左右されます。
一般的に、ケイ酸(SiO2)やアルミナ(Al2O3)が多いと灰の融点は高くなります。
それに対して、カルシウム(CaO)、鉄(Fe2O3)、カリウム(K2O)、ナトリウム(Na2O)などのアルカリ成分が多い場合、これらはケイ酸塩やアルミン酸塩として「融点を下げるフラックス」の働きをします。
特にカリウムやナトリウムは、ケイ酸に比べて融点が低くなりやすいため、灰全体の融点を大きく下げてしまいます。

石炭の産地・種類による差

石炭は産地によってその灰分組成が大きく異なります。
たとえば、中国内モンゴルやインドネシア産の一部の石炭は、アルカリ成分が多く灰の融点が比較的低い傾向にあります。
逆に、オーストラリアやアメリカ産の高品位石炭は、一般に灰の融点が高くスラグ化しにくい性質を持ちます。

スラグ化問題の評価・指標

灰融点試験による評価方法

炉の運用現場では、供給する石炭の灰融点を事前に把握することが重要です。
そのため、「灰融点試験」という標準的な評価方法が利用されています。

この試験では、精製した石炭灰のサンプルを棒状に成型し、酸化雰囲気下または還元雰囲気下で徐々に加熱します。
灰が「軟化点」「半球点」「流動点」と段階的に変化する温度を測定します。
特に、実用上は「半球点」(灰が丸く盛り上がって円形になった温度)が重要な指標とされ、これが運転温度を下回っているとスラグ化のリスクが高まります。

Slagging指数(スラッギングインデックス)

灰の化学的な成分(アルカリ分/ケイ酸比など)を用いたスラグ付着性の評価式も各種提案されています。
代表的なものには、「B/A指数」「R・S指数」などがあります。
これらの値が高いとスラグ化しやすいとされます。

発電所・工場での具体的なスラグ化対策

石炭ミキシングによる調整

融点が低い石炭単独で使うのではなく、灰融点の高い石炭と混合することで灰の全体的な融点を上げる方法があります。
これにより複数産地の石炭を最適にブレンドし、スラグ化リスクを軽減できます。

燃焼条件や炉内温度の最適化

炉内の燃焼温度管理や空気比の調整により、灰が融点を超えて溶融しないように運用できます。
特に、過剰空気や燃焼空気の分配を最適化することで部分的な高温発生を防ぐことができます。

灰溶融抑制剤の添加

セラミックや石灰石など一部の化合物を添加することで、灰の組成を変え融点を高く改質する手法もあります。
特に、石灰石添加は硫黄酸化物(SOx)対策にも有効であり、一挙両得のメリットがあります。

炉構造や付着防止装置の改良

炉壁に付着しにくいコーティング材や、スラグがはがれやすい構造のボイラー設計など、ハード面でも対策が進んでいます。
スートブロワやウォータージェット、機械式スクレーパー装置の設置で、付着したスラグの効率的除去も実現できます。

定期的なメンテナンスと監視

スラグ堆積は初期段階で対処するほど除去が簡単です。
運転データから炉壁温度や圧力損失を細かく監視し、異常兆候があれば即時清掃や運転条件の修正を行うことが重要です。

今後の課題と最新動向

低品位石炭利用の増加

エネルギーコスト削減や資源有効活用の観点で、灰融点が低い低品位石炭の活用が今後増加していく傾向にあります。
これに対応するため、灰融点改質技術や混焼技術がさらに重要になります。

AI・IoTによる運転自動化

近年はAIを活用し、炉内温度分布や煙道灰の組成をリアルタイムでモニタリングするシステムも登場しています。
これにより、融点低下やスラグ化の兆候を早期検知し、最適運転へと自動調整することも可能です。

環境規制とのバランス

石炭ボイラー運用では、NOxやSOx、ばいじんなどの環境規制も強化されています。
灰成分の調整や改質によってスラグ化を抑制すると同時に、環境負荷低減にも配慮した技術開発が必要です。

まとめ

石炭の灰の融点が低くスラグ化しやすい問題は、発電所や工場など多くの産業現場で避けて通れない技術課題です。
原因は石炭灰のアルカリ分や硫黄分など化学組成にあり、単純に石炭を燃やすだけではなく、燃焼管理や原料ブレンド、設備改良など多角的な対策が求められます。
今後も低品位石炭の利用増加、新しい発電技術の開発、そして環境配慮型運転との両立など、より高度な運用ノウハウとイノベーションが必要とされることでしょう。

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