重油の硫黄値を下げると燃焼性が悪化するトレードオフ

重油の硫黄値と燃焼性の関係

重油は発電所や船舶の燃料、ボイラー用燃料として広く使われており、その品質はさまざまな指標によって評価されます。
その中でも重要な要素の一つが「硫黄分含有率」です。
硫黄値とは、重油1kgあたりに含まれる硫黄の量(%)を意味します。

重油に含まれる硫黄分は、燃焼時に硫黄酸化物(SOx)として大気中に放出され、これが大気汚染物質や酸性雨の原因となるため、世界的に低硫黄重油が求められています。
しかし、硫黄値を下げることにはメリットだけでなく、燃焼性の悪化というトレードオフが存在します。
本記事では、重油の硫黄値を下げることによる燃焼性への影響について詳しく解説します。

重油中の硫黄分の役割

硫黄は、石油が地中で生成される過程で有機物に取り込まれた元素の一つです。
重油中の硫黄分には次のような役割や特徴があります。

1. 燃焼助剤としての側面

硫黄そのものは、必ずしも燃焼促進剤ではありませんが、重油に含まれる硫黄化合物の一部は着火性や燃焼効率の向上に寄与する場合があります。
熟練したエンジニアや船舶の運航担当者の間では、硫黄値のある程度高い重油の方が着火や燃焼が安定すると経験的に語られています。

2. 有害物質排出源としてのデメリット

一方で、重油燃焼時に硫黄分がSOxに変わり排出されることで、大気汚染や環境負荷が深刻になります。
このため、国際海事機関(IMO)など世界的な規制機関は年々重油の硫黄値の上限を引き下げています。

燃焼性の指標とは

燃焼性とは、燃料が着火しやすく安定して燃焼を継続できる能力のことです。
燃焼性の良し悪しは、以下のような要素で評価されます。

セタン価/着火性

燃料が高温高圧の環境で素早く着火する能力(セタン価など)が燃焼性指標になります。
重油はディーゼル油や灯油などと比較してセタン価が低く、さらに燃焼性の指標が重要視されます。

残留炭素分

燃焼後にどれだけ炭素が燃え残るかも、燃焼性の指標です。
不完全燃焼を起こしやすい燃料は、燃焼性が悪いとされます。

粘度・引火点・水分含有量

粘度が高すぎたり水分が多いと、燃焼効率が下がりやすい点も燃焼性に関係します。

重油の脱硫(低硫黄化)とその技術的背景

硫黄値を下げるためには「脱硫プロセス」が必要となります。
ここでは、脱硫の主な手法とその影響を説明します。

水素化脱硫(HDS)

もっとも一般的な脱硫技術が水素化脱硫です。
重油や原油に水素と触媒を作用させ、硫黄を硫化水素として除去する方法です。

この脱硫過程により、硫黄化合物のみならず芳香族や一部の着火補助成分(窒素分など)も減少する場合があります。
これが燃焼性の悪化につながりやすいのです。

混合/ブレンドによる低硫黄化

高硫黄重油に低硫黄の重油や精製品を混ぜることで全体の硫黄値を低減させる手法もあります。
しかし、この際に燃料性状のバランスを崩し、燃焼安定性や粘度・流動性に影響を与えるリスクがあります。

低硫黄重油の燃焼性が悪化する理由

重油の脱硫・低硫黄化が燃焼性にどのような影響を及ぼすのか、主な理由を解説します。

1. 着火・燃焼補助成分の減少

脱硫処理によって、重油の中に存在する硫黄化合物のみならず、着火や燃焼に寄与していた成分(窒素化合物、酸素化合物、芳香族成分など)も副次的に減ってしまう場合があります。
これにより、燃料の着火温度や燃焼範囲、発熱特性が悪化しやすくなります。

2. 粘度変化によるミスト化の難易度増

脱硫によって重油の粘度が変化すると、燃焼機器内での霧化(ミスト化)がうまくいかなくなる恐れがあります。
ミスト化が不十分になると、燃焼効率が下がり、燃え残り(ススや未燃炭素)が増加します。

3. 発熱量・カロリーの低下

脱硫と併せて他成分も取り除かれるため、全体の発熱量が若干下がることがあります。
発熱量が落ちると、同じ熱量を得るために多くの重油を消費する必要がでてきます。

現場での具体的な燃焼トラブル例

低硫黄重油を導入した現場で実際に報告されている燃焼トラブルは以下のようになります。

ボイラー火炎の不安定化

燃焼炎が立ち消える、火炎の伸びが弱い、着火に失敗するというようなトラブルが増加することがあります。
着火が安定しないことで、窯内の温度が不足し、結果的に設備全体の効率が悪化します。

スラッジ・デポジットの増加

燃焼が不完全になることで、燃え残り成分であるススやスラッジが発生しやすくなります。
これにより、コンバスチョンシステムや配管詰まりなどのメンテナンスコスト増加要因となります。

エンジン内のトラブル

低硫黄重油使用時にシリンダー内の潤滑量が不足し、摩耗や焼き付きリスクが高まるといったエンジントラブルも発生しています。

燃焼性の悪化を防ぐ対策

低硫黄重油の使用を進める中で、燃焼性悪化というトレードオフへの対策も講じられています。

燃焼促進剤の添加

着火・燃焼を助けるため、金属系や有機系の燃焼促進剤を少量添加して、着火促進や安定燃焼を図る方法があります。

燃料加熱・霧化技術の高度化

霧化ノズルの改良や、重油自体をより高温で加熱するなど、重油のミスト化を確実にし、より完全燃焼を実現します。

運用・管理方法の見直し

着火温度・ボイラー圧力などを再設定し、低硫黄重油に最適化した運転条件を見つけることも重要です。
また、適切なブレンドや粘度管理、加温管理も欠かせません。

環境対応と燃焼効率のバランス

今後も世界的に重油の低硫黄化は不可避の流れですが、一方で燃焼効率や運用コストとのバランスも議論されています。

IMO規制と各国の対応

2020年1月1日から、国際海事機関(IMO)が採用した「グローバル硫黄キャップ」により、海上船舶燃料の硫黄上限が0.5%(従来3.5%)まで大幅に引き下げられました。
日本国内でも重油の硫黄基準は段階的に下がっています。

新しい燃焼技術とエネルギー転換

重油自体の性状改良に加え、ガス燃料やバイオ燃料など低公害エネルギーへのシフトも進行中です。
また、燃焼装置本体の設計見直し、エンジン・ボイラーの改良も進んでいます。

まとめ

重油の硫黄値を下げることは、SOx排出削減という環境負荷低減のために必須となっていますが、一方で燃焼性・燃焼効率の悪化というトレードオフが生じやすいことが分かります。

燃焼性の低下は、着火・燃焼安定性や残留物増加、機器メンテナンスコスト増加などの形で現れます。
その対策として、燃焼促進剤使用や燃焼技術改良、運用条件の最適化が不可欠です。

今後ますます厳しくなる環境規制下でも、適切な対応によって「環境保全」と「燃焼性・運用効率」の両立を図ることが求められます。
現場に即した対策と知識のアップデートが重要です。

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