OCT血流イメージングのスペックルトラッキングとモーション補正

OCT血流イメージングとは

OCT(Optical Coherence Tomography:光コヒーレンストモグラフィ)は、生体組織の断層画像を非侵襲的に撮影できる先端的なイメージング技術です。
特に医療分野、なかでも眼科領域で網膜や視神経乳頭などの詳細な描出に活用されています。
近年ではOCTの機能を拡張し、血流を可視化する「OCT血流イメージング」技術も急速に発展しています。

OCT血流イメージングでは、従来のOCTと同じく組織構造を高解像度で描出しつつ、そこに流れる血液、すなわち毛細血管レベルの微細な血流情報まで取得することができます。
この血流イメージングを可能にした技術の核心の一つが「スペックルトラッキング」です。
しかし、検査中の微細な動き(主に眼球運動や生理的な体動)は、画像にモーションアーチファクトをもたらし正確な血流イメージの取得を妨げる要因となります。
このため「モーション補正」も不可欠な要素となっています。

OCT血流イメージングのスペックルトラッキングとは

スペックルトラッキングとは、OCTで取得した複数の断層画像(B-scan)間の「スペックルパターン(干渉縞)」の変化を追跡することで、血流状態を可視化する画像解析手法です。
OCTは微小な構造体や粒子に当たった光の干渉で特徴的な斑点状パターン(スペックル)を生じます。
このスペックルは比較的短時間では動かない固有組織に起因する部分(Static speckles)と、血流などの動的な成分による部分(Dynamic speckles)に分かれます。

OCT血流イメージングでは同一の箇所をわずかなタイムラグを置いて連続撮影し、スペックルパターンの時間的な変動を抽出します。
このパターンの揺らぎや変化が「血流」に伴うものと判断されれば、その領域を血流ありと識別するのです。
この方法は「スペックルバリエンス」や「デコリレーション法」と呼ばれており、OCTA(OCT Angiography)の基本アルゴリズムです。

スペックルトラッキングの原理とアルゴリズム

スペックルトラッキングの基本的なアルゴリズムは次の通りです。

1. ある断層スキャン(B-scan)位置を連続で複数回高速撮像します。
2. 同一座標で得られた複数のデータ間で信号強度やパターンの変化(VarianceやDecorrelation)を計算します。
3. 指標となる変動量が閾値を超えた領域を、移動成分すなわち血流とみなしてマッピングします。

この方法により、色素や造影剤を一切使用せず、生体内の網膜血管ネットワークや毛細血管の動的な血流パターンを高精細に可視化できます。

スペックルトラッキングのメリットと限界

スペックルトラッキングは、造影剤不要で被験者への負担が極めて少ない点、網膜毛細血管のリアルタイム観察が可能という大きなメリットがあります。

一方、シグナルノイズ比が低い部位では微小血流を検出しきれない場合があります。
また、OCT装置のスキャン速度が十分でないと眼球や体動による画像ズレが混入しやすく誤検出につながります。
この弱点を補うために、後述するモーション補正技術が重要となります。

モーション補正とは?OCTイメージングにおける重要性

OCT血流イメージングで高精度なデータ取得には、検査中に生じるあらゆる「動き(モーション)」によるずれやノイズを極限まで除去(補正)することが求められます。

眼科領域でのOCT撮影時は、わずかな眼球運動(サッカードやドリフト)、呼吸や心拍数に起因する体動が必ず伴います。
こうした動きは瞬間的なものから緩慢なものまで多岐にわたり、特に連続断層取得(Repeated B-scan)が必須となるOCT血流イメージングでは大きなアーチファクトの要因になります。

モーションアーチファクトの影響

断層画像間でのモーションによるズレが生じると、同一の血管が像として「ずれて」重なる、架空の血管パターンが出現する、血管径や形状の誤表現、擬似的な血流低下領域といった誤った診断情報を生み出すリスクが高まります。

またスペックルトラッキングのアルゴリズム自体もデータ取得座標が微妙にずれれば、誤って「動きあり」と判定し本来血流ではない部位を選択してしまいます。
これを避けるためには、画像取得時に発生するわずかな動きを正確に把握し、画像処理上でこれを補正する必要があります。

モーション補正技術の種類と原理

OCT血流イメージングにおけるモーション補正には、主に以下のようなアプローチが用いられます。

1. 画像間レジストレーション
取得した複数の断層画像(B-scan)を、特徴パターン(例:血管、網膜内層構造など)を基準に位置合わせ(レジストレーション)する方法です。
最近では深層学習(AI)を利用した高速・高精度なレジストレーション手法も登場しています。

2. 追尾レーザーやトラッキング機構
レーザー光やカメラによって被検体の動きをリアルタイムに捕捉し、動き量に応じてOCT装置自体のスキャン位置を補正する“アクティブトラッキング”方式です。
これによりハードウェアレベルで動きノイズ混入を減らします。

3. データポストプロセッシング
画像取得後に、ソフトウェア上で各フレームなるべく重なるように再調整(オフライン補正)する方式です。
近年は高速化も進み、実用的なアルゴリズムとして幅広く用いられています。

スペックルトラッキングとモーション補正の融合によるOCT血流イメージングの進化

OCT血流イメージングは、スペックルトラッキングによる高精細な血流可視化と、モーション補正技術による高信頼性の画像取得によって日々進化しています。
これら二つの技術が連携することで、極めて鮮明かつ定量性の高い網膜血管ネットワークの描出が可能となり、さまざまな臨床応用が現実になっています。

特に眼底疾患、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの進行評価・薬効判定、未破裂動脈瘤・虚血部の早期発見・予後観察など多くの領域で有用性が認識されています。
また造影剤侵襲がないため、繰り返し追跡観察にも適しており、定量解析にも展開できる点が最大の強みです。

臨床現場におけるインパクト

OCT血流イメージングは、従来困難だった微小血管の異常や新生血管の出現・退縮、乏血域の局在同定が詳細に行えるようになりました。
しかも患者への負担がごく軽く、短時間で高品質データが得られるため、臨床応用の幅が急速に広がっています。

また将来的には、AIや機械学習技術の進歩に伴い、取得した膨大なOCT血流データから自動で疾患分類や予後予測を行うシステムの実装も期待されています。

最新の研究動向と今後の展望

OCT血流イメージングの分野は今も発展が続いており、さらなる診断精度向上、スキャン速度の高速化、小型・ポータブル化といった技術革新が進行しています。

スペックルトラッキングのアルゴリズムも、血流速度の定量化や、三次元的な灌流分布の高精細計測、深層領域でのノイズリダクションといった課題に取り組んでいます。
またモーション補正技術も、AIベースでの「動き推定・除去」の実時間処理化が実用段階にきています。
これらの進化によって、より正確で安定したOCT血流イメージングの普及が期待されます。

さらに全身のさまざまな微小循環疾患や、脳内血流の非侵襲イメージング、がん領域への応用―など、多彩な分野への展開が見込まれています。

まとめ

OCT血流イメージングは、スペックルトラッキングにより微細な血流パターンを非侵襲・高分解能で抽出し、モーション補正技術を組み合わせることで高精度な血管イメージを実現しています。
これらの技術は今後も発展し、より多様な疾患の診断・モニタリングに応用されることが期待されています。
今後もスペックルトラッキングおよびモーション補正の最先端動向には注目が集まることでしょう。

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