高硬度鋼の高能率切削におけるCBN工具の最適条件
高硬度鋼の高能率切削におけるCBN工具の最適条件
CBN工具とは何か
高硬度鋼の切削作業において、CBN工具は近年その重要性を高めています。
CBNとは立方晶窒化ホウ素(Cubic Boron Nitride)の略で、天然ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ材料です。
高温下でも安定した特性を示すため、高硬度鋼や焼入れ鋼などの被削材に対し優れた切削性能を発揮します。
このCBN工具の適切な条件設定は、高能率かつ高精度な加工を実現するための鍵となります。
高硬度鋼の切削の難しさ
高硬度鋼(HRC 45 以上)は、耐摩耗性は高いものの、その硬さゆえに切削工具への負荷も大きくなります。
一般的な超硬合金やセラミックス工具では、摩耗やチッピングの進行が早く、工具寿命が短くなりがちです。
また、熱の発生も著しいため、寸法精度や仕上げ面粗さの低下が起こりやすいです。
このような課題を克服するため、CBN工具の活用と最適な切削条件の選定が不可欠です。
CBN工具の特長とメリット
CBN工具には大きく二つのタイプがあります。
一つは、焼結体CBN(Sintered CBN)、もう一つはコーティングCBNです。
それぞれの特徴とともに、CBN工具共通のメリットをご紹介します。
高硬度材料への優れた切削性
CBNの最大の利点は、62HRC以上の焼入れ鋼でも高能率で切削できることです。
硬度が高いほど一般工具は摩耗が進みやすいものですが、CBNはその構造上、耐摩耗性と耐熱性に優れています。
これにより、長寿命と高い寸法精度が同時に確保できます。
高い熱安定性
CBNは切削中の高温下でも化学的および熱的安定性を保ちやすく、熱による変質が少ないです。
高能率加工時でも工具寿命への悪影響が少ないため、連続または大量生産現場で真価を発揮します。
良好な加工表面品質
CBN工具は鋼材の微細変形を抑えながら切削できるため、仕上げ面も極めて良好です。
バリの発生も少なめで、仕上げ後の追加工程を省略できる可能性も高くなります。
高能率切削に求められるCBN工具の最適条件
高硬度鋼をCBN工具で高能率に切削する際、加工品質と工具寿命、コストのバランスを取るためには最適な切削条件設定が必須です。
ここからは、具体的なポイントごとに解説します。
切削速度(Vc)の最適値
CBN工具を使用する最大のメリットは、通常よりも高い切削速度が設定できることです。
高硬度鋼(60HRC前後)の場合、切削速度は 100~300m/min程度推奨されます。
低めの速度では工具寿命は延びますが、加工能率が低下します。
逆に高すぎる速度では寸法精度や工具摩耗が著しく進むため、使用するCBNのグレードやクーラント条件、被削材の性状をもとに現場ごとに試験調整が重要です。
送り量(f)および切込み量(ap, ae)の最適値
送り量や切込み量が大きいと加工能率は上がりますが、切削抵抗や工具への負荷も増加します。
通常、送り量は 0.05~0.25mm/rev、切込み量は0.1~2.0mm 程度が目安となります。
高能率と高精度の両立を目指し、加工対象物や形状、工具剛性、設備能力も考慮の上で適宜設定してください。
深切りは工具欠けやチッピングを招きやすいので、段階切削や多回切削に分ける工夫も有効です。
使用クーラントの有無と冷却方式
CBN工具は本来、ドライ加工(無冷却)でも高精度を維持しやすい構造ですが、高能率加工では発熱管理も非常に重要です。
特に厚物や大径品の場合は、高圧クーラントを併用することで工具寿命延長と仕上げ面の安定化が図れます。
一方で、CBNと一部クーラントの化学反応リスクや突沸による欠けリスクも考慮し、メーカー推奨冷却方法を遵守しましょう。
最適なCBNグレード選定
CBN工具には粒径や結合剤の違い、複合焼結やコート仕様など、さまざまなグレードがあります。
高硬度鋼への高能率切削では、純度の高い、カルビッド等混入が抑えられたCBNや、耐衝撃性を強化した複合焼結体CBNが主に選ばれます。
また、精密仕上げには微粒系CBN、荒加工では粗粒系CBNなど、加工用途ごとに最適なグレード選定が不可欠です。
CBN工具の寿命管理と加工コスト低減
高能率加工においては、CBN工具の寿命管理と加工コスト低減も重要なテーマです。
適切な工具寿命の判断基準
寸法精度の逸脱、加工面粗さの悪化、刃先の摩耗・欠けなどが主な寿命指標となります。
CBN工具の場合、割れやチッピング発生前、または摩耗幅(VB)が0.2~0.3mm程度で交換が推奨されます。
寿命管理を徹底することで、ワーク不良や突発トラブルの回避が図れます。
再研磨とリサイクル活用
CBNは耐摩耗性が高い反面、再研磨後の寿命がやや短くなります。
しかし、高価な新品・換刃工具と併用することで、トータルコスト低減に寄与できます。
使用済みCBN工具の再研磨サービスやリサイクルプログラムも活用しましょう。
設備・工程の最適化
工具の能力を最大限に引き出すためには、設備剛性、チャックの精度や加工プログラムも重要です。
切削条件に合わせて工程を最適化することで、CBN工具のパフォーマンスとコストパフォーマンスを最大化できます。
実際の適用事例と最適化の流れ
CBN工具を用いた高硬度鋼切削の現場適用例と、その適正条件最適化の手順を紹介します。
事例1:自動車部品焼入れ鋼部の高能率旋削
自動車用シャフト(HRC62、Φ40)にCBN工具を使用し、切削速度200m/min、送り0.1mm/rev、切込0.5mm、ドライ加工で作業した。
従来工具(超硬合金比)で寿命2倍、加工能率1.5倍を実現した。
ただし、加工面粗さの安定化のため、送り速度や刃形状の微調整を繰り返した。
事例2:金型修正部の精密仕上げフライス
金型補修用途のため、微粒子CBN工具を用い、切削速度150m/min、送り0.05mm/rev、切込0.2mmで湿式加工。
研磨工程を大幅に省略でき、工具費は上がったものの、トータルリードタイム短縮と品質安定に貢献。
最適条件へのアプローチ
1. 被削材の材質・硬度・形状を調査
2. 推奨CBNグレード、刃形状の選定
3. 参考切削条件(速度・送り・切込)の設定
4. 少数ロットでテスト切削を行い、加工面や摩耗観察
5. 加工能率、工具寿命、品質をバランスしつつ条件微調整
このサイクルを継続することで、現場ごとの「最適化」が実現します。
CBN工具導入の注意点
CBN工具は高価であり、すべての切削工程に適用できるわけではありません。
特に、以下ポイントに注意しましょう。
母材との化学反応性
一部材料(耐熱鋼や高Cr鋼等)では、CBNと成分間で化学反応が起こり刃先劣化を招く場合があります。
事前にメーカーや専門家に相談し、適否を精査しましょう。
切削条件の過度な上昇による工具損傷
CBNの高能率性は魅力ですが、無理な増速・過大な切込みは欠けや割れのリスクが高まります。
条件設定を段階的かつ慎重に見極めることが大切です。
まとめ
高硬度鋼の高能率切削において、CBN工具は不可欠な存在になっています。
CBN特有の優れた硬度・耐摩耗性・耐熱性を最大限に活かすためには、切削速度、送り量、切込量、冷却方法、グレード選定といった最適条件のトータルバランス調整が重要です。
十分なテストと現場でのフィードバックサイクルを活かし、CBN工具による工場の生産効率化・品質向上・コスト削減に挑戦してください。