PA6Tガスアシスト射出成形シートバックとNVH軽量化シミュレーション
PA6Tガスアシスト射出成形によるシートバックの進化
PA6T(ポリアミド6T)は、高い耐熱性や優れた機械的強度を持つエンジニアリングプラスチックです。
自動車業界では、金属部品の軽量化や高性能化のため、PA6Tの利用が急速に広がっています。
特にシートバック(自動車座席の背面を構成する部品)では、従来の金属から樹脂への置き換えが求められてきました。
その中で、ガスアシスト射出成形という新たな成形技術の導入により、抜本的な構造刷新とさらなる軽量化が実現しつつあります。
ガスアシスト射出成形技術とは
ガスアシスト射出成形は、溶融した樹脂を金型に充填したのち、窒素などの高圧ガスを内部に注入する成形方法です。
この技術により、内部に中空部(ホロ―構造)を持つ部品を容易に製造できるのが特徴です。
ガスにより樹脂流動性が高まり、複雑な形状や厚肉・薄肉の切り替えも容易になります。
ヒケや反りの抑制、成形サイクルの短縮といった効果も期待でき、また中空部の発生による軽量化も大きなメリットです。
PA6Tの優れた物性
PA6Tは高温環境下でも寸法安定性や耐熱変形性が高い材質です。
吸水率も低いため、耐久性や剛性が比較的長期にわたって維持されます。
耐薬品性や機械的強度が高く、薄肉化や金属代替を目的とした用途に最適です。
また電気絶縁性にも優れ、多様な産業分野で注目されています。
シートバックへのPA6Tガスアシスト成形採用の意義
シートバックは、車室内で乗員の安全性や快適性に直結する重要なコンポーネントです。
また、座席ユニット全体の重量の中でも比較的比率が高い部位であるため、軽量化の対象としても有望です。
従来は鋼板やアルミ材などの金属成形が主流でしたが、近年はPA6Tなどの樹脂や複合材料への移行が進んでいます。
なかでもガスアシスト射出成形を用いることで、重量、強度、コスト、構造自由度のバランスが最適化されます。
重量削減による燃費改善効果
自動車産業における軽量化の最も大きな恩恵は、燃費の向上です。
車体重量を10%削減すると燃費が約5~7%向上するという報告もあり、CO2排出削減や電動化にも大きく貢献します。
シート1脚あたりのシートバックの樹脂化による軽量化量は2~5kgに及ぶことがあり、大量生産車両における全体最適化が可能です。
設計自由度と剛性の両立
ガスアシスト射出成形は、肉厚の変更や複雑なリブ構造の形成が容易なため、強度や剛性を確保しつつ自由度の高い形状設計が行えます。
従来の金属板プレスでは難しかった形状(局部的な曲げ、応力集中分散構造、複雑配線用の溝や経路)をもった一体部品も成形可能です。
設計の柔軟性は、乗員の体格差や衝撃吸収性の向上、シートヒーター・エアバッグなど付加機能との一体化にも寄与します。
NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)性能と軽量化シミュレーション
自動車部品の設計においてNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)は、走行時の静粛性や快適性を左右する重要な要素です。
シートバックの軽量化は車体全体のNVH性能と密接な関連があるため、成形材料や構造の最適化には高度なシミュレーションが不可欠です。
NVH性能に対するPA6Tシートバックの特性
PA6T樹脂は、弾性や減衰性能に優れるため、金属板よりも高周波振動や衝撃吸収効果が期待できます。
また、ガスアシスト射出成形による中空構造部は、遮音・吸音性や固有振動数に影響を与えます。
構造設計によっては、金属よりも固有振動数を上げたり、音響エネルギーの伝播を抑制したりすることができ、車室内NVH改善の新しい選択肢となります。
NVH軽量化シミュレーションの重要性
PA6Tシートバックの設計開発にあたっては、CAE(コンピュータ支援工学)を用いたNVHシミュレーションが必須です。
NVH性能は、単なる剛性や強度だけで決まるものではなく、材料固有の弾性率・減衰特性と形状設計、さらにはシート全体や車体とのインターフェース特性が複雑に関与します。
シートバックの形状変更や肉厚の最適化、中空部の配置を仮想空間上で高速かつ的確に評価することで、開発期間の短縮と最適解の迅速探索が可能となります。
代表的なNVHシミュレーション手法
・モーダル解析 :加振時の固有振動数や振動モードを予測します。
・伝達関数解析 :座面からの振動や音響エネルギーの伝播度合いを評価します。
・音響解析 :部品中空部における音響特性や吸音性を予測します。
これらを活用し、PA6Tの物性データやガスアシストによる中空構造パターン、実車輪も配慮した多面的な性能予測が行われています。
PA6Tガスアシストシートバック開発のポイント
シートバックの量産化に際しては、材料選定、成形条件、設計最適化、NVH評価、コスト管理など多岐にわたる検討を要します。
材料選定と物性最適化
PA6Tグレードの選定は、目指す機械的性能や耐熱性、コスト、成形性のバランスに依存します。
ガラス繊維強化タイプや難燃グレードなど、用途や要求性能に応じて最適な配合を選ぶ必要があります。
特に自動車用途では、-40~120℃の広範な温度域、湿度変化、化学薬品への耐性など、厳しい環境下での物性安定性も重要です。
成形プロセス設計
ガスアシスト射出成形は、樹脂の流動方向・ガス導入口・排出口の設計が決定的に重要です。
パートごとの肉厚コントロールや反りの抑制、ゲート位置の最適化のためにはトライ&エラーを繰り返し、場合によっては流動解析のCAIシミュレーションを併用します。
工程設計では、冷却時間とガス圧制御が成形サイクルの短縮や寸法安定性、歩留まりに直結します。
NVH性能とのトレードオフ最適化
PA6Tの持つ材料特性、中空構造の配置・量、リブの最適配置を組み合わせ、NVH評価を繰り返し行います。
実車搭載によるシート全体のNVH性能評価(実験検証)と、バーチャル空間でのシミュレーション評価を密接にフィードバックさせることが、軽量化と性能向上の双方達成の近道です。
PA6Tガスアシスト射出成形シートバックの今後と将来性
今後の自動車業界では、さらなる軽量化と高付加価値化の両立、環境負荷低減が加速度的に求められてきます。
PA6Tガスアシスト射出成形の応用領域は、シートバックだけでなく、車内外のさまざまな構造部品にも拡大が期待されています。
EV・自動運転化との親和性
EV(電気自動車)の資源効率を最大化するためには、本質的な車体・内装部品の軽量化が不可欠です。
また自動運転社会では、内装レイアウトの変革や多機能化が進む中で、複雑なデザインや高度な部品インテグレーションにも柔軟に対応できるガスアシスト成形技術が求められます。
リサイクル・サステナビリティ対応
PA6Tはリサイクル対応のエンジニアリングプラスチックとしても有望視されます。
分別・再成形技術、リサイクル材とのコンパウンド開発も盛んに進められており、自動車のカーボンニュートラル化にも寄与できます。
まとめ
PA6Tガスアシスト射出成形を用いたシートバックの開発は、自動車の軽量化とNVH性能向上という二大課題の同時解決を実現する画期的なアプローチです。
材料・成形技術・設計・シミュレーションの連携によって、これまでにない構造の自由度と快適性を提供します。
今後はEVや自動運転化、環境規制強化を背景とし、さらなる進化と応用分野の拡大が見込まれます。
車両性能や乗員快適性に直結するシートバック部品の革新は、自動車産業の新たなスタンダードとして進化を続けています。