スラリーレオロジーのペースト指数推定と分散剤最適化スクリーニング

スラリーレオロジーにおけるペースト指数の重要性

スラリーとは、固体粒子が液体に分散した混合系のことを指し、バッテリー材料やセラミックス、塗料、インクなど多くの産業分野で使用されています。
こうしたスラリー調製では、適切な流動性や分散性を確保することが品質や生産性を左右します。
この「流動性」を評価する際、粘度だけでなく「ペースト指数(Power Law Index)」も重要なレオロジー指標となります。

ペースト指数(n値)は、非ニュートン流体の剪断速度変化に対する粘度低下の度合いを表します。
n=1であればニュートン流体、n<1であれば剪断速度上昇とともに粘度が下がる剪断減粘性流体となります。 ペースト指数推定は、製造工程安定化や製品性能向上の鍵を握るため、スラリー設計者にとって非常に重要です。 さらに、最終的なスラリー特性を左右する大きな要素が「分散剤」です。 分散剤は、粒子同士の凝集を抑え、高分散状態を保つために必須の添加剤ですが、多数の候補から最適なものを選び抜く「分散剤最適化スクリーニング」は容易ではありません。 下記では、ペースト指数推定手法と分散剤スクリーニング戦略、そしてそれらを効率化するためのポイントについて詳細に解説します。

スラリーのレオロジー特性とは何か

スラリーの「流れやすさ・攪拌しやすさ」は、サンプルの粘度やチキソトロピーといったレオロジー特性によって決まります。
特に以下のパラメータが重要です。

  1. 粘度(Viscosity)…流体の流れにくさ
  2. ペースト指数(n値)…流れの応答性の指標
  3. 流動曲線・Bingham粘度…一定の剪断力を加えないと流れ始めない場合、その「降伏値」も重要

例えば、電池極板塗工用のスラリーであれば、ペーストが塗工装置で安定的かつ均一に流れることが求められます。
一方で、垂れが発生しない程度の粘性も必要です。
そのため、単に低粘度を目指すのではなく、「剪断速度に対する粘度の変化(剪断依存性)」もチェックすべき点となります。
これを評価する上で最も信頼性の高い指標の一つがペースト指数です。

パワーロー則とは

スラリーはしばしば「パワーロー流体」としてふるまいます。
この場合、剪断応力(τ)と剪断速度(γ̇)の関係は、以下の数式で表現されます。

τ = K × (γ̇)n

ここで
K = 一貫性指数(Consistence index)
n = ペースト指数(Power Law Index)です。

nが1より小さいほど、剪断速度上昇に対し劇的に粘度が低下し、塗工性などが向上します。
したがって、目的のプロセスに最適なn値(例:0.3~0.7など)にスラリー特性を調整することがポイントとなります。

ペースト指数推定の実践方法と評価手順

ペースト指数を正確に推定するには、レオメーター(粘度計)を用い、幅広い剪断速度領域で流動曲線(粘度–剪断速度曲線)を取得します。

測定プロセス

  1. サンプル準備

    スラリーは事前に十分に混練・脱泡し、均一サンプルとします。
    必要に応じて事前に一定時間静置することで粒子再分散性も評価します。
  2. レオメーター測定

    コーンプレート・カップローター型のレオメーターを用い、低~高剪断速度(例:0.1〜1000s–1 付近)まで段階的に測定します。
  3. データプロット

    剪断応力–剪断速度、または粘度–剪断速度の両対数グラフを作成します。
  4. パワーロー関数へのフィッティング

    上記グラフの線形領域(粘度が一定の傾きで直線的に減少)を選択し、回帰直線よりn値を算出します。

    【ログτ = logK + n×logγ̇】
  5. 再現性・信頼性チェック

    複数回測定して誤差や再現性を確認します。

ペースト指数推定時の注意点

・低/高剪断速度の極端な領域は粘度計精度やサンプルのスリップ現象の影響を受けやすいため、代表的なフィッティング範囲を慎重に選定する必要があります。

・温度依存性やスラリーの保存時間でn値も変動しますので、条件を統一した上で推定することが大切です。

・目指すn値は工程や使用装置ごとに異なるため、「目的にかなったn値帯のスラリー設計」が分散剤スクリーニングの初期目標となります。

分散剤最適化スクリーニングの基本戦略

スラリー品質の鍵を握る分散剤ですが、選定は非常に複雑です。
表面活性剤型・高分子型・電解質型・複合型などさまざまなタイプが存在し、さらに濃度や分散工程によって最適条件が大きく変化します。

一般的な分散剤スクリーニングプロセスは以下の通りです。

1.対象スラリー系の分析

・粒子組成・粒径分布・表面化学的性質など基本物性を把握します。
・pHやイオン強度など分散安定化機構(静電/立体/混成安定)を想定します。

2.分散剤候補と添加量範囲設定

・用途や企業仕様に応じて複数種の分散剤をリストアップします。
・一般的な推奨濃度(wt% of 粒子)を基準に、高低3段階程度(例:0.1%、0.5%、1.0%)でテストします。

3.プレミックス分散とスラリー調製

・分散剤を添加後、ビーズミル・ホモジナイザー・ローラー等で混練し、凝集塊などがない均一なスラリーを調製します。

4.レオロジー特性測定とペースト指数推定

・前述したプロトコルに従い、各組み合わせのn値・粘度プロファイルを取得します。

5.分散性・安定性評価

・動的光散乱法(DLS)や遠心沈降法で粒子分布・再凝集傾向を評価します。
・静置後の沈降高度、透明層発生などの物理的安定性も確認します。

6.最終的な選定

・狙いのn値範囲に収まり、且つ長期安定で粘度水準にも優れる組み合わせを「最適条件」として選出します。

この一連のスクリーニングは、各分散剤ごとにペースト指数と分散安定性がどのように変化するかを可視化する「マッピング型アプローチ」としてまとめておくと、後々の配合最適化に大きく貢献します。

ペースト指数と分散剤設計の関係性の最適化

分散剤は粒子間の反発力や架橋状態に直接作用し、粘度・n値などのレオロジー特性を大幅に左右します。

典型的な最適化例

・動的分散安定型(高機能界面活性剤)は剪断速度増加時の粒子同士の再凝集を防ぎ、n値を低く抑えることで「流れやすいが沈みくい」理想的な特性が得られます。

・逆に分散剤不足や表面吸着の不均一さがあると、粒子がネットワークを形成したり再凝集し、n値が高くなり「伸びが悪くダマができやすい」ネガティブな挙動となります。

・高分子型分散剤でも、分子量や構造によっては架橋が進みすぎ、逆に粘度過多やゲル化を引き起こすケースもあるため、「適切な分子構造」「適切な添加量」の探索が極めて重要です。

組み合わせ最適化の視点では、単一剤だけでなく、2種以上の分散剤・消泡剤・溶媒添加剤を組み合わせた多段階スクリーニングも視野に入れるとよい結果につながることも多々あります。

実務で役立つスクリーニング加速テクニック

分散剤スクリーニングは、多数の組み合わせ&多量の測定を要するため、効率化のための工夫も大切です。

自動化・省力化のポイント

・96ウェルプレートと分注ロボット、卓上遠心機などを組み合わせ、マルチサンプル並列調製・初期分散性チェックを実施する

・小型レオメーター、多検体一括測定機能付き粘度計を導入して、複数条件の流動曲線データを一度に取得

・データベース化ソフトやR/Pythonなどの自動フィッティングスクリプトを活用し、各サンプルのn値算出をスピーディに実現

・最適化AIやベイズ最適化などのアルゴリズムを活用し、効率良い条件探索をサポート

こうした自動化・デジタルトランスフォーメーションは、特に配合バリエーションや分散剤候補が多い現場では“大幅な工程短縮”と“知見の蓄積”にもつながります。

まとめ:ペースト指数推定と分散剤最適化で品質と再現性を両立

スラリーレオロジーの核心は、「測る → 見える化 → 最適化」の連続プロセスにあります。
ペースト指数を指標とした定量的アプローチにより、スラリーは「理論に基づき制御できるもの」となります。

分散剤スクリーニング時は、下記ポイントを意識しましょう。

・ペースト指数(n値)の目標を設定し、定量的に比較
・分散剤種・添加量を広くカバーし、多面的に評価
・レオロジー評価だけでなく粒子分散性・安定性も同時チェック
・効率化技術・自動化機器・データ解析ノウハウも積極的に導入する

こうした実践の積み重ねによって、狙い通りのスラリーレオロジー特性と製造工程の再現性・効率化が叶います。
今後ますます高度化・多様化する現場において、ここで紹介したペースト指数推定と分散剤最適化スクリーニング手法は強力な武器となるでしょう。

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