レーザー距離計位相方式の多パス抑制と黒色対象の反射率補正

レーザー距離計位相方式の基礎知識

レーザー距離計は、レーザー光を用いて対象物までの距離を測定する装置です。
その中でも「位相方式」は、発信したレーザー光が対象物に反射し、受信器に戻ってくるまでの間に生じる光の位相シフトを測定することで距離を算出します。
これは、発信器から出る連続波の波長と、帰ってくる波の位相差から極めて高い精度の距離測定が可能になるため、産業用途から建設、さらにはロボティクス分野まで幅広く利用されています。

位相方式のレーザー距離計は、パルス方式と比較して短距離での高分解能測定に強く、精密な距離計測に適しています。
しかし、光が対象物や環境で複雑に反射することで生じる「多パス」や、黒色対象特有の反射率の低さによる測定誤差という課題もあります。
これらの技術的課題に対する対処法は、レーザー距離計の精度や信頼性を大きく左右します。

多パス現象の発生原因とその影響

多パス現象とは、レーザー光がターゲット表面だけでなく周囲の壁や他の物体で反射し、複数の経路をたどって受信器に到達する現象を指します。
このため、本来測定したい一次反射(ターゲットから直接返る光)以外の光も受信し、距離の誤計測やデータのノイズ増加を招きます。

多パスは特に、以下の状況で顕著に現れます。

  • ターゲットの周囲に多くの反射物が存在する場合
  • ターゲットとなる表面が光沢や鏡面仕上げの場合
  • 測定環境に遮蔽物や凸凹が多い場合

多パスによって受信波形が複雑化し、本来の位相差が正確に検出できなくなるため、距離計測の精度が低下してしまいます。

多パス抑制のための技術的アプローチ

多パス現象を抑制し、正確な測定を実現するためには、ハードウェアとソフトウェア双方での対策が有効です。

ビーム制御による多パス低減

レーザーの照射範囲を極めて狭くすることで、対象以外への照射を減らす手法です。
集光レンズやコリメータを使い、発射ビームの広がり角を最小限にコントロールすることで、多重反射の影響を低減できます。
また、受光センサ側も開口角を狭くし、周囲からの迷光や遅延反射の受信を防ぎます。

信号処理技術の活用

受信された信号に対し、窓関数処理やフィルタリングをかけることでノイズや多パス成分を抑制します。
また、複数波長や複数の変調周波数を組み合わせることで、一致度の高い一次反射のみを抽出するアルゴリズムも開発されています。
さらには、一定のタイムゲート(受信タイミングの絞り込み)を設定し、明らかに遅延した信号を無効データとして扱う方法が増えています。

AI・機械学習による信号選別

近年では、AI・機械学習技術を適用し、時系列的な信号特徴量から多パス由来のものを自動的に識別し排除する研究も進められています。
これにより、従来困難だった複雑な反射環境下でも精度の高い距離計測が可能となりつつあります。

黒色対象におけるレーザー距離計の課題

一般的なレーザー距離計は、対象物の表面が白色や淡色であれば総じて高い反射率を示し、計測信号も強く検出されます。
一方、黒色対象の場合、可視光・近赤外波長での反射率が著しく低くなり、受信される信号の強度も大幅に減少します。

この状態では、いくつかの問題が発生します。

  • 戻ってくる信号が微弱になり、S/N比が悪化する
  • 位相検出回路がノイズに埋もれてしまい、正確な位相差計測が困難になる
  • 初期位相や直線性補正など補正パラメータの誤差が増える

特に工場の黒色プラスチック部品、ゴム製品、またはマットブラック塗装面などがターゲットの場合、この問題は測定現場で頻繁に発生します。

黒色対象の反射率補正の最新技術

反射率が低い黒色対象にも対応するためには、以下のような補正技術・運用が欠かせません。

自動感度調整機能(AGC)の導入

レーザー距離計内部の受光部(APDやPINフォトダイオード)は、入射信号強度に応じて増幅度を自動的に変更する「自動利得制御(AGC)」回路を備えることがあります。
これにより、微弱な信号下でも一定の信号強度が得られるように補正し、位相検出の精度を保ちます。
AGCは受信ノイズも増幅するため、極端に信号が弱い場合はS/N比に限界がありますが、多くの計測現場で有効に働きます。

マルチエコー処理と最強反射成分の抽出

黒色対象面からの一次反射信号を他の反射から分離し、最も強い(もしくはタイミングが一致する)信号のみを距離判定に使用する手法です。
たとえばTOF(Time Of Flight)型の信号を組み合わせ、複数エコーの中から最適なものを選ぶアルゴリズムも併用されます。

反射率テーブルによる補正パラメータ設定

あらかじめ様々な表面反射率(白・灰・黒)に対する距離補正テーブルを内蔵し、計測時に対象反射率に応じて自動で補正値を加算します。
この補正は、測定距離や入射角、さらには温度や周囲光条件など、複数要因を総合的に考慮することで、実際の計測値の補正精度向上に寄与します。

AI活用によるリアルタイム補正

AIやディープラーニング技術を用いて取得データのパターンを学習させ、黒色対象時の反射信号弱化傾向を自動的に補間・補正するシステムも登場しています。
これにより、標準補正値を超えた複雑な現場条件でも高い適応力を発揮するようになりつつあります。

現場で活かすための具体的な設計・運用ポイント

計測誤差を最小限に抑え、現場での安定動作を実現するためには次のような工夫が効果的です。

  • ターゲット面はできるだけ鏡面反射や凹凸が少ない、拡散反射主体のものを選択する
  • レーザーの受光・発光位置を高精度に調整し、多重反射の影響を受けにくい設計を心がける
  • 黒色や特殊表面の計測では、前述の補正テーブルやAGCなどを動作させたまま運用する
  • 事前サンプリングやキャリブレーションを自動で実施し、その都度補正値をアップデートする仕組みを取り入れる

また、環境の外乱光(太陽光、蛍光灯など)や温度変化にも注意し、適宜シールド処理・環境センサー情報の連動も検討すると、長期的な測定精度の維持に役立ちます。

レーザー距離計技術の今後とまとめ

昨今、建設・農業・物流・ロボティクスといった多彩な産業分野でレーザー距離計の活躍シーンが広がっています。
位相方式の高分解能と高精度は、今後さらに重要性を増すでしょう。

今後は多パス抑制や黒色対象への対応といった課題について、従来のハードウェア改良だけでなく、AIを含めた高度なソフトウェア信号処理の導入が不可欠です。
また、さまざまな表面性状や環境変動にも柔軟に対応可能な「適応型」距離計システムの開発も進みつつあります。

ユーザー側も、レーザー距離計の特性と制限条件を十分に理解し、場面に応じた設計・補正・運用を工夫することで、現場でのトラブルを防ぎ、最大限のパフォーマンスを引き出すことができます。

これからのレーザー距離計導入・運用においては、ここで紹介した多パス抑制および黒色対象対応の最新技術トレンドを参考に、最適なソリューション選びと現場改善を進めていくことが重要です。

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