超音波フェーズドアレイのTOFD併用戦略と溶接内部欠陥の識別

超音波フェーズドアレイ(Phased Array)とTOFD(Time of Flight Diffraction)の基礎知識

超音波検査技術は、溶接構造物の内部欠陥を非破壊で検出するために広く活用されています。
その中でも、高度な欠陥検出能力を持つ「超音波フェーズドアレイ(Phased Array Ultrasonic Testing: PAUT)」と「TOFD(Time of Flight Diffraction)」の2つが、昨今の品質管理の現場で強く注目されています。
これらの技術を単独で用いる場合と比較し、併用による戦略的なアプローチは、より高精度な欠陥検出・識別を実現します。

まず、超音波フェーズドアレイは、多数の小型振動子(エレメント)を一定の配列で配置し、電子的な位相制御で超音波ビームの方向や集束点を自在に調整できる技術です。
従来の単一振動子による超音波探傷よりも、より広範囲・多角的な内部探査や断面イメージの取得に優れています。

一方、TOFDは、超音波パルスの到達時間の差(飛行時間)と回折波(ディフラクション)の特性を利用し、溶接部内部の欠陥形状や大きさを高い精度で測定する手法です。
TOFDは特に欠陥の高さ(スルーボア)検出、及び量的評価(寸法計測)に強みを持っています。

溶接内部欠陥の種類と識別の重要性

溶接部に発生する主な欠陥には、割れ、ブローホール(気孔)、スラグ巻き込み、未溶融、未融合、オーバーラップ、ピット、及び内部介在物などがあります。
これらの欠陥は、溶接接合部の強度・靭性の著しい低下を招く恐れがあり、厳格な品質保証が要求される分野では確実な識別が不可欠です。
特に、プラント配管、圧力容器、橋梁構造物などの長期使用を前提とした構造物においては、微細な内部欠陥でも重大な事故につながりかねません。

従来は放射線透過試験(RT)や、従来型の単素子超音波探傷が中心でしたが、識別精度や検査時間、コスト面での課題がありました。
このような背景から、より高精度・高効率な検査法として、フェーズドアレイとTOFDの併用戦略が注目されています。

フェーズドアレイとTOFDの併用による検査の特徴

1. 欠陥の検出カバレッジ拡大

フェーズドアレイは表層付近から裏面まで様々な角度で超音波ビームを照射するため、幅広い領域で欠陥を漏らさず検出可能です。
一方、TOFDは回折波を利用して裏面きわの欠陥や微細な割れにも敏感に反応し、高さや深さの寸法精度に優れます。

両者を同時または連続して用いることで、表~裏面に至る広いレンジで多様な欠陥モードをカバーし、加えて複数の視点からの情報取得ができます。

2. 欠陥識別能力の向上

フェーズドアレイは、そのイメージング(断面画像)能力により、欠陥部位の視覚的判定(位置・方向・大きさ)が可能です。
しかし、断面での識別に長けている一方で、高さ推定や根本的な欠陥の種類の見極めには課題が残る場合があります。

これに対し、TOFDは、回折波信号を解析することで、溶接部断面の高さ方向寸法を高精度で測定します。
また、TOFDで得られるシグナル波形は、欠陥の種類ごとの特徴を有するため、判別精度の向上に寄与します。

3. 死角やブラインドゾーンの補完

フェーズドアレイや従来の斜角探傷では、表面直下や裏面付近に死角(ブラインドゾーン)が生じやすいです。
TOFDではこの領域の検出精度が高いのですが、表面付近や溶け込み不足などの鋭い欠陥への追随性には難点があります。

両技術を併用すれば、お互いの死角を相補的にカバーし、検査の盲点を最小限に抑えられます。

具体的な併用戦略とワークフロー

フェーズドアレイとTOFDの併用には2つの主な方式があります。
一つは「同時検査方式」、もう一つは「連続(段階的)検査方式」です。

同時検査方式

検査ラインや自動走行キャリアに両方のプローブ(フェーズドアレイとTOFD用)を同時に搭載し、溶接部を一度の走査で双方のデータを取得します。
これにより、検査スピードの高速化と人的ミスの排除が可能です。
特に面積や長さの大きい溶接部検査で威力を発揮します。

連続(段階的)検査方式

まずフェーズドアレイにより広範囲をスクリーニング検査し、指摘された異常シグナル部に対してTOFDで詳細追跡または寸法精度検証を行います。
これにより、全数検査の効率化・コスト低減に寄与します。

どちらの方式でも、最新の超音波検査システムでは複数センサーの同時計測やAI画像解析技術の導入により、データの統合評価・自動判定精度をさらに高めています。

溶接内部欠陥種類ごとの識別ポイント

割れ(クラック)

割れは細長い線状シグナルとして現われます。
フェーズドアレイでは断面上の連続した高輝度部となり、TOFDでは形状独特の回折エコーが認識できます。
特にTOFDの回折波分析で、割れ端部の明瞭な信号が識別の鍵を握ります。

ブローホール(気孔)・ピット

点状シグナルとなることが多く、フェーズドアレイの断面画像で球状や楕円の反射点として捕らえられます。
TOFDでは回折波が弱まるケースが多いため、補完的に両者を総合判定します。

未融合・未溶融

溶接金属と母材の界面部に沿う帯状の欠陥で、フェーズドアレイの断面画像では基準面から連なったエコーが出現します。
TOFDの強みは少ないですが、位置の再捕捉には有効です。

スラグ巻き込み・介在物

下部や側面寄りなど複雑な位置に発生しがちで、フェーズドアレイの斜角照射や多角度探索が有利です。
TOFDで補足し、裏面近傍までの高さ推定に活用できます。

検査結果の評価と信頼性向上へのポイント

検査システム上では、各種データを集積・融合し、数値化およびカラーイメージなどで盤面表示します。
AIやパターン認識技術による「自動判定」も進歩しており、ヒューマンエラー削減や熟練者非依存化を図れます。
しかし現状では、最終的な判定には以下のような複合的評価を実施します。

  • 両方の手法で一致した部位を「確定欠陥」と判断
  • 一方のみでシグナル出現した場合は、補完的観察や再検査対応
  • 画像処理による寸法・深さ・位置の三次元的評価
  • APIやJISなど既存規格との整合性判断

現場の検査員には、機器セットアップ、音響的パラメータ最適化、結果の読影スキル、シミュレーションツールの活用、高度な不良対応力などが求められます。

今後の展望と導入のメリット

フェーズドアレイとTOFD併用方式は、航空宇宙、エネルギー(原子力・火力)、造船、鉄骨建築、自動車産業などにおいて適用範囲が拡大しています。
生産・建設現場での品質管理自動化や、省人化、トレーサビリティ確保の面でも欠かせない技術となっています。

今後もセンサー小型化、解析AIの進化、リモート検査やクラウド化との連動などが進み、より多様な材料・構造物への適用が期待されます。
検査データのライフサイクル管理や、溶接履歴との連動性を実現することで、長期安全運用の根幹となるでしょう。

まとめ

超音波フェーズドアレイとTOFDの併用戦略は、溶接内部欠陥の高精度識別を実現する最新ソリューションです。
双方の長所を組み合わせ、検出力・識別力ともに格段の向上が期待できます。
製造・施工現場では品質維持に不可欠な技術として、今後ますますの普及が予想されます。
導入検討の際は、装置・教育・ワークフロー全体の設計を最適化し、確実な判定力と運用効率の両立を目指すことが重要です。

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