印刷版の伸縮が発生し見当が徐々にズレていく理由

印刷版の伸縮とは何か

印刷業界では、高品質な印刷物を製作するために精度の高い見当合わせ(レジストレーション)が求められます。
しかし、印刷現場では「印刷版の伸縮」が起こり、見当が徐々にズレていく現象がよく見られます。
そもそも印刷版とは、版画やオフセット印刷・グラビア印刷などで用いられるインキの転写部分となる媒体を指しています。
この印刷版が製造や運用の過程で伸び縮みすることがあります。
この現象はなぜ発生し、見当ズレへとつながるのでしょうか。

なぜ印刷版の伸縮が発生するのか

印刷版の伸縮が発生する主な要因は、以下の3点に大別されます。
それぞれについて詳しく解説します。

1. 温度変化による材料の膨張・収縮

印刷現場は、季節による気温の変化、稼働中の機械熱、照明・乾燥機器による熱、インキや湿し水の温度など、さまざまな熱源の影響を受けます。
印刷版の主な材料である金属(アルミやスチール)、ポリエステルフィルム、樹脂などは、温度が上がるとわずかに膨張し、下がると収縮します。

版が製造された際の温度と、実際に印刷機に装着された際の温度が異なる場合、物理的に版の寸法が変化します。
この伸縮は非常に微細ですが、精密な見当合わせが求められる多色刷りなどでは、十分に無視できない差となります。
繰り返し印刷する場合や長時間の稼働のなかで、徐々に温度が変化し、そのたびごとに版も伸び縮みすることが背景にあります。

2. 湿度変化や液体の付着による変形

印刷版の材質が紙や特定の樹脂の場合、周囲の湿度や液体(水やインキ)にさらされることで膨潤したり、逆に水分が奪われて収縮したりする現象が発生します。
特にオフセット印刷では、湿し水を頻繁に使うため、印刷中に版が水分を吸収して寸法に変化を来たすことがしばしばあります。

また、非金属の版(感光性樹脂版やゴム版など)は、周囲の湿度変動への感受性が高い傾向にあり、こうした環境要因によって時間の経過とともに見当ズレの原因になります。

3. 印刷機による物理的なテンション(張力)

印刷版は、印刷機への装着時や、印刷工程で連続的に引っ張られたり巻き取られたり、一定の張力(テンション)がかかります。
特にフレキソやグラビアなどの巻き取り型印刷では、版胴に版が強めに巻かれたり両サイドからテンションがかかることで、版がごくわずかずつ伸びていきます。

初期状態では目立たないものの、長時間の稼働や繰り返しの刷り直しのなかで、徐々にこの伸びが累積し、最終的には印刷物の見当ズレが顕著になります。
また、テンションのかかり方がオペレーターや機種ごとに違う場合、それも不安定さにつながります。

印刷版の伸縮が見当ズレを生むメカニズム

版の伸縮が発生すると、どのように見当ズレへとつながるのでしょうか。

たとえば多色刷りでは、各色ごとに別々の版が使用されます。
最初はピッタリと見当が合っていても、気温や湿度、巻き取りテンションの変化などで、版の寸法にわずかな差が長時間かけて生じます。
1mmに満たない誤差であっても、画像や罫線、文字などの重なり部でズレが視覚的に「色ズレ」「ゴースト」などとして現れます。

また、両端と中央で版の伸縮が不均一な場合、「湾曲ズレ」「波打ちズレ」のような症状にもつながります。
印刷中に見当修正を行っても、版の寸法変化それ自体を直すことはできないため、印刷を止めない限り根本的な解決には至りません。
このように、物理的な版自体の伸び縮みを完全制御することは困難なため、印刷現場では「見当ズレが徐々に進行する」状況が避けがたく発生します。

版の伸縮に影響する材質ごとの特徴

印刷版にはいくつかの主な材料が使用されており、それぞれ伸縮への耐性や特性が異なります。

アルミ製版

オフセット印刷で広く用いられるのがアルミニウム版です。
アルミは比較的安定していますが、10℃の温度差で1mあたり0.023mm程度伸縮するという物理的特徴があります。
大判印刷や精密な見当合わせが必要な場合、現場の温度管理が極めて重要です。

ポリエステルフィルム版

小型オフセットやシルクスクリーンで使われるポリエステル版は、金属より若干熱膨張率が大きいです。
また、湿度による伸縮にも敏感なため、現場の空調管理や保管条件がズレ防止に影響します。

樹脂版・ゴム版

フレキソや凸版印刷で頻用される樹脂版やゴム版は、特に温度・湿度変化、テンションの影響を受けやすいです。
長時間印刷では線幅が太る、細線が伸びるなどの現象が起こりやすく、その分見当ズレも大きくなります。

見当ズレを防ぐための対策方法

印刷版の伸縮による見当ズレを完全になくすことは難しいですが、各種対策を行うことでリスクを大幅に低減できます。

現場の温湿度・空調管理

印刷現場や版置き場の温度・湿度をできるだけ一定に保つことで、版材質の寸法変化を防止できます。
温度が急激に変化する環境では、印刷直前に版を現場で適応させる「常温馴染ませ」も有効です。

版装着テンション・圧力の均一化

版の装着時、製版時点のテンションより過剰に引っ張ると伸縮が大きくなります。
印刷機ごとのテンション値をマニュアル化し、オペレーターごとの差異を最小限に抑えます。
また、胴回りの表面精度を高めることで、部分的な版だれや伸びを防げます。

安定した版材質の選定

特定の材質(例:高耐熱性ポリエステル、無機フィラー入り樹脂など)は、一般的な版よりも伸縮が少なく安定しています。
初期コストはかかりますが、大量印刷や高精度印刷でのメリットは大きいです。

見当ズレ補正システムの活用

最新の印刷機には、カメラやセンサーによって見当ズレをリアルタイムで検出・微修正するレジストレーション自動補正システムが搭載されているものもあります。
版自体の伸縮を検知・補正することは難しいですが、印刷開始から終了までの間、ズレの累積を最小に抑える補助手段です。

まとめ:印刷品質向上のために

印刷版の伸縮は、温度・湿度・テンションという「物理的変動」によって発生し、それが印刷物の見当ズレという形で現れます。
完全に避けることはできない現象ですが、現場管理の徹底、版材質の選定、工程の標準化を通じて、その影響を大幅に低減できます。

また、伸縮が発生するメカニズムを理解し、印刷現場全体で共通認識をもつことが、見当ズレの「未然防止策」の第一歩です。
技術と環境のバランスを追求し、より高品質で安定した印刷を目指しましょう。

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