食品衛生法対応品の製造で検査コストが跳ね上がる現実
食品衛生法対応品の製造現場に迫る厳しい現実
食品業界において「安全と安心」を実現するには、法的規制を満たすことが不可欠です。
特に食品衛生法は、食品の製造段階から販売まで厳しく管理することを求めています。
こうした法対応品を製造する企業では、検査体制の強化が必須となる一方で、検査にかかるコストが増大するという現実と直面しています。
食品衛生法とは何か?基本事項をおさらい
食品衛生法は、食品の安全性を確保するために制定された法律で、食品の製造、加工、輸入、販売などあらゆる段階に規制をかけています。
この法令は消費者の健康を守るために、食品添加物や容器包装、残留農薬なども含めて幅広い範囲をカバーしています。
食品衛生法が改正されるごとに、企業に求められる対応の水準も引き上げられ、検査や記録管理など負担は増加しているのです。
なぜ食品衛生法対応品の検査コストが跳ね上がるのか
複雑化した規制基準と厳格な検査体制
輸入食品の増加、消費者の食品安全に対する関心の高まり、そして食中毒事件の発生などをきっかけとして食品衛生法は何度も強化されてきました。
その結果、基準値の多様化や管理項目の細かさが格段に上がっています。
これにより、検査項目が増加し、専用設備や検査技術者の育成が必要不可欠となりました。
特に微生物検査、残留農薬、アレルゲン検査などは一度でも陽性反応が出れば製品回収や廃棄に直結するため、検査精度の向上や検査数の増加が求められています。
サンプル検査から全数検査への流れ
従来はロットごと、抜き取りサンプルによる検査が中心でしたが、近年では消費者の目が厳しくなったため、より安全性を保証しやすい全数検査を実施する企業も増えています。
全数検査に切り替えることで、機器の導入コストや人件費、検査のための消耗品費が膨らんでしまいます。
トレーサビリティ確保と記録管理の負担
食品衛生法ではトレーサビリティ、すなわち「いつ、どのロットが、誰の手によって、どこで、どんな材料で」作られたのか、それが問題発生時にすぐ追跡できることを求めています。
これには記録の保存やデータ管理システムへの投資が必要です。
紙ベースの管理からデジタル化する場合はシステム導入コストと運用コストも発生し、全体としての管理負担が増します。
原材料や添加物、包装資材に課せられる規制強化
輸入材料や添加物、包装資材に新たな安全基準が設けられれば、その都度検査が必要になります。
基準が見直されるたびに新たな対応が迫られ、研究開発費や検査コストが跳ね上がります。
とくに外国産材料の場合、現地での証明書取得や追加検査が発生し、タイムロスとコスト増に直結しています。
増え続ける検査コストの内訳
検査機器の導入・維持費用
食品衛生法に準拠した各種検査を行うためには、微生物検査機や分析機器の導入が必要です。
これらは1台当たり数百万円から数千万円かかるため、中小企業にとっては大きな負担です。
また、保守・点検・消耗品費も年間数十万円以上にのぼります。
外部検査機関への委託費用
自社内で全ての検査を完結できる企業は稀で、多くは専門の検査機関に依頼しています。
1回の検査ごとに数千円から数万円の依頼費用がかかり、検査項目や頻度が増せば、年間コストも跳ね上がります。
人件費・教育研修費の増加
正確な検査結果を取得するには訓練された専門スタッフの存在が不可欠です。
衛生管理者や検査員の資格取得や定期講習への参加も必要で、人手不足の現場では人件費や研修費が経営を圧迫することがあります。
ITシステム・トレーサビリティシステムの導入費
記録管理や追跡性を高めるため、ERPやトレーサビリティ専用システムを導入する企業が増えています。
初期導入費用に加え、メンテナンスや運用スタッフのコストもかかり、財政負担が膨らみます。
食品衛生法対応品を製造することのメリットとジレンマ
消費者の信頼獲得とブランド価値向上
食品衛生法に準拠した安全な商品を提供することで、消費者からの信頼が高まり、クレームの発生率を低減できます。
また、大手流通や外食チェーンとの取引条件を満たせば販路も広がります。
ブランド価値の向上や市場での競争優位性を構築できるのは大きなメリットといえます。
厳格な法規制順守によるジレンマ
一方、対応コストの増大で製品価格が他社より高くなった場合、市場競争力が低下するというジレンマが生じます。
特に価格競争の激しい製品だと、どうしても法令未対応品や格安輸入品に顧客が流れる恐れもあります。
そのため「安全」と「低価格」という消費者ニーズの両立が難しい現状です。
検査コスト増加にどう対応すべきか?現場で取れる具体策
リスクベースド・アプローチの導入
全項目・全数検査ではなく、過去データや工程分析に基づき、高リスク部分に集中して検査リソースを割くリスクベースドの考え方が広まりつつあります。
これなら不要な検査は省け、コスト削減効果も期待できます。
自動化・デジタル化で効率向上
最新の検査機器やセンサーで自動化を進めれば、ヒューマンエラーも減らせます。
また、クラウド型のデータ管理やモバイル端末による入力で業務効率を上げ、人的ミスも減らせます。
こうしたテクノロジー導入は初期投資はかかりますが、中長期的に見ればコスト削減に寄与します。
外部リソースの活用と協業
社内完結にこだわらず、外部検査機関やコンサルタントと連携することで、検査体制を最適化できます。
業界団体による共同検査体制や、検査項目の標準化・共有化など、業界全体でコスト軽減を図る仕組みも模索されています。
内部教育と現場マネジメント力強化
現場力の向上はコスト削減の最初の一歩です。
誤検出や再検査の発生を減らすために、日々の5S活動や教育、チェックリストによる現場管理の徹底が求められます。
これにより、不良品の発生ややり直しを減らし、無駄な検査コストを抑えることができます。
今後の展望と企業が目指すべき方向性
食品衛生法対応品の検査体制強化は、今後さらに求められる傾向です。
人口減少で人材不足が深刻化する中、AIやIoTの活用、工程自体の見直し、生産設備のスマート化など長期的な視点での投資が不可欠です。
単なる法令順守にとどまらない“積極的な安全追求”が、企業価値向上とブランド信頼性向上への近道となります。
一方で、企業規模や資本力の差による過度な負担格差に対しては、政府・自治体による補助制度や業界団体による支援がこれまで以上に求められるでしょう。
まとめ
食品衛生法対応品の製造現場において、検査コストの増大は経営課題の一つです。
法規制対応強化によるコストと、消費者や取引先から求められる安全・安心への取り組みのどちらも軽視できません。
コスト上昇を乗り越えるには、効率的な検査体制の構築とデジタルツール活用、現場力強化、業界連携によるコストシェアが鍵となります。
厳しい現実と向き合いながらも、持続可能な安全・安心の提供を追求することが、これからの食品製造企業に課せられた重要なミッションなのです。