ワイヤボンドプルテストの速度依存性と破断モード判定基準

ワイヤボンドプルテストとは何か

ワイヤボンドプルテストは、半導体パッケージや電子デバイスに使用されるワイヤボンドの接合強度や品質を評価するための基本的かつ重要な試験手法です。

これにより、製造過程での接合異常や実装後の信頼性低下リスクを未然に発見し、製品全体の品質保証に貢献します。

プルテストは、専用の機械を用いてワイヤを一定速度で引っ張り上げ、その際に発生する最大荷重や、破断した際の位置や状態、破断モードを計測・観察します。

試験の結果から、ワイヤボンドの健全性や潜在的な問題点を解析することが可能です。

ワイヤボンドプルテストの基本的な評価項目

ワイヤボンドプルテストを実施する際、いくつかの評価項目が中心となります。

それぞれの項目について、詳細に説明します。

最大引張荷重(ピークロード)

プルテストで最大引張荷重は、ワイヤが破断するまでに加えられる最大の力を示します。

この値が高いほど、一般的にはボンドが強固であると評価できます。

規格や顧客要求に適合しているかが大きな判断基準になります。

破断位置・破断モード

破断位置はワイヤ自身、ボールボンド、ウェッジボンド、パッドなど、どこで破断したかを指します。

また、破断モードは破断時の状態分類で、正常(ワイヤ断線)、パッドリフト、ボールリフト、インターフェース剥離など多岐にわたります。

これらの分類は後述の「破断モード判定基準」で詳述します。

引張試験速度(プル速度)

ワイヤボンドプルテストを評価するうえで、試験時のプル速度は結果に大きな影響を与えます。

これは「速度依存性」と呼ばれ、同じワイヤ・同じボンド条件でも、速度が異なるだけで最大引張荷重や破断モードが大きく変わる場合があるためです。

速度依存性とは何か

ワイヤボンドプルテストにおける速度依存性とは、プル速度(ワイヤを引っ張る速さ)の違いが試験結果、特に最大引張荷重や破断モードに与える影響を指します。

この特性を理解し、制御することは正しい判定につながります。

なぜ速度依存性が生じるのか

ワイヤや接合部の材料は、引っ張る速度によって異なる力学的挙動を示します。

たとえば、ゆっくり引っ張る(低速の場合)は材料が塑性変形しやすく、ある程度延びても破断しません。

一方で、急激に引っ張る(高速の場合)と材料が脆性破壊により突然切れることがあります。

ワイヤボンド中の金属や合金が持つ粘弾性やクリープ特性、また、加熱による組織変化などが複合的に影響します。

速度と引張強度・破断モードの関係

プル速度が遅い場合、ワイヤが徐々に伸び、最終的にはワイヤ自身が塑性破断する「ノーマルブレイク(正常断線)」になりやすいです。

一方、速度が速すぎるとワイヤとパッド、もしくはボールとの界面など、接合部に応力集中が発生し、インターフェース剥離やパッドリフトなど不良破断モードが増加します。

実務でよく使われるプル速度の基準は、JEDEC, MIL標準、または各メーカーの評価条件に準拠しますが、標準化の意義は速度依存性の影響を抑えて、結果の再現性・比較性を担保することです。

速度設定のポイント

評価目的や使用環境に応じて、プル速度を適切に設定することが重要です。

不良モードの早期発見を目的とするならやや速い設定に、不具合発生の傾向把握や材料変更評価なら複数速度での比較が有用です。

また、歩留まり改善や再現性重視なら、社内で標準速度(例:0.5mm/s, 1.0mm/sなど)を決めておくことが推奨されます。

ワイヤボンドの破断モード分類と判定基準

ワイヤボンドプルテストでは、単なる引張強度だけでなく「どこで・どのように」ワイヤが破断するかが重要となります。

それぞれの破断モードを解説し、その判定基準について述べます。

ワイヤブレイク(正常断線:Wire Break)

ワイヤ自体がボンド部から十分な距離をおいて破断した場合を指し、最も正常・良好な強度判定となります。

ワイヤの中央部や半田ボールと離れた位置で切れていれば、通常はワイヤより接合部が強固であることを示します。

ボールリフト(Ball Lift)

ボールボンドがパッドから完全に剥離しワイヤ先端ごと外れる状態です。

原因はパッド表面の汚染不足や加熱不足、加圧不足などパッド界面の不良が疑われます。

このモードは明確な不具合であり、判定基準でも「不合格」となります。

パッドリフト(Pad Lift)

ボールボンドとともにパッド金属が下地ごと剥離・めくれ上がる現象です。

パッドの薄膜脆弱化や下地とパッド金属の接着不良が主因です。

内部的なプロセス問題への警告となるため、こちらも厳しい不合格基準です。

ネックブレイク(Neck Break)

ワイヤのボールボンド直後の首部(ネック部分)で断線するモードです。

この部位はボール形成時に金属が再結晶化や組織変化が発生しやすく、脆弱部となることが多いです。

原因の多くはボールのサイズやヒートの最適化未達、ワイヤ材質の問題です。

許容範囲は客先規定や社内規定で細かく分かれることがあります。

ヒールブレイク(Heel Break)

ウェッジ側・またはボール側のヒール、つまりワイヤの切り返し部で断線します。

このモードが多発する場合、ワイヤ径変更やパッド設計、ボンディング条件の見直しが必要なケースが多いです。

これも正常範囲内とするケースと、不良とするケースに評価基準が分かれます。

インターフェースセパレーション(Interface Separation)

ワイヤとボール、ボールとパッド、またはウェッジとパッドの接合界面での剥離です。

これは接合界面の反応・合金化不足、表面酸化、異物付着など材料的・工程的な問題が起因します。

顕微鏡観察で破断面が滑らか、金属光沢がなく変色していればこの不良モードと判定されます。

破断モード判定基準の策定

ワイヤボンドプルテストの破断モード判定基準は、JEITAやJEDEC、MIL-STD-883など国際規格や業界団体のガイドラインをベースに、各企業の品質基準・顧客要求を加味して定められます。

代表的な判定基準例

– ワイヤブレイク:合格
– ボールリフト/パッドリフト:不合格
– ネックブレイク/ヒールブレイク:要検討(一定割合以内であれば合格とする場合あり)
– インターフェースセパレーション:不合格

判定に迷う場合や新規材料・新プロセス導入時は、各々の破断面をSEM・EDX等で詳細分析して根本要因を特定することが重要となります。

また、合格・不合格判定のみならず、破断モードの傾向変化(例:ネックブレイク増加=ヒート、パワー不足の兆候)を管理指標とすると歩留まり改善や工程最適化にも有効です。

判定の実践ポイント

・サンプル数を充分確保し、多ロット・多台で統計的に有意な評価を行う

・破断モードはトレーニングされた担当者が顕微鏡下で観察する

・怪しいモードは上位の解析工程へエスカレーションし、再評価や詳細解析を行う

これらを徹底することで工程異常や品質低下を早期につかみ、大きな不良流出を防止できます。

速度依存性・判定基準と製品品質への関係

ワイヤボンドプルテストの速度依存性や破断モードの判定基準を誤ると、以下のようなリスクがあります。

– 過小申告による不良品流出

– エラー判定過多による不必要な再加工・廃棄

– 真の根本原因不明による工程改善機会の逸失

正しい速度設定、明確な破断モード判定、統一された評価基準の3本柱が、安定した製品品質、信頼性、および納品先への説明責任を果たす上で不可欠です。

まとめ:品質維持に不可欠なワイヤボンドプルテスト管理

ワイヤボンドプルテストの速度依存性は、単なる荷重値だけでなく、破断モードや工程原因解析、歩留まりや品質異常の早期発見に大きく関係します。

また、破断モード判定基準は業界標準に則りつつ、製品特性や顧客要求を踏まえて自社定義を明確にすることが肝要です。

効果的なテスト運用、標準化、定期的な見直しを行うことで、高度な品質保証体制を実現することができます。

ワイヤボンドプルテストの継続的活用が、半導体封止・電子デバイス分野における信頼性・競争力の向上につながるのです。

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