印刷会社と製紙会社で“色の基準”が一致しない構造的ギャップ
印刷会社と製紙会社で“色の基準”が一致しない構造的ギャップとは
印刷業界では、日々多くの印刷物が生産されています。
美しいカタログや広告チラシ、パッケージデザインなど、色彩は非常に重要な要素となっています。
一方、その印刷物の大半は、製紙会社が提供する紙の上に表現されます。
この両者は、いずれも高い品質を追求していますが、いざ“色の基準”という点に関しては、必ずしも一致していません。
なぜ、このギャップが生まれてしまうのでしょうか。
本記事では、印刷会社と製紙会社で生じる色基準のズレの背景や、その構造的な原因、そして業界をまたぐ色基準統一に向けた取り組みについて詳しく解説します。
印刷会社と製紙会社の役割の違い
印刷会社の色基準への意識
印刷会社にとって、色は最も重要な品質要素の一つです。
例えば、企業カラーやロゴなどのコーポレートアイデンティティを印刷物で忠実に再現するためには、正確な色味が求められます。
また、販促物やパッケージでは購買意欲をそそる鮮やかな色彩がクオリティの差別化ポイントにもなるため、色のブレ(ズレ)は大きな問題です。
このため印刷会社は、数値管理やカラーマネジメントシステム(CMS)を導入し、標準色見本(例えばJapan ColorやPantone)等を基準にして色合わせを行います。
こうした日々の細やかな色管理が、印刷現場では必須となっています。
製紙会社の基準と優先度
一方、製紙会社が最も重視するのは紙そのものの品質です。
白色度や不透明度、紙肌や厚み、表面平滑性、インクの浸透性や乾燥性など、多方面にわたり厳格な基準が用意されています。
確かに、用紙にも「白色度」や「色味の安定性」などの基準値は設けられていますが、それはインキ発色を左右する要素の一部に留まります。
製紙会社は大量生産ゆえに原料となるパルプや各種薬品の配合でわずかな色ブレが発生することを避けがたく、これを完全に均一にはできません。
また、紙単体での“色の基準”は存在しても、印刷インクとの総合的な仕上がりまでを完全に管理するのは困難です。
“色の基準”の食い違いが生まれる構造的な背景
印刷会社視点と製紙会社視点の違い
印刷会社は、クライアントから求められる「仕上がりの色」に責任を持っています。
依頼主の意図やブランドカラーを「最終的な印刷物」として再現できなければなりません。
そのため、紙の色合いやインクとの兼ね合いは業務の重要なポイントです。
対して製紙会社では「紙自体の品質」が最大の使命です。
紙表面の微妙なトーンは、自社の技術で可能な範囲で均一化できても、インクが載った状態や様々な印刷方式での見え方まで考慮するのは容易ではありません。
さらに、印刷用紙と一口に言っても用途や加工法によって種類が多岐にわたります。
このため、両者の色基準には根本的なズレが生まれやすく、「紙の色は合格基準に達しているが、印刷現場では色味がズレてしまう」といった現象が頻発するのです。
色の標準化を巡る難しさ
印刷における“標準色”と言えば多くの場合、Japan ColorやG7、Pantoneなどのカラーガイドが参照されます。
しかしこれらは主として「印刷した後の仕上がり色」を基準にしたもので、紙の色味・質感まで厳密に規定しているものではありません。
実際には紙ごとに白色度や赤み、青みのトーン差、表面反射のクセなどがあるため、同じカラーガイド番号でも用紙が異なれば発色は微妙に変わります。
印刷会社はこの“用紙による色ズレ”を調整作業や事前テストで吸収しようとする一方、製紙会社から見れば「用紙自体は規格通り」でも現場の要望との間にギャップが生まれやすい状況です。
また、用紙を大量生産する際の工程変動や原材料ロット差でも微細なカラーのブレは避けられず、納期や価格とのバランスからもアジャストには限界が生じます。
色基準の不一致がもたらす現場の困りごと
色校正時の食い違い
新規印刷案件で良くあるのが「色校正」の段階での問題です。
デザインデータやカラーチップを元に印刷会社が校正刷りを作成し、色味を確認しますが、用紙のロット違いや予定していた紙の色味変動によって「想定した再現色」とズレが生じることがあります。
この時、多くのケースで「どちらの色基準に合わせるべきなのか」の判断が難しくなります。
製紙会社は「紙は仕様通り」と主張し、印刷会社は「指定されたカラーチップ通りにならない」と悩む構造です。
クライアントの要望との狭間
最終クライアントが“特定の色”に強いこだわりを持っている場合、用紙のわずかな色差や季節による生産変更が思わぬトラブルの元になることがあります。
指定色が絶対条件の場合、紙の発注~納品のたびに細かな色確認や追加の色校正が必要となるため、コスト・リードタイムの面で大きな負担となります。
このような“現場の困りごと”は、色基準不一致によるコミュニケーションギャップが生み出している典型例といえるのです。
なぜ色基準の統一が進まないのか
業界構造と責任の分散
印刷物は「印刷会社→紙問屋→製紙会社」という多層的な流通構造を取っています。
発注側と製造側の間に複数の仲介者が入り、直接コミュニケーションを取る機会が少ないことが、情報の非対称性を生みやすくしています。
また、「どこまでが紙の責任範囲なのか」「どこからが印刷側の調整なのか」という切り分けが曖昧になりやすいことも、色基準統一を困難にする要因です。
このように、業界全体での総意形成が難しい点が、根本的なギャップの背景にあります。
コストと技術の壁
仮に業界横断で“紙・インク・印刷方式を問わない標準色”を厳格に統一するとなると、製紙メーカーや印刷会社双方でコスト負担が増大します。
製紙会社には生産管理工程のシビアな見直しや原料特性の微調整が求められますし、印刷会社にもさらなるカラーマネジメント機器や工程管理投資が必要となります。
一方で、HIT商品やブランドロゴの再現性といった特殊な案件では、ここまでの投資・調整作業を一時的に行うことも不可能ではありません。
しかし、日常的な印刷全般にこれを要求するのは経済合理性に見合いません。
色ズレリスクと“歩み寄り”に向けた最新の取り組み
カラーマネジメント技術の進化
従来はオペレーターの熟練度や経験値によって色合わせが頼られてきましたが、近年ではスペクトル分析計や高精度スキャナ、ソフトウェアによるカラーマネジメントの導入が進んでいます。
ICCプロファイルによる色変換や、Japan Color等の標準管理基準および印刷機の自動制御技術によって、“ギャップ”を最小化するシステムが現場に浸透しつつあります。
用紙ロット情報の事前共有
製紙会社~紙問屋~印刷会社の間で、納品ロットごとの白色度・色味情報を数値で管理し、事前に共有する取り組みも始まっています。
このデータを元に、印刷会社があらかじめ印刷設定や色再現方法を調整すれば、現場での「想定外ズレ」リスクが減り、クレームや手戻りも減少します。
業界横断の色基準再考
印刷会社、製紙会社、さらにはインクメーカーまで巻き込んだ色基準の再整理や、相互理解のための研修会・勉強会開催の動きも見られるようになっています。
顧客視点に立ち、「何を最終ゴールとするのか」を改めて共有する場が増えており、「共通言語」としての色基準づくりが今まさに求められているのです。
まとめ:印刷業界に求められる“色基準”の未来像
印刷会社と製紙会社の構造的ギャップは、技術や体制の進化とともに少しずつ縮まりつつありますが、完全な色の統一は今なお困難です。
しかし、現場ごとの工夫やデータ連携、最新技術の導入によって“色ズレ”リスクを許容範囲内に収める仕組みづくりが進んでいます。
両業界が歩み寄り、それぞれの立場や価値観への理解を深める努力があれば、「高品質な印刷物を、安定して届ける」という顧客本意の姿勢に限りなく近づけるでしょう。
印刷物における「色の価値」をさらに高めていくために、今後も業界を横断した協働と対話、そしてテクノロジー活用が期待されています。