“エコ紙”の質を保ちながらコストを下げる困難さ
“エコ紙”の導入とコストダウンの現状
“エコ紙”とは、環境に配慮して生産された再生紙や非木材紙、省資源・省エネルギー技術を用いた紙製品の総称です。
企業の環境意識の高まり、SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素社会へのシフトを背景に、従来の化学パルプ紙に替わる形で需要が拡大しています。
特に、事務用紙、パッケージや印刷物、コンビニのレシート、外食チェーンの包装材など、私たちの生活のあらゆる場面で“エコ紙”は選択肢となっています。
一般的に“エコ紙”は、環境負荷低減や資源循環を目的とした再生紙を中心とし、そのクオリティや原材料由来によって価格や利用目的が異なります。
しかしながら、質の高い“エコ紙”を、従来紙と同等もしくは低価格で供給することは決して容易ではありません。
ここにコストダウンの難しさがあります。
この記事では、エコ紙の質やコスト構造、コストダウンが難しい理由とその対策について詳しく解説します。
“エコ紙”の基礎知識と種類
“エコ紙”の主な種類
“エコ紙”には主に以下の種類があります。
- 古紙配合再生紙(オフィス古紙・新聞古紙・段ボール古紙など)
- 非木材紙(バガス、竹、ケナフ、ワラなど農産廃棄物利用紙)
- FSCやPEFCなど認証パルプを用いた紙
- バイオマスインキや省資源・省エネルギー工程による紙
それぞれ資源循環や森林保全、CO2削減への貢献度合いに違いがあります。
また、白色度や強度、印刷適性など、紙本来の性能にも差が生じやすく、これがコストや用途選択に影響します。
再生紙の品質と評価軸
再生紙では古紙の配合率が品質の一つの目安です。
よく見かける「古紙パルプ配合率70%」といった表記は、原料パルプのうち古紙由来のものが7割であることを示します。
しかし単純に配合率のみ高めれば良いとも限りません。
なぜなら古紙原料が増えるほど、不純物や着色、強度低下などの課題が増すからです。
品質を維持するためには次の項目が重要です。
- 白色度:漂白やインク抜き工程で透明感や明るさを確保
- 強度:断裂や折れに耐える抄紙・乾燥技術
- 印刷適性:インクののりや仕上がりの美しさ
紙の使用シーンごとに求める性能は異なります。
本やパッケージでは高い白さや強度、チラシやコピー用紙ではコスト優先で古紙比率を高めるなど、各社ごとのバランス調整が不可欠です。
“エコ紙”のコスト構造と価格が高くなる理由
原料の調達コスト
エコ紙原料である古紙や非木材繊維は、必ずしも安価とは限りません。
古紙パルプは世界的に需要が高まっている一方で、品質維持や異物除去に手間がかかります。
また、非木材のバガスや竹などは季節変動や収穫コストも無視できない要素です。
更に、古紙は“回収・選別→脱インク→漂白→パルプ化”という複雑な再資源化工程を経て紙原料へとなります。
古紙由来成分が増えるほど、異物除去や染色補正、漂白などのコストがかさみ、必然的に紙の単価も上昇します。
生産プロセスの難しさ
従来のバージンパルプ紙と比べて、エコ紙は製造プロセスが複雑です。
大量生産に最適化された設備であっても古紙や非木材原料は均一性・純度にばらつきがあり、不良率のコントロールが難しい傾向があります。
また、生産ラインの途中で設備洗浄や異物除去、歩留まり改善など余分な工程が発生しやすい点もコストアップの要因となります。
サプライチェーン・物流コスト
原料回収から利用現場まで複数業者が関与するエコ紙は、サプライチェーンの管理が重要です。
特に都市部回収古紙は物流費用が高騰しやすく、地方では反対に回収量や原料ストックの確保に限界が生じやすい傾向です。
そうした点もエコ紙コストダウンを阻む壁となっています。
質を維持しつつコストを下げる困難さ
“質”の本質と維持するためのハードル
「質」とは単に物理的な強度や純度だけでなく、消費者の印象や使い心地、サステナビリティ評価の高さまで含みます。
特に次の点が難しさを増しています。
- 漂白量を減らせば白色度低下や紙面の色むらが目立つ
- 古紙比率を高めると耐久性や強度が落ちやすい
- 異物・におい・ざらつきなど感覚的なマイナスポイント
- 非木材原料由来の独特な風合いは評価が分かれる
質を落とさずにコストを抑えようとすれば、高度な設備投資、原料確保・管理コストが逆に増大することも少なくありません。
薄利多売のビジネスモデルとのジレンマ
紙業界全体の営業利益率は低く、価格競争の激化も続いています。
安価な海外産バージンパルプ紙、化学合成紙との競争もあり、値下げ圧力が強いのが実情です。
それに対して再生紙【エコ紙】は、むしろ控えめな生産規模・持続可能な原料調達が必須条件です。
安定的に質の良いエコ紙を安価に供給するには、既存の大量生産型ビジネスモデルとは相容れない要素が多く、そもそも成り立ちにくいジレンマが生まれています。
時代背景と消費者意識のギャップ
企業のESG投資や環境ブランド構築が重視される現在、多少の価格差なら積極的にエコ紙を選ぶ企業・消費者も増えています。
一方で、一般的な家庭や小規模事業者ではやはり「安さ」優先志向も根強いです。
この意識差も、質とコスト双方を満足させる商品作りを困難にしています。
現状打破のための取り組み事例
製造プロセスの効率化
日本国内外の大手製紙企業は、再生紙の工程短縮や効率化に大規模な設備投資を行っています。
古紙パルプの洗浄自動化、異物除去工程のAI化、省薬品漂白、省エネルギー乾燥技術などが開発され、徐々にコストダウン効果も現れています。
また、バイオマスエネルギーの自社活用、古紙の地産地消ネットワークの強化も進展中です。
SDGs需要に応じた高付加価値エコ紙開発
単なる再生紙ではなく、「ストーリー性」を持たせたエコ紙商品開発も進んでいます。
例えば、
・地域の里山保全をテーマにした間伐材混合紙
・廃材アートや地場産業コラボの限定パッケージ用紙
・CO2排出量を“見える化”した紙など
付加価値で差別化し、環境投資を価格転嫁することで受け入れられやすくなっています。
サーキュラーエコノミー型サプライチェーンの構築
自治体や企業連携で、回収・再資源化・製品化までを循環させるエコシステムの取り組みも注目されています。
たとえば印刷会社・自治体・製紙メーカーが一体となり“地元で回収→地元で再生紙供給”という地産地消モデルを実現することで、物流コストや原料調達コストを抑える効果が期待されています。
今後の課題と展望
質の高いエコ紙を低コストで供給するためには、さらなる技術革新や業界横断型のサプライチェーン改革が欠かせません。
- 分別回収制度の徹底による原料古紙の純度向上
- 非木材原料の大量生産・農地活用の模索
- 新素材(セルロースナノファイバーなど)の実用化
- バイオマス化学品や副産物活用によるマルチインカム
これらを現実のものとするためには、官民連携や消費者教育、長期的な投資回収を見据えた産業政策も不可欠です。
また、小規模事業者や新興国市場向けには、ローカルニーズに合わせた分散型・低コスト製造モデルの創出も鍵となるでしょう。
まとめ:エコ紙コストダウンの“答え”は一つではない
エコ紙の質を高めながらコストを下げることは、単なる安価な材料調達や製造プロセスの効率化だけで解決できる課題ではありません。
サプライチェーン全体の最適化、技術革新、消費者理解の全てが連携してこそ、持続的なビジネスモデルが成立します。
これからも企業、自治体、消費者が「質」と「価格」だけでなく「サステナビリティ」「ストーリー」も含めて価値を評価し、一歩ずつバランスの取れた社会を目指すことが求められています。