油脂加工の精製工程が複雑で小ロット対応が苦しい事情

油脂加工の精製工程の基礎知識

油脂加工産業は、食用油、工業用油、化粧品原料など多岐に渡る分野に広く利用される重要な基幹産業です。
原料となる植物油や動物油は、搾油された時点では多くの不純物を含んでおり、食品や工業製品として使うためには、高度な精製工程が欠かせません。

この精製工程は、一見シンプルなようでいて、実は多段階にわたる高度な技術と設備が求められます。
しかも、工程の複雑さゆえに「小ロット生産」への対応が非常に難しいという構造的な課題も抱えています。

ここでは油脂の精製工程の概要と、その複雑さが小ロット生産にどのような壁となって立ちはだかっているのかを詳解します。

油脂精製の主な工程

油脂精製には主に以下のステップが存在します。

1. 脱ガム(ガム質除去)

原料油にはリン脂質などのガム質が含まれており、これを除去するのが最初の工程です。
この工程では、水や酸を加えてガム質を沈殿させ、遠心分離で取り除きます。

2. 脱酸(遊離脂肪酸の除去)

遊離脂肪酸は油脂の品質や保存性、風味に悪影響を及ぼすため、苛性ソーダなどのアルカリ処理を用いて石鹸にし、水洗で除去します。

3. 漂白(色素・不純物の除去)

脱酸まで終えた油脂には、まだ色素や微量の不純物が残っています。
これを活性白土や活性炭と呼ばれる吸着剤を使って取り除き、見た目や品質を改善します。

4. 脱臭(揮発性成分の除去)

油脂には本来の油臭さや、精製中に発生した臭気成分が残っています。
これを高温・高真空下で水蒸気を通すことにより揮発させて除去します。

これらの工程を経て、ようやく高品質な精製油脂が生産されるのです。

工程が複雑である理由

それぞれの工程は、前処理での処理状況や原料の性質によって条件が大きく変わります。
たとえば原料の産地や作柄によって、遊離脂肪酸の割合や不純物の種類が異なります。

このため、最適な薬剤の量や処理温度、処理時間などを都度細かく調整する必要があり、工程ごとに高精度の管理が求められます。
また、各工程で発生する副産物や廃液の適切な処理、設備の洗浄・切り替えにも非常に手間がかかります。

工程間を自動化するための複雑な配管システム、大型の遠心分離装置や加熱・真空装置、精密な流量コントロール機器が必要になるため、設備投資コストも非常に高額となります。

なぜ油脂精製は小ロット対応が難しいのか

1. 設備の最小稼働量が大きい

精製設備は、一般に数トン~数十トン単位の原料を一度に処理することを前提に作られています。
これは工程内で発生する廃液や副産物の処理を効率化し、一定以上の生産量でなければ経済的でないためです。

小ロット、すなわち数百キログラム程度の原料では、設備全体がオーバースペックとなり、歩留まりやコスト面で見合わないケースが多くなります。

2. 転換ロスと洗浄負担

異なる油脂原料や仕様に加工ラインを切り替えるたびに、各配管・タンク内の残油や副産物を完全に洗浄する必要があります。
ライン切り替えにかかる時間や残油ロス、洗浄液のコストもばかになりません。

小ロットごとに転換を繰り返すと、本来得られる生産量よりも多くのロスが発生し、コスト高となってしまいます。

3. 品質保証とトレーサビリティの難しさ

小ロットでは工程ごとに細かな運転調整をする必要が増し、オペレーターの負担も増加します。
また、最終製品の品質検査や工程記録、トレーサビリティ管理の手間も相対的に増大します。

大量生産体制下では一度に多くの製品を高い均質性で作れますが、小ロットではバラツキが出やすくなり、品質保証コストもかさみます。

小ロット製造へのニーズが高まる背景

近年、消費者ニーズの多様化や食品の差別化志向の高まりにより、小規模なOEM生産や独自ブランドのオイル、特殊配合油の需要が増しています。

健康志向向けの高機能食用油や、特定原料を使った工業用・化粧品原料の開発、新種原材料のテストマーケティングなど、少量多品種対応は今後も強まっていく流れです。

しかし、従来型の大規模連続精製プラントでは、こうした小ロット案件へ効率良く対応することは非常に困難です。
既存業界と新興小ロット市場の間には、大きなギャップが生じています。

小ロット精製にチャレンジする現場の取り組み

1. バッチ式精製プラントの導入

比較的小規模の製油メーカーや受託加工会社では、連続式でなくバッチ式の精製装置を導入するケースがあります。
バッチ式は投入量や処理時間を細かく調整できる一方で、運転ごとの洗浄や手間がかかるため、個々のオペレーターへの負担が大きくなります。

薬剤やエネルギー消費の最適化も難しく、量産のコスト対効果には及びませんが、特殊品種や高付加価値油脂ではバッチ式の価値が見直されています。

2. 分散製造ネットワークの活用

一つの大型工場ですべてに対応するのではなく、小ロット案件は専門化した受託企業へアウトソーシングする動きも見られます。
また、各地に分散した中小事業者が連携し、生産能力のシェアや専門装置の共同利用によって、オーダーメイド精製を柔軟に実現する取り組みも進みつつあります。

3. IoT・自動化技術の導入

精製工程の記録や監視、薬剤投与量の精密制御をIoTや自動化機器によって最適化することで、小ロット生産での品質安定化・コスト削減が期待されます。
クラウドベースでの運転履歴管理や、小型センサーによる原料特性のリアルタイム判定など、次世代の精製現場づくりも始まっています。

今後の油脂小ロット加工の可能性と課題

「小ロット対応」は決して業界の主流にはなっていませんが、消費者視点やサステナビリティ志向の台頭によって、中小ロットで高付加価値油脂を作る需要は年々高まっています。
ですが、上述したような精製工程の複雑さ、設備投資やロスコスト、オペレーションの課題は簡単には解消できません。

今後は油脂メーカー・精製受託業者とも、設備の小型化・多機能化や、AI・自動化の導入による運転最適化といった技術革新がカギになります。
さらに、原料調達~製品化までのバリューチェーン全体での効率化とコスト適正化が、業界発展において必要不可欠です。

まとめ

油脂加工の精製工程が複雑である最大の理由は、原料の多様性や品質変動への柔軟な対応、ならびに高度な設備・管理技術を要する点にあります。

これにより精製プラントは大型化・連続化が進み、大量生産でこそ真価を発揮しますが、小ロット対応では現場負担やコスト高、品質管理の難しさが大きな障害となっています。

食用・工業用・化粧品用など、ますます細分化する市場ニーズに応えるためには、業界を挙げて効率化・自動化への投資と新たな精製モデル開発が不可欠です。

本記事の内容が、油脂加工業界やOEM依頼を企画する方、また食品・化粧品・工業分野で小ロットオイルを活用したい皆さまへ、課題解決のヒントとなれば幸いです。

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