赤外パルスサーモグラフィの熱拡散解析と接着不良定量化

赤外パルスサーモグラフィとは何か

赤外パルスサーモグラフィは、非破壊検査技術の一つとして知られています。
被検体表面に瞬間的な熱パルス(一般的にはフラッシュランプやレーザー)を照射し、赤外線カメラで温度変化を時系列で観測します。
この温度応答データから、対象物内部の異常や欠陥、接着状態などを高精度で可視化することが可能です。

熱拡散現象を利用し、材料や構造物の内部評価ができるため、自動車、航空宇宙、建築、電子機器分野などで幅広く採用されています。

赤外パルスサーモグラフィによる熱拡散解析の原理

赤外パルスサーモグラフィでは、熱源によって発生した表面の温度変化が内部を伝わる熱拡散現象を解析します。
この現象は、フーリエの熱伝導法則に基づくもので、熱エネルギーが材料内部を伝播する速さや方向を計測することで、内部構造の評価が可能になります。

特に熱拡散率(thermal diffusivity)は、材料の熱伝導率・密度・比熱容量から決定され、これが異常部や接着不良部分の特定に重要な指標となります。
熱波が健全な部分ではスムーズに伝わりますが、異常や剥離、不良箇所では伝播の仕方が異なり、表面の温度分布として現れます。

温度応答曲線の重要性

測定時に得られる温度応答曲線(時間-温度データ)は、赤外パルスサーモグラフィ解析の核となります。
健全部と欠陥部ではこの曲線の形状やピーク位置、温度上昇・下降の速度に違いが生じます。
この差分を解析し、数値的に熱拡散特性を抽出することで、欠陥検出や定量評価が可能となります。

熱拡散解析の手法

熱拡散解析にはいくつかの代表的手法があります。

時間領域解析

温度変化を時系列で解析し、応答の遅れや時間とともに現れる欠陥位置の推定に用いられます。
例えば、最大温度上昇時間、あるいは温度が基準値に到達するまでの時間差を比較分析します。

周波数領域解析

フーリエ変換を用いて、温度データを周波数領域に変換し熱伝播のパターンを解析します。
これにより、ノイズ成分除去や微細な異常部の抽出がしやすくなります。
また、周波数ごとの位相・振幅情報から熱拡散率の違いを明確にすることができます。

パルスターゲット法(PPT法)

被検体に短時間のパルス熱を加え、その直後の温度応答を詳細に可視化する手法です。
これにより、微小な欠陥や表面下の異常を効率良く見つけることが可能です。

接着不良の定量化

赤外パルスサーモグラフィを用いた接着不良部分の定量化は、自動車や航空機の構造、電子部品の評価において極めて重要です。
定量化とは、ただ単に「不良あり・なし」だけでなく、その範囲や程度、深さまで客観的数値として評価することです。

定量評価の流れ

接着部の評価対象に熱パルスを照射し、赤外線カメラで応答を取得します。
表面温度変化データから健全領域・不良領域ごとの熱拡散速度や最大温度上昇量、温度差異などを抽出・比較します。

故障部は熱伝導が阻害されるため、特有の温度応答を示します。
解析ソフトウェアを活用して温度分布マッピングを行い、健全部と不良部の閾値を設定することで、不良サイズや割合、深さを数値化します。

応用例

具体的な事例として、複合材のラミネート構造や接着面の品質検査があります。
例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の多層積層板での接着不良は、層間剥離や空隙が熱拡散挙動に反映され、サーモグラフィ上で異常領域として浮かび上がります。
また、アルミニウムやスチールなどの金属材料の接合面でも、接着剤の硬化不良や空洞の発見が可能です。

定量解析手法の進化

近年では、AIやディープラーニングを活用した画像解析アルゴリズムを組み合わせる事例が増えています。
人間の目だけでは識別が難しい微細な不良解析も、多数のデータを学習したAIが自動で不良領域を抽出し、定量指標として出力します。

また、多点センサーや高速赤外線カメラによる高精度・高時間分解能な測定も一般的となり、評価の信頼性や再現性が大きく向上しています。

赤外パルスサーモグラフィ導入のメリット

非接触・非破壊で評価ができる観点から、製品や構造物の品質管理、維持管理コスト削減に大きく貢献しています。
以下、その主なメリットです。

短時間で広範囲検査可能

短いパルス加熱だけで広範囲の検査が可能なため、従来の超音波探傷やX線検査と比べて、検査時間の大幅短縮と作業効率化が図れます。

隠れた欠陥の発見

表面上からも内部の深部まで熱伝播の挙動を可視化できるため、目視検査や他の簡易検査法では見逃されがちな微小な接着不良や隠れた空隙・剥離も発見できます。

製品歩留まり・信頼性向上

生産工程中に連続して検査を行うことで、不良品の早期発見や原因特定が可能です。
これが製品全体の品質向上や信頼性強化につながります。

赤外パルスサーモグラフィを活用する際のポイント

有効な解析・運用のために注意すべきポイントを以下に挙げます。

加熱条件の最適化

熱パルス強度が強すぎると表面過熱や材料変形が起こる恐れがあります。
逆に弱すぎても十分な温度変化が得られず、欠陥検出感度が低下します。
材料や構造に応じて最適な加熱条件(時間、パルス強度、距離など)を設定することが不可欠です。

測定環境の制御

外光や風、温度変動などの外乱要因があると、正確な熱応答取得が難しくなります。
できるだけ安定した環境下で測定を行い、遮光・遮熱対策や適切な基準設定が必要です。

解析アルゴリズムの選定

被検体の材質や構成、検査目的により最適な解析手法が異なります。
事前に小規模なテスト解析を実施し、対象に最適な熱拡散解析・画像分析法を選択すると良いでしょう。

今後の展望

赤外パルスサーモグラフィ技術は、今後も進化を続けます。
超高速カメラの普及やAIを活用した自動判別技術、マルチモーダルセンシング(他のセンサーとの融合)による欠陥検出精度のさらなる向上が進んでいます。

また、現場でのモバイル赤外線センサーやクラウド連携、IoT化によるリアルタイム検査・遠隔監視の実現も期待されています。
自律化や自動判別化が進めば、より簡便・安価・高信頼に接着不良の定量評価が可能となり、ものづくり現場やインフラ点検のDX推進にも大きな役割を果たすでしょう。

まとめ:赤外パルスサーモグラフィの可能性

赤外パルスサーモグラフィは、熱拡散解析を軸として接着不良の定量化に極めて有効な手段です。

非破壊・非接触で短時間に広範囲の評価が可能であり、従来法が抱える多くの課題をクリアできます。

今後も技術革新が進み、さらに精度が高く・使いやすい検査手法として様々な産業で利用が加速することが予想されます。

適切な導入と運用によって、より高品質・高信頼なものづくり、安全安心な社会インフラの維持管理に大きく貢献する赤外パルスサーモグラフィの活用をぜひご検討ください。

You cannot copy content of this page