革の香り付けが均一にならずブランドの世界観が壊れる問題
革の香り付けとは何か
革製品には独特な風合いや手触りだけでなく、独自の「香り」という特徴があります。
この香りは革本来の性質によるものだけなく、製造過程で「香り付け」が施される場合も多くあります。
香り付けは、製品ブランドの個性や魅力を強化し、消費者の感情に訴える重要な要素となっています。
とくに高級ブランドやラグジュアリーなアイテムでは、革の“香り”にも徹底したこだわりを持ち、ブランド独自のイメージを香りで体現しようとします。
顧客の心理に深く訴え、ブランドの世界観を成立させる重要な役割を担っているのです。
香り付けの工程とその難しさ
革の香り付けは、タンナー(革の加工業者)やブランド独自の専任スタッフが繊細な作業を行います。
一般的に、次のような工程があります。
1. 香料の選択と開発
ブランドイメージに最適な香料が選定されます。
場合によってはオーダーメイドで香料を開発することもあります。
2. 香料の混合・希釈
香料は原液のまま使うことはほとんどありません。
皮革素材や最終商品に応じて希釈や他の素材との混合が慎重に行われます。
3. 香りの付与
刷り込み、スプレー、浸透などさまざまな方法で革に香りを付けます。
この際、革の厚みや吸収率、温度、湿度など多くの変数を考慮しなければなりません。
4. 乾燥・定着
付与した香りを定着させるため、一定時間置いて乾燥させます。
均一に香りが広がるよう細心の注意が求められます。
この一連の作業は職人の経験や勘に大きく頼る部分もあり、手作業で行われることが多いのが実情です。
そのため、香り付けがうまくいかず、均一さに欠ける場合が発生しやすいのです。
香りのムラが生むブランドイメージへの影響
ブランドの世界観を象徴するはずの香りが、均一に付与されていない場合、どのような問題が起こるのでしょうか。
1. 期待外れの体験に繋がる
顧客はブランドの“統一された世界観”に期待します。
パッケージを開けた瞬間に感じられる香りが異なっていれば、消費体験自体が期待外れとなり、口コミやブランド評価の低下につながるリスクがあります。
2. 返金・返品の増加
ブランドによっては、お客様から「以前購入した商品と香りが違う」「強すぎる・弱すぎる」といったクレームや返品に発展する事例が発生します。
こうした事態はコスト増を招くだけでなく、社員の士気低下やブランドロイヤルティの喪失にも繋がります。
3. 世界観・ストーリーの崩壊
ブランドが紡いできた歴史やストーリーは、視覚や触感だけでなく、「嗅覚」にも依拠しています。
香りのぶれやムラは、ブランドのストーリー性を根本から揺るがす結果となる恐れがあります。
香り付けが均一にならない主な要因
香り付けのムラはどうして起こるのでしょうか。
その主な要因を整理します。
1. 革素材自体の特性差
天然素材である革は、一枚ごとに吸収率や質感が異なります。
同じ香料や量を用いても、吸収具合にバラつきが生まれるため、香りが一定になりにくいのです。
2. 作業環境の変動
温度や湿度、作業時の気圧などが作業場ごとや時間帯ごとに異なると、香料の揮発や浸透の速度が変化します。
そのため微妙な香りのムラが発生しがちです。
3. 作業者のスキル・手順バラつき
職人の手作業に委ねられることが多いため、経験や個人差によって手順や力加減に差が生じます。
結果として安定した香りの付与が難しくなります。
4. 香料そのものの管理・品質変動
香料は空気や光、温度変化によって品質が変わるデリケートな素材です。
保管状態やロットによる微妙な差が製品ごとの香り違いの要因になります。
ブランド世界観を守るための対策
ブランドイメージを壊さないため、香り付けの均一化に向けて業界ではさまざまな工夫がなされています。
1. 革の品質基準の見直し
原皮の段階から吸収率や質感を揃えるため、仕入れや選別の基準を厳しくします。
品質管理の徹底が、香り付与の安定化につながります。
2. 香料付与のマシン化・自動化
人の手だけでなく、自動噴霧装置やスプレーマシンを活用し、同じ量を正確に吹き付ける技術を導入します。
ITやAIによる品質コントロールの研究も進められています。
3. 仕上げ時の香りチェック体制強化
最終工程で人の目・鼻による検品を徹底し、香りが基準から外れている場合はリワークを行う体制を設けます。
香りのプロフェッショナル(調香師)の監修下でチェックするブランドも増えています。
4. 顧客コミュニケーションの工夫
わずかな香りの違いにも納得いただけるよう、天然皮革素材の特性や、香りの個体差について公式サイトや店頭で説明し、ユーザーに“個性”として理解を促します。
均一化の先にある“唯一無二”なブランド香
香りの均一化は、ブランド世界観を守るうえで非常に重要です。
一方で、天然素材ならではの微妙な個体差は、“ものづくりの温かさ”や“唯一無二の体験”として肯定的に捉える考え方も根強く存在しています。
たとえば、同じブランドの中でも、その年のロットや職人ごとの微差を“ストーリー”として楽しむ高度なファンもいます。
ブランドは、均一化を徹底することだけに固執せず、顧客が「その違いを個性的な魅力」として感じられるようなブランディングやコミュニケーションも同時に磨かなければなりません。
まとめ:ブランドへの信頼を守るためには
革製品における香り付けのムラは、ブランドの世界観を損ない、顧客体験を大きく左右する問題です。
そのため、素材や工程、品質管理、スタッフ教育など多角的なアプローチで均一化へと近づける努力が必要不可欠です。
しかし、天然素材特有の個性や作り手の想い、その年ごとの微細な違いをもブランドの一部として受け止め、顧客とともに価値を高めていく姿勢も、ラグジュアリーブランドには求められています。
香り付けの均一化と“ものづくりの多様性”をどちらも両立させ、高いブランドイメージを維持していくことが、今後の重要課題と言えるでしょう。