水性インキの定着が不安定になり乾燥が追いつかない理由
水性インキの定着が不安定になり乾燥が追いつかない理由
水性インキは環境に優しい印刷材料として多くの現場で使われていますが、時にはインキの定着が不安定になったり、乾燥が追いつかず工程に支障が生じることがあります。
このような問題がなぜ発生するのか、その原因と対策について詳しく解説します。
水性インキとは何か
水性インキは、有機溶剤の代わりに水を主成分としたインキのことを指します。
主に新聞や段ボール、包装材などの印刷で多用されるほか、環境配慮型の製品として注目されています。
一般的に、水性インキは以下の三つの要素で構成されています。
- 顔料または染料(色をつける成分)
- 水(溶剤、キャリアとなる)
- 樹脂や添加剤(分散安定・定着・速乾・耐水性のため)
水が揮発し、樹脂や顔料が紙面に残ることで色が定着します。
水性インキの定着が不安定になる主な理由
水性インキの定着が不安定になる原因にはさまざまな要因が関与しています。
1. 紙や印刷素材の違い
水性インキの乾燥や定着性は、印刷素材の吸収性に大きく左右されます。
未塗工(コートしていない)紙のように吸収性が高い素材では、水分が繊維内部にすぐに浸透しますが、吸収性が低いコート紙や合成紙、プラスチックフィルムなどでは乾燥に時間がかかります。
さらに紙の表面に塗布されたコーティングの種類や、その厚み、均一性が変わるだけでも、インキの吸収スピードと定着性は大きく変化します。
2. 印刷環境の温度・湿度
水性インキは水分が揮発して乾燥・定着するため、印刷工場の温度と湿度が非常に重要な要素となります。
一般的に、湿度が高いと水分の蒸発が遅くなり定着が安定しません。
逆に、冬場など温度が低い場合も、気化速度が下がるため乾燥が遅れます。
また、急激な乾燥はインキの表面だけが先に乾き、内部はべたついたままという中途半端な状態にもなりがちです。
3. インキ自体の特性と配合
水性インキの配合バランスや使われている樹脂の種類によっても乾燥・定着のしやすさが変わります。
例えば速乾性のインキであっても、水分の割合や顔料・樹脂のバランスが良くないと、定着の安定性が失われることがあります。
インキタンク内での分散状態が悪い(顔料の沈下や凝集が起こっている)場合や、保存期間が長く劣化したインキは定着不良や乾燥遅延の原因となります。
4. 印刷機・乾燥装置の問題
近年の高速印刷機では、1分間に数百メートルの用紙を運びながらインキを転写します。
このスピードが高いほど、インキが表面で十分定着する前に次工程へと流れてしまうリスクが上がります。
また、乾燥装置の効率が悪かったり、熱風やIR(赤外線)乾燥機の出力が不足している場合にも、インキが完全に乾かず、機械内部で汚れやすくなります。
5. 過剰なインキ供給(盛りすぎ)
色の発色を強くしようとインキの量を増やしすぎると、多くの水分が印刷物上に残り、乾燥が追いつかなくなります。
これは特にベタ塗り部分で顕著に表れます。
また、濃度管理を怠るとインキ層が極端に厚くなり、下層部分の水分が完全に蒸発しないため、定着不良や裏写りといったトラブルを誘発します。
水性インキの乾燥メカニズム
水性インキの乾燥は主に物理的な乾燥と樹脂の皮膜形成の2段階から成り立っています。
1. 水分の蒸発
まずインキ中の水分が空気中に蒸発します。
ここで重要なのは「空気の流れ(換気)」と「湿度」です。
換気が不十分だと、水分が空気中に飽和して蒸発しにくくなります。
2. 樹脂・添加剤の成膜
水分が抜け切ると、インキ中の樹脂や添加剤が紙や基材表面に均一な皮膜を形成し、これにより顔料・染料がしっかりと固着します。
ここで、成膜に必要な温度が確保されていないと、ベタつきやすい状態が残り定着不良の原因となります。
水性インキの乾燥遅延や定着不良の具体的なトラブル例
裏移り(セットオフ)
印刷物を積み重ねる際、完全に乾いていないインキが次の紙面に移る現象です。
高速印刷や湿度の高い環境でよく見られます。
ブロッキング
乾燥途中の印刷物同士が密着し、剥がした時に表面のインキが剥離する現象です。
セットオフと似ていますが、さらに深刻なトラブルとなります。
にじみや滲み
インキの水分が吸収されず、紙面で広がってしまうことで発色が汚くなる現象です。
基材の吸水性・インキの粘度が合っていない場合に多発します。
発色不良・色むら
インキがムラなく乾かない、または表面に均一に定着しないために発生します。
特に厚盛り印刷や湿度調整の不良で目立ちます。
水性インキの定着・乾燥トラブルへの対策
水性インキの特性を理解し、工程ごとに適切な管理・調整を行うことで、定着の安定化や乾燥トラブルの防止が可能です。
1. 印刷環境の最適化
印刷現場の温度・湿度管理を徹底しましょう。
適正な室温は20~25度、湿度は50~60%が目安となります。
また、換気や送風ファンの利用でインキ上部の湿潤空気を排除し、蒸発速度を高めることも有効です。
2. 印刷素材に合わせたインキ選び
吸収性の低い素材には、専用の速乾型インキや改質樹脂を使った定着性の高いインキが推奨されます。
また、基材に合わせて粘度や流動性を調整できるよう配合バランスも見直すことが重要です。
3. インキ供給量の制御
色調管理や濃度管理を徹底し、インキを必要以上に盛りすぎないよう注意しましょう。
特にベタ部や網点部での塗布量には敏感になる必要があります。
4. 機械・乾燥装置のメンテナンス
乾燥装置(熱風、IR、エアブローなど)の機能点検や適正な出力管理を行い、インキ乾燥性能を最大限に発揮できる状態を維持しましょう。
また、用紙搬送スピードも適切に設定することが重要です。
5. インキの品質・保管管理
インキの劣化や沈降、異常な分離がないかを随時チェックし、必要に応じて撹拌や調整を行います。
使用期限や保管方法にも注意しましょう。
まとめ:安定した水性インキ定着のためにできること
水性インキの定着や乾燥の安定性には、多くの条件が複雑に絡み合っています。
とくに印刷素材、印刷環境、インキの配合、印刷機や乾燥装置の状態、そして現場作業者の管理能力が結果を大きく左右します。
水性インキの乾燥や定着がうまくいかない時には、単一の要因だけではなく、多角的に現場の要素を見直し、最適なバランスを模索することが重要です。
今後ますます環境対応が求められる中で、水性インキを使った印刷の安定化は業界全体の課題となっています。
効果的な管理と最新技術の導入で、安全・安心な製品づくりに取り組みましょう。