Hgポロシメトリのワッショウト法と微細孔の圧入補正

Hgポロシメトリとは何か

Hgポロシメトリ(マーキュリーポロシメトリ)は、多孔体や粉末、セラミックスなどの材料中に存在する微細な孔径や孔容積を評価するための代表的な物理化学的測定方法です。
水銀を利用して試料中の孔へ高圧下で圧入し、水銀が浸透する圧力と浸透量(体積)から孔径分布や総孔容積を求めます。

Hgポロシメトリは、多孔質材料の開口径、貫通経路、非貫通孔などを把握できるため、材料設計や品質管理、機能性評価に広く用いられています。
特にセラミックスフィルター、触媒担体、バッテリー材料などの分野で重要な技術とされています。

Hgポロシメトリの原理

水銀は通常の条件で多くの物質の表面を濡らさず、表面張力が大きい液体です。
この性質を利用し、外圧(油圧)をかけることで、一定の孔径を持った孔に水銀が圧入されます。
圧力と孔径の関係はワッショウト(Washburn)方程式と呼ばれる公式で表されます。

水銀の圧入圧力Pと、対象孔の半径rの関係は次のワッショウト方程式によって表されます。

P = – (2γcosθ) / r

ここで、
P:圧入圧力(Pa)
γ:水銀の表面張力(N/m)
θ:水銀と材料との接触角(°)
r:孔の半径(m)

すなわち、孔径が小さいほど、より大きな圧力をかけないと水銀は入っていきません。
高圧下で順次水銀を圧入しながら、その体積変化を観測することで、試料の孔径分布曲線や累積孔容積を算出できます。

ワッショウト法(Washburn法)の詳細

ワッショウト法の概要

ワッショウト法とは、液体(水銀)の表面張力と外部からの圧力を用いて、多孔体の孔径分布を測定する手法です。
物理的には、孔の入口径(最もくびれた部分)が水銀圧入の閾値を決定する要因となり、高圧下でのみ微小孔に水銀が進入します。

この方法では、公知の表面張力値、接触角(水銀と材料との間で既知の角度)、圧入時の水銀体積、加圧圧力を基にして、孔径分布とその体積を数値化します。
孔径rは圧力Pに反比例し、微細な孔ほど高い圧力でしか水銀が浸透しません。

ワッショウト方程式の使い方

ワッショウト方程式の活用のためには、使用する材料(たとえばアルミナ、シリカなど)の種類に応じて、表面張力と接触角を適切に設定します。
一般に、水銀の表面張力は約0.485 N/m、接触角は130~140度が用いられることが多いです。

測定では、水銀の累積圧入量を測定装置で記録します。
そのデータに、ワッショウト方程式を適用することで対応孔径ごとの水銀充填量が算出でき、結果的に孔径分布曲線や累積孔容積曲線が得られます。

ワッショウト法のメリット・デメリット

ワッショウト法の最大のメリットは、高度な再現性と広範な孔径分布の評価能力です。
数十ミクロンから数ナノメートル台まで幅広い孔径を連続的に評価できます。

一方で、加圧限界や過剰な圧力による試料の破壊、押し込まれた水銀の回収など、測定プロセスには注意が必要です。
また、データ解釈時に実孔形状が円筒と仮定されているため、複雑な孔形状の場合は補正が求められます。

微細孔(ミクロポア)の圧入補正とは

Hgポロシメトリの測定データには、装置特性や試料の性質、極小孔径領域での高圧測定特有の誤差・アーティファクトが含まれる場合があります。
特に微細孔(一般に2nm以下のミクロポアやメソポア)領域の測定は物理限界にも近く、正確な評価には補正や修正が不可欠です。

微細孔圧入補正の必要性

一般的には、高圧領域(>2000kgf/cm2)になると、理論孔径以下でも水銀が侵入する現象(圧壊やシグマ圧力による孔の破断、或いは仮想的な孔の生成)が生じやすくなります。
このため、極小孔の水銀圧入曲線は真の孔径分布を正確に反映しなくなり、実際の材料構造よりも小さい孔径が過剰に検出される場合があります。

また、孔の内部応力により、本来は閉じている孔や繋がっていない空隙にも水銀が侵入するため、誤差が生じます。

補正方法の主な手法

微細孔の圧入補正方法には、主に以下の方法が利用されています。

1. 高圧領域データの除外
 一定圧力以上の領域(たとえば10,000psi以上)や2nm以下の孔径領域は物理的に信頼性が低いため、データ解析時に除外します。

2. ベースライン(バックグランド)補正
 装置固有の圧入挙動や空サンプルで得られる背景圧入データを差し引き、サンプル由来分のみを解析する方法です。

3. デジタルフィルタリング
 データのスムージングやピーク除去によって、アーティファクト成分を低減します。
 細孔性材料評価で用いられるソフトウェアの多くに自動補正アルゴリズムが搭載されており、専門的知識があればさらに手動で修正できます。

4. 実験条件・パラメーター最適化
 圧力の上げ方や保持時間、事前の脱ガス、装置のキャリブレーション条件を適切に設定し、誤差要因を最小化します。

こうした補正を組み合わせ、評価対象に応じた最適な解析手法を選ぶことで、Hgポロシメトリによる真の微細構造を把握できます。

孔形状の影響と補正式

ワッショウト方程式の前提は「円筒形」ですが、現実の多孔質材料では孔の形状に多様性があります。
ミクロポア領域や複雑なメソポア構造では円筒モデルから外れる孔も多数あり、ワッショウト法が示す孔径は「入り口径」または「仮想的な等価孔径」と解釈するのが一般的です。

実際には孔がくびれ状やボトルネック状、あるいは袋状をしていることが多く、これらの材料では補正式や修正モデルの導入が品質評価の精度向上につながります。

Hgポロシメトリにおける注意点と実務ポイント

Hgポロシメトリは便利で高精度な技術ですが、運用の際は物理的・安全的にいくつかの注意点があります。

・高圧水銀を扱うため、必ず防護措置(密閉系・適切な排気・防護具着用等)を行う
・水銀の毒性を考慮し、使用後のサンプルや装置の適切な廃棄/洗浄が重要
・サンプル前処理(脱気や乾燥)が測定データに大きな影響を及ぼす
・データ解釈時は「理想的円筒孔モデル」からの逸脱や実孔形状への配慮が不可欠

特に実験結果の討論や技術報告においては、「微細孔圧入領域の補正・評価方法」や「解析限界範囲の明示」が求められる場合が多いです。

Hgポロシメトリの今後と応用例

今後、ナノテクノロジーや高機能材料、エネルギー貯蔵分野の進展とともに、Hgポロシメトリの需要と応用範囲はますます広がっています。
たとえば次世代バッテリー材料の電極孔分布評価、触媒担体の劣化解析、空気清浄フィルターや分離膜材料の研究開発などで重要な役割を果たしています。

一方で、環境・安全面から水銀フリーの評価手法(気体吸着法、X線CT法、FIB-SEM等)が台頭してきており、今後は複数技術を組み合わせた包括的な材料評価が望まれます。

まとめ

Hgポロシメトリは、多孔質材料の孔径分布や孔容積評価に極めて有効な物理化学的手法です。
その根幹を成すワッショウト法は、孔径と圧入圧力の関係を定量的に把握できる点が優れています。
一方で、微細孔領域のデータ補正や実孔形状に対する現実的な解釈が不可欠であり、測定・解析プロセスの丁寧な運用が品質評価の信頼性向上につながります。

今後の材料開発や応用分野においても、Hgポロシメトリ技術とその正確なデータ運用は、引き続き重要な役割を担うことでしょう。

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