湿し水の調整が1%変わるだけで印刷が全崩壊する理由
湿し水とは何か?
湿し水は、オフセット印刷の工程において極めて重要な役割を果たす液体です。
版の非画線部(印刷されない部分)を親水性に保ち、インキが意図しない場所に付着してしまうトラブルを防止します。
一般的には水道水をベースに、IPA(イソプロピルアルコール)や湿し水添加剤などを加えて調整し、印刷機に供給します。
湿し水の品質や組成、濃度は、インキの転写状態や印刷品質、そして機械の安定稼働に大きく影響するのです。
湿し水の調整とは
湿し水は、単に「水」であるだけでなく、多様な化学成分によって機能する液体です。
特に湿し水添加剤と呼ばれる薬品や、IPA(イソプロピルアルコール)などを混ぜて最適な比率を保つ必要があります。
印刷会社では、湿し水の「濃度」や「pH」「導電率」などの数値を専用計器で測定し、常に管理しています。
この調整作業がほんの1%でも変化すると、印刷条件が大きく変わってしまうため、非常に繊細な作業なのです。
湿し水の調整1%の違いが生む影響
湿し水の調整濃度が1%異なるだけで、印刷品質や機械状態を大きく揺るがすのはなぜなのでしょうか。
エマルジョンバランスの崩壊
オフセット印刷では「水」と「油(インキ)」が混在して使用されます。
湿し水が版の親水部分に適切に供給されることで、インキは非画像部には乗らず、画像部(画線部)だけに乗ります。
しかし、湿し水の成分比率が1%違うだけで、以下のような問題が起きることがあります。
・水が多すぎる→インキが乳化しすぎて発色不良や艶消し、滲み、転写不良などが発生
・水が少なすぎる→版面の非画像部にインキが付着し「汚れ」や「地汚れ」などの欠陥が発生
このエマルジョン(乳化)バランスが非常にデリケートであり、わずかな濃度変化でも大きくバランスが崩れてしまうのです。
pHや導電率が変わることでのトラブル
湿し水のpH(酸性度・アルカリ性度)や導電率も重要です。
pHが下がりすぎる(酸性に傾く)と、版のアルミ基材が腐食して寿命が早まったりします。
逆にpHが高すぎると、インキとの反応性が変わり色再現が不安定になります。
また、導電率が高すぎたり低すぎたりしても、湿し水の効果が十分に発揮されません。
1%というわずかな濃度差があっても、これら数値の範囲から外れることで、思いもよらない印刷トラブルが急増するリスクがあるのです。
見逃せない印刷品質への影響
特に高精細印刷やカラーマッチングが重視される現場では、微小なコンディションの違いが色ブレやムラ、ゴースト、ドットゲイン(網点の大きさ変化)などの問題へ直結します。
例えばカタログや大量のパッケージ、書籍など同一品質の継続が求められる場面では、1%の湿し水調整ミスで全体の色味が変わってしまうことも珍しくありません。
実際のよくある失敗例
湿し水の調整ミスは、現場でどのようなトラブルとして現れるのでしょうか。
以下によく見られる失敗例を挙げます。
1. 版の地汚れ、ベタ汚れ発生
湿し水の添加剤が少なすぎる、もしくは供給量が減っていると、版の非画像部(地)が親水性を維持できず、インキが付着してしまいます。
その結果、「地汚れ」や「ベタ汚れ」という欠陥となり、印刷物がすべて使い物にならなくなる事態になりかねません。
2. インキの乳化過多による発色不良
逆に湿し水を過剰に供給しすぎると、インキ顆粒の中に水が過度に取り込まれて「乳化」状態になります。
すると、発色が濁ったり、インキ皮膜が厚くなりすぎて艶消し・ムラの元となったりします。
仕上がりの鮮やかさや画像の再現性が大きく損なわれ、やはりロット全体の品質が崩壊することになるのです。
3. 印刷機全体への悪影響
湿し水の溶液バランスが安定しないことで、ローラーへの水移行が不均等になり、インキローラー系・水ローラー系両方で摩耗やトラブルが発生しやすくなります。
結果として機械寿命の短縮や、部品交換頻度の増加、ランニングコストの増大原因にもつながってきます。
なぜ1%でも全崩壊するのか
湿し水の調整が1%違うと印刷が全崩壊してしまう理由は、
「オフセット印刷のプロセスが水と油(インキ)の微妙なバランスの上に成り立っているため」
です。
このバランスは、たとえるなら100kgの天秤に1gの重みを加えるような繊細なもの。
印刷機やインキ、紙質、湿度、気温なども影響するため、「正解の数値」はその都度異なり、その場で最適解を探す必要があります。
職人技ともいえる現場の経験知と、科学的な計測管理の両輪が必要とされるのです。
また、印刷は基本的に「大量生産」です。
不良がわずか1%混じるだけでも大損害につながるリスクが特殊業界きってのシビアさで有名です。
今すぐできる湿し水調整のコツ
湿し水の調整で失敗しないためには、以下のポイントを心掛けることがとても重要です。
1. 必ず数値で「見える化」する
添加剤の投入量、pH値、導電率などを、必ず定期的に記録・測定しましょう。
感覚的な判断で調整するのではなく、「今使っている湿し水の状態はどの範囲にあるか」を数値で管理する癖をつけることがミス削減に直結します。
2. 複数名で「ダブルチェック」する
作業担当者ひとりだけでなく、必ず別のスタッフがダブルチェックを行う体制をつくりましょう。
「前回は何%添加剤を入れたか」「最近印刷物に変化はあったか」など小まめな情報共有が効果的です。
3. 小さな変化もすぐ記録する
「なんとなく印刷物の色乗りが悪い」「ちょっと艶消し気味」といった違和感があったら、すぐに湿し水の状態を見直して記録しましょう。
変化が小さくても、気づかず連続生産してしまうと大きな損失に発展します。
4. 紙質や気温の変化も考慮する
湿し水のベストバランスは「紙」「気温」「湿度」などでも大きく変化します。
用紙交換や季節の変わり目には、湿し水調整の見直しを必ず実施することをおすすめします。
まとめ
湿し水は、オフセット印刷における品質管理の要です。
その調整がたった1%変わっただけで、印刷物の発色や再現性、機械の寿命に至るまで、あらゆる点で全崩壊するリスクがあります。
しかし、日々の測定と小まめな記録、ダブルチェック体制を徹底することにより、このリスクは大幅に低減できます。
繊細なバランスの上に成り立つ印刷工程において、湿し水調整の重要性を今一度認識し、再現性・安定品質維持に全力で取り組むことが求められています。
印刷現場で働く方や品質管理担当者は、湿し水のたった1%の違いが起こす重大な結果について常に意識して業務を進めていきましょう。