ゼータ電位測定の電導度補正と分散安定性指標の読み解き

ゼータ電位とは何か

ゼータ電位は、コロイドや分散系における粒子表面の電気的性質を示す重要な指標です。
粒子が液体中に分散している際、その表面にはイオンが吸着し、二重電気層構造が形成されます。
この構造により、粒子表面から一定距離にある「せん断面」と呼ばれる位置における電位差をゼータ電位と呼びます。

ゼータ電位が大きいほど粒子間の反発力が強くなり、分散状態が安定しやすくなります。
逆にゼータ電位が小さいと粒子同士の凝集が進み、沈殿や凝縮が起きる要因となります。
主にナノ粒子、顔料、医薬品、食品、インク、化粧品など、多様な産業分野で分散安定性の指標としてゼータ電位が用いられています。

ゼータ電位測定の基本原理

ゼータ電位は主に電気泳動法によって測定されます。
サンプルに電圧を印加すると、荷電粒子は電極間を移動します。
その移動速度(電気泳動移動度)を観察し、ヘンリーの式などを用いてゼータ電位に変換します。
電気泳動移動度は、分散媒の電導度や粘度、粒子の表面特性、イオン強度など多くの因子の影響を受けます。

分散媒中のイオン強度が高くなるほど、二重電気層は圧縮され、同じ表面電位であってもゼータ電位の絶対値は小さくなります。
このため溶液の「電導度」を正確に把握し、標準化しながらゼータ電位を評価することが不可欠です。

電導度補正の重要性

ゼータ電位測定の再現性や正確性向上のためには、「電導度補正」がとても重要になります。
電導度は分散液中のイオンの総量を示しており、ゼータ電位の数値や解釈に直接的な影響をもたらします。

なぜ電導度補正が必要なのか

分散媒のイオン強度が高いほど、粒子周囲の二重電気層は圧縮されやすくなります。
このため、同じ化学組成や粒径であっても分散液の電導度が異なれば、測定されるゼータ電位の絶対値も変わってしまいます。
複数のサンプルを比較したい際や、異なるバッチで一貫したデータを得るためには、電導度を一定にそろえる、または測定値を補正して解釈しなければなりません。

また、分散媒に含まれる金属イオン、界面活性剤、緩衝剤などの添加物も電導度に強い影響を与えます。
たとえば純水、超純水、緩衝液、食塩水など、分散媒ごとの電導度は大きく異なるため、測定条件やサンプルの取り扱いには細心の注意が必要です。

実際の電導度補正方法

電導度補正は多数の方法が用いられます。
一般的なのは、測定装置本体に内蔵された電導度計で分散液の電導度を直接測定し、その値をもとに装置が自動補正式を適用する方法です。
測定結果の詳細なレポートには、サンプルごとの電導度値も必ず記載されます。

他に、測定前に分散液の電導度を所定の基準値に調整する方法もあります。
例えば緩衝剤や塩(NaClなど)を添加して標準電導度(例:1 mS/cm, 5 mS/cmなど)とし、各条件を統一した上で測定を行います。
この際、限界まで不純物が除去された超純水を使い、まっさらな分散系の電導度も同時に取得しておくことが推奨されます。

もう一つ注目すべきは、電導度が非常に高い場合(例:生体由来試料、工業排水など)はゼータ電位の測定そのものに誤差が出やすくなる点です。
50 mS/cm以上の高電導度下では二重電気層が極度に圧縮され、正確なゼータ電位値の取得・解釈は難しくなります。

分散安定性の指標としてのゼータ電位

ゼータ電位は、分散系やコロイドの「安定性評価指標」として用いられます。
ゼータ電位の絶対値が大きいほど粒子同士の静電反発が強まり、凝集や沈殿が起きにくくなります。

安定性の目安となるゼータ電位値

一般的に、絶対値で30 mVを越える(+30 mV以上、または−30 mV以下)場合、分散系は十分に安定であると考えられます。
絶対値が20~30 mVの範囲だと、安定性はやや不十分ですが、実用上は問題ないケースもあります。
一方、絶対値が±10 mV未満では粒子間の反発が弱くなり、凝集・沈殿のリスクが高まります。

ただしこれはあくまで目安であり、実際の安定化状況は分散系の組成、粒子の性質、周囲のpH、温度、界面活性剤の有無など多くの因子が複雑に絡み合って決まります。

ゼータ電位以外の補助的指標と組み合わせて評価

分散系の安定性を多面的に評価するため、ゼータ電位だけでなく粒径分布(DLS法やナノトラッキング法)、分散液の濁度(ターボテスト)、沈降速度などを組み合わせてチェックする方法が主流です。

粒径や分散安定性は、粒子の化学的性質や界面活性剤の構成によっても変化します。
例えば、電子顕微鏡や分光法など他の観察技術で粒子の様子を把握すると、ゼータ電位データと組み合わせた「安定性メカニズムの推察」がより精密に行えます。

ゼータ電位の測定における注意点

ゼータ電位測定は機器の進歩により簡便化されていますが、一貫した結果を得るためには留意点があります。

測定条件の統一

分散媒のpHやイオン組成、電導度はもちろん、サンプルの前処理方法、希釈度合い、測定温度などの「条件統一」が必要です。
分散媒の違いだけでゼータ電位値が大きく変動するため、同じ試料であっても複数条件を試しながらベストな測定手順を確立することが重要です。

バッチ間/ロット間での管理

産業用途では大量バッチの管理や品質保証が求められます。
そのため、バッチやロットごとの「標準サンプル」分析や「測定バリデーション」手法も重要です。

測定値の解釈

ゼータ電位の数値そのものだけにとらわれず、測定後にデータをどのように解釈するかが最も重要です。
例えば、絶対値が大きいにもかかわらず、沈殿や凝集が短期間で発生する場合は、静電反発以外の要因(疎水性相互作用や架橋、界面活性剤の脱離など)も疑います。
分散系やコロイドの安定性は単一パラメータで完全に規定できるものではなく、多面的な観点でデータ解析を進める姿勢が求められます。

ゼータ電位の今後と分散安定性技術の発展

ナノテクノロジーやライフサイエンス、新素材開発の進展に伴い、コロイドや分散系の精密制御ニーズは今後も高まっていくと予想されます。
ゼータ電位測定も単なる品質管理指標にとどまらず、「分散安定化メカニズムの可視化ツール」として不可欠な役割を担っています。

近年はAIによるパターン解析や、オンライン自動測定システム、分散系のリアルタイム制御技術との連携も進みつつあります。
今後はゼータ電位を起点としながら「多角的な分散安定性評価」と、より高度な分散設計の双方が産学現場で進行していくことでしょう。

まとめ

ゼータ電位は分散系・コロイドの安定性を示す不可欠な指標です。
正確な測定には分散媒の電導度補正が必須であり、必要に応じたpH管理や希釈、測定条件統一が求められます。
得られたゼータ電位データは安定性評価の基礎となり、粒径分布や沈降速度などと組み合わせて多角的に活用されます。

今後さらに進化する分散技術を支えるために、ゼータ電位測定の正しい知識と電導度補正のノウハウを身につけ、さまざまな現場で活かしていきましょう。

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