非加熱殺菌を実現する超高圧処理(HPP)の応用

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超高圧処理(HPP)とは

超高圧処理(High Pressure Processing、以下HPP)は、食品を密閉容器や包装のまま数百メガパスカル(MPa)の静水圧に数分間さらすことで、微生物の死滅や酵素の失活を引き起こす非加熱殺菌技術です。
加熱による風味変化や栄養損失を最小限に抑えつつ、安全性を確保できる点が最大の特徴です。

原理

HPPでは水圧が等方的に作用するため、食品内部にせん断力が生じず、形状を保持したまま微生物の細胞膜やタンパク質を変性させます。
多くの病原菌や腐敗菌は300〜600MPa、数分の処理で大幅に減少し、耐熱芽胞菌でも発芽誘導後に追圧することで殺菌効果を高められます。

歴史と普及

1899年に米国で基礎研究が報告され、1990年代に日本とスペインで商業装置が実用化されました。
現在はジュース、ハム、アボカドペーストなどの流通量が増え、世界で約700台、日本で約60台が稼働しています。

加熱殺菌との比較

1. 風味・色調保持
高温によるメイラード反応やビタミン損失が起こりにくく、生鮮に近い官能品質を実現します。
2. 栄養保持
ビタミンC、ポリフェノール、必須アミノ酸など熱に弱い成分が残存しやすいです。
3. エネルギー効率
短時間処理と常温保存への寄与でトータルエネルギーを削減できます。
4. 包材適性
レトルトと異なり耐熱仕様が不要なため、リサイクル性の高いモノマテリアル包装の選択肢が広がります。

HPPの主な応用分野

清涼飲料・スムージー

果汁や野菜ジュースは酵素失活により褐変を抑制でき、冷蔵で60〜90日の賞味期限を実現します。
砂糖・防腐剤を削減できるため、クリーンラベル訴求が可能です。

畜肉加工品

ハム、サラミ、ローストビーフではサルモネラ属菌やリステリアのリスクを低減し、塩分・亜硝酸添加量を減らした製品設計が可能です。
食感変化が小さく、官能評価の向上に寄与します。

水産物

貝の殻付蒸し工程と併用すると殻開けと同時に殺菌が行え、歩留まり向上が期待できます。
刺身用フィッシュロインでは寄生虫失活にも有効です。

惣菜・レディトゥイート

米飯やサラダチキンなど日配惣菜はHPP後に冷蔵保管で一週間以上の賞味期限を持たせられ、食品ロス削減に貢献します。

植物ベースフード・機能性食品

HPPは低塩・無糖で素材本来の味を活かせるため、ビーガン対応のスプレッド、プロテインドリンク、スーパーフードピューレなど新領域で採用が進んでいます。

処理フローと装置構成

1. 前処理:充填・シールまで完了した製品をバスケットに整列させます。
2. 加圧:高圧容器に水を満たし、ポンプで圧力を設定圧まで上げ保持します。
3. 減圧:数十秒で常圧に戻し、製品を取り出して乾燥・検査後に出荷します。

装置は100L〜600Lクラスが主流で、ライン組込み型も存在します。
PLC制御による記録管理が義務化されており、HACCP対応も容易です。

コストの目安

装置価格は容量1Lあたり50〜70万円で、500L機なら2.5〜3.5億円が相場です。
電力・水再利用を含むランニングコストは1トン処理あたり20〜40円とされ、量産効果でレトルト並みに近づきつつあります。

安全性と規制

日本では食品衛生法の一般基準を満たせば特段の追加許可は不要ですが、自治体ごとの指導要領に沿った検証が必要です。
海外ではFSSC22000やUSDA、FDAがガイドラインを提示し、海抜0m基準での圧力補正やバリデーション手順が求められます。

市場動向

グローバルHPP食品市場は2022年に約40億ドル、年平均成長率CAGR10%前後で拡大しています。
日本でもコンビニ各社がHPP惣菜をテスト導入し、通販やサブスクで冷蔵長期保存食品の需要が急増しています。
サステナブル包装やプラントベースのトレンドと相まって導入検討企業が増加中です。

導入事例

1. 生搾りジュースメーカーA社
 HPPにより冷蔵7日から45日へ延長し、全国配送が可能になりました。
2. 大手ハムメーカーB社
 加圧後に軽いスモークを施すことで低塩でも肉色保持と香味付与を両立しました。
3. アボカド加工C社
 加圧で酵素褐変を抑え、冷凍せずに冷蔵流通する事業モデルを確立しています。
4. 地方水産D社
 牡蠣の殻開け自動化と同時にノロウイルスリスクを低減し、輸出対応を強化しました。

課題と対策

容器・包装制約

気密性と柔軟性が両立する材料が必要で、ガス充填パッケージなどは追加検証が欠かせません。
改質PETやEVOH多層フィルムが主流ですが、脱プラ要請から紙基材とのハイブリッド開発が進行中です。

耐圧芽胞対策

クロストリジウム属芽胞は600MPaでも生残する場合があります。
発芽誘導剤との併用やpH調整、軽加熱とのハードル技術で安全域を確保します。

投資回収

バッチ処理ゆえ回転効率が収益を左右します。
OEMセンターや共同利用プラントを活用し、初期投資を抑えるスキームが拡大しています。

今後の展望

1. 連続式HPPの実用化
高スループット化により大ロット飲料への対応が期待されます。
2. 圧力パルス+光照射・超音波の複合技術
殺菌スペクトルを広げ、低圧短時間処理を実現する研究が進んでいます。
3. メタバース工場モニタリング
IoTとVRを用いた遠隔バリデーションで、保守コストの削減と品質保証を両立させる動きがあります。

まとめ

超高圧処理(HPP)は非加熱でありながら確実な殺菌効果を持ち、風味や栄養を保持できる次世代技術です。
飲料、畜肉、水産、惣菜など幅広い分野での応用が進み、食品ロス削減やクリーンラベル対応、サステナブル包装推進に寄与します。
装置コストや包装制約、芽胞対策などの課題はありますが、共同利用モデルや複合殺菌技術の開発により解決策が提示されています。
今後も市場拡大が見込まれ、食品メーカーはHPPを活用した高付加価値商品で差別化を図る好機にあります。

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