プラスチックの接着方法と材料選定の基本【製造現場向け】

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プラスチック接着の基礎知識

プラスチックは種類ごとに分子構造が大きく異なるため、金属やガラスと比べて接着難易度が高い素材です。
製造現場で安定した接着品質を得るには、プラスチックの分類、表面エネルギー、適切な前処理、接着剤選定を体系的に理解する必要があります。

熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂

熱可塑性樹脂は加熱で軟化し冷却で固化する可逆的特性を持ちます。
ABS、PC、PP、PE、PAなどが代表例です。
熱硬化性樹脂は一度硬化すると再加熱しても軟化しません。
エポキシ、フェノール、メラミンが代表的で、高温環境でも寸法安定性に優れます。
接着剤との相性は熱可塑性樹脂の方が広く、熱硬化性樹脂は表面エネルギーが高いため比較的接着しやすい傾向があります。

極性樹脂と非極性樹脂

極性樹脂(ABS、PC、PAなど)は表面エネルギーが高く、接着剤が濡れ広がりやすいため容易に接着可能です。
非極性樹脂(PP、PE、PTFE、POMなど)は表面エネルギーが低く、前処理を行わないと接着強度が不足しがちです。

接着メカニズムの概要

接着強度は、機械的結合、化学結合、分子間力の総和で決定されます。
具体的には以下の四つの因子に着目します。
1. 濡れ性:接着剤が基材表面をどれだけ覆えるか
2. 表面粗さ:機械的アンカー効果を高める
3. 分子間相溶性:界面での相互拡散
4. 化学反応:官能基同士の共有結合

濡れ性評価

接触角測定により35°以下であれば良好、65°以上なら前処理が必要と判断します。
製造ラインではダイニンペンによる簡易表面張力試験で判定するケースが一般的です。

前処理と表面改質

前処理は接着強度を数倍以上向上させる最重要ステップです。

機械的前処理

サンディング、ショットブラストにより粗さRa0.8〜1.6µmを確保します。
粉じんはイオンブローで除去し、IPA(イソプロピルアルコール)で脱脂します。

化学的前処理

プライマー塗布は極性樹脂でも効果がありますが、特にPP、PE向けのクロメート処理、オレフィン系プライマーが有効です。

物理的表面改質

コロナ放電、プラズマ処理、UVオゾン処理はライン統合が容易で、処理後30分以内に接着することで効果を最大化できます。
非極性樹脂の表面エネルギーを38mN/m以上に引き上げることが目安です。

接着剤の種類と選定ポイント

プラスチック用接着剤は大別すると「溶剤型」「反応硬化型」「ホットメルト型」に分類されます。

溶剤型

ABSやPVCを溶解し、自己融着させるタイプです。
硬化速度が速く、設備コストも低いため家電筐体や玩具で多用されます。
一方で揮発性有機化合物(VOC)の管理が必要です。

反応硬化型

代表はエポキシ、シアノアクリレート、アクリル、ポリウレタンです。
エポキシは強度・耐熱性が高く、PCやPAに適しますが硬化時間が長めです。
シアノアクリレート(瞬間接着剤)は硬化が秒単位で、ABSに最適ですが衝撃や剥離には弱いためゴム改質グレードを使用します。
二液アクリルはPP、PE向けのプライマー不要グレードがあり、自動車バンパー補修や医療機器で実績があります。

ホットメルト型

EVA系、PO系、PA系が主流です。
タクトタイムが短く、再溶融可能なのでリワークに対応できます。
耐熱は100℃前後のグレードが中心で、電子機器内装、包装材で使用されます。

選定フローチャート

1. 使用環境温度が80℃超ならエポキシか構造用アクリルを検討。
2. 低表面エネルギー樹脂ならPP/PE対応アクリル、ウレタン、プライマー併用を前提に。
3. タクトタイム10秒以内ならシアノアクリレートかホットメルト。
4. 繰返し応力が大きいなら柔軟性重視のウレタン、SBC系ホットメルトを選択。

代表的な樹脂別 推奨接着剤と処理方法

ABS:シアノアクリレート、二液エポキシ、溶剤型。前処理はIPA脱脂のみでも十分。
PC:二液エポキシ、ポリウレタン。プラズマ処理で耐環境性向上。
PP:PP対応二液アクリル、MMA系ホットメルト。コロナ処理+プライマーが効果的。
PE:ウレタン系ホットメルト、二液アクリル。火炎処理を併用すると接着安定。
POM:機械的粗化+二液エポキシ。接着困難なためインサート成形やレーザ溶着を代替案とする。

プラスチック溶着との使い分け

接着剤ではなく溶着を選択するケースも多くあります。

超音波溶着

高周波振動で摩擦熱を発生させ融着します。
数秒で接合でき、自動車流路部品など気密性が要求される用途に向きます。

レーザ溶着

赤外レーザで透過材と吸収材を局所加熱し、クリア部品でも外観を損なわず接合できます。
医療用カートリッジ、生体認証モジュールで実績があります。

ヒートシール・高周波ウェルダー

薄肉フィルムの袋材、ブリスターパックで採用されます。
溶剤を残さず、食品や医薬分野の規制対応が容易です。

品質評価と信頼性試験

接着強度はJIS K 6854(引張せん断)、ASTM D1002(単純重ね合わせ接合)を参考にします。
試験片は速乾系でも24時間常温放置後に測定し、初期強度と長期強度を同時に確認します。

環境試験

85℃/85%RH 1000時間、高温サイクル−40〜120℃、薬品浸漬(IPA、NaOH、Brake Fluidなど)を行い、強度低下率20%以下を目標とします。

非破壊検査

X線CT、超音波探傷、赤外線サーモグラフィで内部気泡、未硬化域を検出します。
量産ラインではビジョン検査で接着剤塗布量を監視し、トレーサビリティを確保します。

量産プロセス実装のポイント

1. 供給システム:二液型は容積比制御、静的ミキサーで混合し、温度25±2℃に維持します。
2. 塗布設備:ジェットディスペンサーは高速ですが、高粘度材ではギアポンプ方式が安定します。
3. UV硬化型の場合、照度200mW/cm²以上を確保し、樹脂の透過率を考慮します。
4. COG(Cost of Goods)低減には、固形分の高い低VOC品を選定し塗布量を削減します。

トラブルシューティング

剥離が発生した場合、要因の60%以上は前処理不良です。
表面エネルギー測定で38mN/m未満ならプラズマ処理不足。
混合比誤差は硬化不良につながり、DSC解析でエポキシの反応度を確認します。
気泡混入は吐出圧過大または混合時の巻き込みが原因で、脱泡タンクを設置すると改善します。

まとめ

プラスチックの接着品質は、素材特性の理解、前処理、接着剤選定、工程管理の四本柱で決まります。
非極性樹脂でも適切な表面改質と専用接着剤を組み合わせれば、構造用接合が十分可能です。
また、溶着技術とのハイブリッド化でコストと性能を最適化できます。
製造現場では実機評価と継続的な工程監視を行い、再現性の高い接合プロセスを構築してください。

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