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黒米は外皮にアントシアニンを多量に含み、抗酸化力に優れるため高付加価値の酢原料として注目されている。
しかし同じ色素はタンパク質の結合性が高く、麹菌や酵母にとっては栄養吸収の障壁となりやすい。
さらに黒米のペントザン含量は白米より高く、粘度上昇や泡立ちが生じやすい。
結果としてアルコール発酵が停滞し、その先の酢酸発酵でも pH 低下が遅れる。
こうした原料由来の要因が「ロット差」を生み、製造者を悩ませてきた。
従来は麹菌を強化した種麹や耐酸性酢酸菌の単独接種で対応してきたが、微生物を単一支配させる方法では黒米の複雑な基質に対応しきれない。
また静置発酵槽での自然落下菌に頼ると、季節変動で香味が大きくブレやすい。
そこで近年注目されるのが複数菌種を意図的に組み合わせる「菌種ブレンド技術」である。
菌種ブレンド技術は、麹菌・酵母・乳酸菌・酢酸菌など複数のスターターを定量的に混合し、互いの代謝物を補完させながら発酵を進行させる手法である。
単独菌より基質利用範囲が広がり、黒米由来の色素やポリフェノールの分解が促進。
結果としてアルコール生成速度が安定し、酢酸菌へ受け渡すアルコール濃度も一定に保たれる。
香味面ではエステル系香気やフルーティノートが増幅し、商品価値を高められる。
麹菌(Aspergillus oryzae):デンプンをグルコースへ分解し、同時にタンパク質をペプチド化して酵母への栄養を供給する。
清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae):グルコースをエタノールへ効率変換し、アミノ酸由来フレーバー前駆体を生成。
乳酸菌(Lactobacillus plantarum):pH を緩やかに低下させ、酢酸菌の増殖環境を整えるとともに腐敗菌の混入を抑制。
酢酸菌(Acetobacter pasteurianus):エタノールを酢酸へ酸化、黒米特有の甘味と旨味を残すため穏やかな温度で稼働する株を選択。
安定性を測る指標は「発酵終了日数」「総酢酸濃度」「揮発酸比率」「色素残存率」「官能評価スコア」が代表的である。
これらを設定し、各菌株が達成すべき目標数値を可視化する。
1. 原料黒米を蒸煮し、同一ロットの加水率・蒸気圧で仕込む。
2. 候補麹菌を 10 種、酵母を 20 種、乳酸菌・酢酸菌を各 15 種のライブラリから小規模プレートで共培養する。
3. 48 時間ごとに糖度、pH、アルコール、乳酸、酢酸を自動計測し、Kmeans クラスタリングで高パフォーマンス組み合わせを抽出。
4. 5 L スケールで再現性試験を実施し、官能評価と GC-MS 香気分析で最終候補を決定。
麹菌と酵母は 1:100 乾燥胞子換算での接種が一般的だが、黒米では 1:70 とやや高めに調整する。
乳酸菌は総菌体数で 10⁶ CFU/mL に抑え、過剰な酸生成を防ぐ。
酢酸菌は 1.5% v/v のスターターを分2回に分け、アルコール濃度 5% 時と 3% 時で付加することで二段酸化を可能にする。
これによりピーク温度が 35℃ 未満に収まり、香味劣化を防止できる。
溶存酸素、ORP(酸化還元電位)、リアルタイム CO₂ 排出量を IoT センサーで取得し、AI モデルで最適エアレーションを自動制御する。
これにより発酵バッチ間の酢酸収率変動を 3% 以内に抑えた実績が報告されている。
国内 A 社では 5000 L ステンレス発酵槽に外部ジャケット冷却とマイクロバブル散気を採用。
菌種ブレンドにより発熱ピークが低減したことで、冷却水の循環回数を 18% 削減できた。
また酸素供給は 0.05 vvm(空気量/液量)から段階的に 0.15 vvm へ引き上げ、酢酸菌の酸化効率を向上。
ブレンド導入前後で比較すると、総酢酸濃度は 4.5% から 5.8% へ増加。
アルコール残存率は 0.5% 未満まで低下し、歩留まり換算で 12% 向上した。
官能テストでは「まろやかさ」「黒米由来の香ばしさ」の項目得点が平均 1.3 ポイント上昇した。
菌種ブレンド技術は黒米酢だけでなく、赤米酢や雑穀酢への応用が期待される。
特にメタゲノム解析とメタボローム解析を組み合わせることで、微生物間の代謝フラックスを定量化し、ブレンド設計をデジタル化する研究が進む。
一方、複数菌種を用いる分だけ管理変数が増え、汚染リスクも高まるため、衛生管理指針の標準化が急務である。
今後は CRISPR-Cas による機能性酢酸菌のゲノム編集や、休眠乾燥顆粒スターターによる常温配送など、産業実装を加速させる技術開発が求められる。
黒米酢市場は高級調味料や機能性飲料として拡大を続ける。
菌種ブレンド技術を活用し、安定した生産と独自の香味創出を両立させることが、次世代の発酵産業を牽引する鍵となる。

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