食品業界の自動搬送ロボット(AGV/AMR)の導入事例とROI分析

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食品業界におけるAGV/AMR導入の背景と目的

食品業界では少子高齢化による労働力不足が深刻化しています。
特に温度管理や衛生管理が欠かせない搬送工程は肉体的負荷が高く、人材確保が難しい領域です。
加えてHACCP義務化に伴うトレーサビリティ強化により、搬送履歴のデジタル化も求められています。
こうした課題を一挙に解決する手段として、自動搬送ロボット(AGV/AMR)が注目されています。

AGVとAMRの違いと食品業界特有の要件

AGV(Automated Guided Vehicle)は磁気テープやQRコードなどの誘導方式で走行する自動搬送車です。
一方、AMR(Autonomous Mobile Robot)はLidarやカメラを用いた自己位置推定機能により、動的環境でも経路を自律的に変更できます。
食品工場では冷蔵・冷凍環境での稼働、ステンレスボディによる防錆、防水、防塵、そして洗浄剤への耐性といった厳しい仕様が求められます。
さらに異物混入リスクを避けるため、樹脂部品の破損防止やメンテナンス頻度の最小化も重要です。

食品工場での導入事例

冷凍食品メーカーA社のケース

A社は原料入庫から急速凍結エリアまでの約200m区間をAGVに置き換えました。
導入前は3交替制で1ラインあたり6名が台車搬送を行っていましたが、導入後は1名のオペレータが複数台のAGVを遠隔監視しています。
結果として年間4,500時間の労務削減を達成し、人件費を約1,100万円削減しました。
同時に庫内温度の上昇リスクが減少し、製品歩留まりが2%向上しました。

乳製品メーカーB社のケース

B社は充填ラインから熟成庫、出荷ヤードまでの搬送をAMRで自動化しました。
AMRがQRコードとSLAMを併用することで、熟成庫内のパレット配置変更にも柔軟に対応しています。
温度帯+4℃環境での稼働に加え、UV-LED搭載による自動除菌機能を採用し、微生物リスクを抑制しました。
トレーサビリティデータをMESと連携し、個体識別コードをリアルタイムで更新できる仕組みを構築しています。

ベーカリーC社のケース

C社は焼成後のパンを冷却室へ搬送する工程にAMRを導入しました。
人手作業では振動による形崩れや焦げ跡が課題でしたが、AMRによる一定速度搬送で品質が安定しました。
これにより返品率が1.2%から0.4%に低減し、年間で約600万円の損失回避効果が得られました。
さらに深夜帯の作業が不要となり、従業員の離職率も15%から5%に改善しました。

ROI分析のフレームワーク

コスト項目の整理

初期投資はロボット本体費、充電設備、通信インフラ、レイアウト工事、システム連携開発に大別されます。
ランニングコストには保守契約料、バッテリー交換費、ソフトウェア更新費、通信費が含まれます。
これに対し、人件費削減、歩留まり改善、労災減少、エネルギーコスト最適化が効果項目になります。

効果測定指標

・人時生産性(搬送個数÷総労働時間)
・ユニットコスト(搬送個数あたり総コスト)
・設備稼働率(MTBF、稼働時間/停止時間)
・品質指標(廃棄率、返品率、温度逸脱回数)
・安全指標(労災件数、ヒヤリハット件数)

モデルケースによる試算

月間稼働日22日、1日16時間稼働の冷蔵倉庫を想定します。
AGV5台導入の総投資額は4,000万円、減価償却5年、年間保守費200万円とします。
従来の人件費は1人あたり年450万円×4名で1,800万円でしたが、導入後は1名監視の450万円のみとなり、1,350万円を圧縮できます。
歩留まり改善による利益増が年間200万円、労災削減で100万円相当を計上すると、年間総効果は1,650万円になります。
年間コストは減価償却800万円+保守200万円=1,000万円となり、差し引き650万円のキャッシュフローを確保できます。
投資回収期間は約4年弱で、社内ハードルレート8%を満たすNPVはプラスとなります。

導入成功のポイント

衛生・安全設計の徹底

食品接触リスクを避けるため、IP67相当の防水・防塵仕様とカバーの工具レス脱着を採用すると洗浄工数を削減できます。
レーザースキャナによる人検知ゾーン設定を細分化し、フォークリフトとの協調領域では速度を自動制御することで安全性が向上します。

現場レイアウトの最適化

AGV/AMRの幅と回転半径を基に最小通路幅を確保し、パレットラックや作業台の配置を再設計すると交通渋滞が防げます。
また充電ステーションを複数箇所に分散配置すると稼働率が底上げされます。

システム連携とデータ活用

WMSやMESとAPI連携させ、搬送指示を自動発行することで業務オペレーションを一元化できます。
取得した稼働データをBIツールで可視化し、ボトルネック分析や予防保全に活用するとROIがさらに高まります。

今後の展望とまとめ

食品業界ではアレルゲン区分搬送やコンプライアンス強化が進むにつれ、AGV/AMRへの期待は一層高まります。
5GやWi-Fi 6Eの普及によりリアルタイム映像伝送が容易になり、遠隔支援や自動充電も高度化する見込みです。
一方で初期投資の負担が導入障壁となるため、リースやサブスクリプション型のサービス提供が増加しています。
補助金制度も活用しながら、自社のKPIに基づくROI試算を早期に実施することが成功の鍵です。
食品工場がAGV/AMRを導入することで、省人化と品質安定を両立し、長期的な競争優位を確立できるでしょう。

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