金属製品の冷間圧延法とその電気自動車市場での活用

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冷間圧延法とは

冷間圧延法は、常温または再結晶温度以下の比較的低い温度域で金属の厚みを圧縮し、所定の寸法や機械的特性を得る加工方法です。
常温に近い状態で加工するため、精度の高い寸法公差が得られ、表面仕上げの良好さや強度向上に優れています。
鋼材、アルミニウム、銅合金など多様な金属材料が対象となり、自動車、家電、建材など幅広い産業で採用されています。

熱間圧延との違い

熱間圧延は素材を高温に加熱して軟化させた後で圧延するため、大きな変形量を短時間で実現できる一方、表面の酸化スケールや寸法精度のばらつきが課題です。
対して冷間圧延は変形抵抗が高くなるものの、仕上げロール表面のミクロンレベルの凹凸が転写されるため、鏡面に近い表面品質と高い平坦度が得られます。
その結果、後工程のプレス成形や塗装における歩留まり向上に寄与します。

主な工程

冷間圧延ラインは、酸洗いで酸化皮膜を除去した熱間圧延コイルをアンコイラに掛けることから始まります。
続いて複数スタンドから成るタンデムミルまたは可逆ミルで徐々に厚みを減らしていきます。
圧延後は焼鈍炉で歪みを取り除き、必要に応じてスキンパスやテンパーロールで平坦度と表面粗さを最終調整します。
最後にオイラーやコーターで防錆油や樹脂皮膜を塗布し、検査後にリコイリングされます。

冷間圧延法がもたらす特長

冷間圧延材は、機械的特性や外観品質の高さから次のようなメリットを提供します。

1. 高強度化
加工硬化により降伏点が向上し、同じ板厚でも高い剛性を確保できます。

2. 優れた寸法精度
板厚公差は±0.01mmオーダーで管理可能なため、高い加工再現性を要求する部品に最適です。

3. 良好な表面粗度
Ra0.1μm以下も実現でき、塗装やめっきの前処理工程を削減できます。

4. 成形性のカスタマイズ
焼鈍条件や合金設計を最適化することで、深絞りグレードや高延性グレードなど用途別のラインアップを揃えられます。

5. 省エネルギー効果
薄肉化による軽量化が可能で、製品使用段階のCO₂排出削減に貢献します。

電気自動車市場での冷間圧延材の需要拡大

電気自動車(EV)は航続距離、安全性、コストの三要素を同時に満たすことが求められます。
冷間圧延材はその課題解決に直結するため、車体からパワートレインまで幅広く採用が進んでいます。

車体軽量化と走行距離

車体骨格や外板に高強度冷間圧延鋼板を用いると、同一強度で板厚を0.2〜0.5mm削減できます。
車両重量が10%減ると航続距離が約5%伸びるとされ、バッテリー容量の最適化や車両価格低減に寄与します。
最近では引張強度980MPa級、1180MPa級の超ハイテンを冷間圧延+連続焼鈍で量産し、ホットスタンプ材と組み合わせる多材化戦略が主流です。

電池パック用シールドケース

リチウムイオン電池パックは外部衝撃や熱暴走からセルを守るため、高剛性かつ熱伝導性に優れた材料が必要です。
冷間圧延アルミニウム合金(AA3003、AA5052など)は、薄肉でも曲げ加工性が高く、放熱フィンとの一体成形が可能です。
さらに表面にアルマイトやセラミックコートを施すことで、耐食性・難燃性も向上します。

モーターコア材としての電磁鋼板

EV駆動モーターの高効率化には、低鉄損かつ高磁束密度の無方向性電磁鋼板が求められます。
冷間圧延法により結晶粒を微細化し、けい素量を3.0〜3.5%に最適化した薄板(0.25mm以下)が主流です。
これにより10,000rpmを超える高速回転でも発熱を抑えられ、モーターの小型・軽量化に貢献します。

高導電バスバー

インバーターやバッテリーマネジメントシステムには、大電流を効率良く伝達する銅またはアルミバスバーが使われます。
冷間圧延されたC1100(タフピッチ銅)やA1070(純アルミ)は、導電率が高く、表面平滑性に優れるため、積層バスバーのレーザー溶接品質を安定化できます。

技術トレンドと今後の課題

EV市場の拡大に伴い、材料技術と製造プロセスの革新も加速しています。

高強度鋼・アルミ合金の多材化

自動車メーカーは車体骨格に冷間圧延ハイテン、外板にアルミ、補強部にマグネシウムやCFRPを組み合わせています。
異種材接合では、抵抗スポット溶接とレーザーブレージングを複合化したハイブリッド工法が開発され、溶接熱影響による組織変化を抑制しながら接合強度を確保しています。

環境負荷低減とカーボンニュートラル

製鉄・製鋼業はCO₂排出量の多い産業とされ、水素還元製鉄や電炉シフトが進行しています。
冷間圧延ラインでは、酸洗い薬液を低温化したピックリングや、再生可能エネルギー由来電力の導入によりScope1・2排出削減が実現しています。
また、リサイクル材を50%以上使用したグリーンスチール認証品も登場し、EVのライフサイクルCO₂を大幅に削減できます。

スマートファクトリー化

IoTセンサーとAI解析によるオンライン形状制御が進み、板厚・板幅・平坦度をリアルタイムで最適化できます。
品質異常を早期検知することで、歩留まりを2〜3%向上させる事例も報告されています。
さらにデジタルツインを用いた設備保全により、ライン停止時間を短縮し、月産能力を高めています。

まとめ

冷間圧延法は高精度・高強度・良好な表面品質を実現する金属成形技術として、電気自動車の性能向上とコスト競争力確保に不可欠です。
車体軽量化、電池パック保護、モーター効率向上、電力配線の低損失化など、多岐にわたる部位で採用が広がっています。
今後は異種材接合技術の進展やグリーンスチールの普及により、さらなる環境負荷低減が期待されます。
スマートファクトリー化によって生産性と品質を両立させる取組も加速し、冷間圧延材はEV市場の持続的成長を支えるキーマテリアルとして位置付けられるでしょう。

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