ポリカーボネートとアクリル樹脂の加工特性比較と選定ポイント【プラスチック業界】

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ポリカーボネートとアクリル樹脂の基礎知識

プラスチック業界で広く使われる透明樹脂の代表格がポリカーボネート(PC)とアクリル樹脂(PMMA)です。
両者は外観が似ているため代替関係にあると思われがちですが、物性・加工性・コストなどに大きな違いがあります。
この記事では、それぞれの特徴を整理しながら、設計・加工現場で迷わない選定ポイントを解説します。

物性比較:透明性・耐衝撃性・熱特性

可視光透過率と光学特性

アクリル樹脂の可視光透過率は約92%で、ガラスより高い透明度を誇ります。
一方、ポリカーボネートは約88〜90%とわずかに劣りますが、実用上は十分な透明性です。
ヘイズ値を比較すると、アクリルは低ヘイズでクリアな仕上がり、PCはわずかに高く青味を帯びる傾向があります。
光学部品やディスプレイカバーなど、光の歪みを嫌う用途ではアクリルが優勢です。

耐衝撃性と破壊挙動

ポリカーボネートの衝撃強度はアクリルの約10倍以上です。
衝撃時にPCは塑性変形しながら割れにくいのに対し、アクリルはガラスのように割れやすく、割れ面が鋭利になります。
ヘルメット、車載グレージング、セキュリティパネルなど耐衝撃が要求される部位ではPCが定番です。

耐熱性と連続使用温度

ポリカーボネートの耐熱温度は120〜130℃、ガラス転移点(Tg)は約145℃です。
アクリル樹脂は連続使用温度が80〜90℃、Tgは約105℃で、熱変形しやすい特徴があります。
高温環境下のハウジングや照明カバーにはPCを選択すると安全マージンを確保できます。

加工性の違いと実務での注意点

射出成形における流動性

アクリル樹脂はメルト粘度が低く、薄肉や微細流路でも充填しやすいです。
一方、ポリカーボネートは高粘度で射出圧力が高くなり、ウェルドラインが目立ちやすい傾向があります。
成形サイクルを短縮したい量産品ではアクリルが優位ですが、ガラス繊維などのフィラーを入れるとPCでも流動性改善が可能です。

切削・レーザー加工・曲げ加工

切削加工では、アクリルは切削熱で溶けやすくバリが発生しやすいです。
逆にPCは靭性が高く、工具刃先を逃げやすいのでチッピングは少ないものの、応力白化に注意が必要です。
レーザー切断はアクリルが綺麗な鏡面カットとなるのに対し、PCは黄変や溶融痕が起こりやすいです。
熱曲げ加工はアクリルが低温で曲げやすく、PCは高温域まで加熱してもスプリングバックが大きく残ります。

接着・溶着・表面処理

アクリルはクロロホルム系溶剤や紫外線硬化型接着剤で強固に接着できます。
PCは溶剤クラックが発生しやすいため、二液性エポキシや超音波溶着が主流です。
表面ハードコートはどちらにも施せますが、PCの方が基材の柔らかさゆえにコート密着性が低くなる場合があります。

コストとサプライチェーンの観点

原料価格は一般にアクリル<ポリカーボネートです。
ただしPCは高付加価値用途が多く、再生材グレードや低価格グレードの流通量も増えています。
ロットスケールが小さくても安定供給が可能か、国内外サプライヤーの在庫状況を確認することが重要です。

選定フローチャート:用途別の判断基準

透明カバー・窓材

屋外看板や照明カバーでは、耐候グレードのアクリルがコストメリットと高透明を両立します。
ドーム状など高衝撃が予想される場合はPC+ハードコートで長期信頼性を確保します。

機械的負荷が大きい安全部材

機械ガード、保護シールドは衝撃強度と耐熱性を重視し、PCが第一候補になります。
可視性の美観より安全性を優先する判断がポイントです。

光学レンズ・導光板

微細転写性と光学性能を追求する照明レンズやLCD導光板にはアクリルが適しています。
成形収縮が小さいので寸法精度が高く、成形後のクリープ変形も少ない利点があります。

医療・食品接触用途

両材料ともFDA対応グレードがありますが、ガンマ線やETO滅菌などに耐えるのはPCです。
透明性と衝撃安全性を両立させたい医療機器ハウジングにはPCが採用される例が多いです。

設計段階で押さえるべきポイント

肉厚はPCで2.0mm以上、アクリルで1.5mm以上を目安に設定すると反り・ヒケを抑制できます。
リブやボスはアクリルでは厚肉にするとクラックの起点になりやすく、角Rを大きく取る設計が推奨されます。
PCはエッジが薄すぎると充填不足のリスクがあるため、ゲート位置や樹脂温度を最適化してください。

環境対応とリサイクル動向

ポリカーボネートはケミカルリサイクル技術が確立しつつあり、CO₂削減の観点からサプライヤー各社が再生材比率の高いグレードを投入しています。
アクリルもメカニカルリサイクルが進んでいますが、透明度劣化が課題でバージン材とのブレンドが一般的です。
製品ライフサイクル全体で環境負荷を評価し、回収スキームやマテリアルフローを設計段階で織り込むことが求められます。

まとめ:最適素材選択で品質とコストを両立

ポリカーボネートとアクリル樹脂は、見た目こそ似ていても物性・加工性・コストに明確な差があります。
高衝撃・耐熱が必要ならPC、光学性能・コスト重視ならアクリルが基本方針です。
ただし複合的な要求仕様では、ハードコートや難燃グレード、再生材グレードなど多彩な派生品で両材料が競合します。
最終用途、製造プロセス、環境規制までを俯瞰し、サプライヤーや加工業者と連携したマテリアル選定が品質・コスト最適化への近道です。
本記事を参考に、自社製品の要件に最も適した透明樹脂を選定してください。

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