ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂の強度と加工方法の比較

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ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂の基本特性

ポリエステル樹脂は主にポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)を指し、軽量で吸水率が低く、耐薬品性に優れる樹脂です。
一方、ポリカーボネート樹脂(PC)は炭酸エステル結合を持つ非結晶性熱可塑性樹脂で、高い透明性と優れた耐衝撃性が特徴です。
両者は日用品から産業用途まで幅広く用いられますが、強度や加工方法において決定的な違いがあります。

機械的強度の比較

引張強度

PETの引張強度はおおむね50〜75MPa、PBTは40〜60MPa程度です。
PCは60〜70MPaに位置し、PETとほぼ同等、PBTよりやや高い数値を示します。
設計上は、薄肉成形で機構部品を作る場合にPCが有利となる場面が多いです。

曲げ強度および曲げ弾性率

ポリエステル樹脂は結晶性があるため、曲げ弾性率が高く剛性に優れます。
PETの曲げ弾性率は約2.5GPa、PBTは約2.2GPaです。
ポリカーボネート樹脂は非結晶性のため、曲げ弾性率は約2.1GPaとやや低めですが、靭性が高いため折損しにくいという利点があります。

耐衝撃性

耐衝撃強度を示すアイゾット衝撃試験で比較すると、ポリエステル樹脂の無充填グレードは40〜50J/m程度ですが、ポリカーボネート樹脂は600〜800J/mに達します。
鋭利な打撃が加わる用途、例えば保護カバーや筐体にはPCが適します。
ただしガラス繊維強化PETやPBTを採用すると、剛性や耐衝撃性を大幅に向上できるため、設計要求によってはポリエステル系も選択肢になります。

耐熱性

PETの熱変形温度は70〜80℃、PBTは60〜70℃です。
ポリカーボネート樹脂は125〜135℃と高く、車載や照明器具など高温環境で安定した寸法精度が求められる部品に適します。
ガラス繊維30%充填のPETやPBTは熱変形温度が200℃近くまで向上するため、強化グレードなら高温機構部品にも投入可能です。

加工方法の比較

射出成形

ポリエステル樹脂は結晶化速度が速いため、金型冷却時間を短縮でき、生産性に優れます。
結晶化による収縮差を考慮してゲート位置を設計し、反りを最小化することが重要です。
ポリカーボネート樹脂は溶融粘度が高いため、高い射出圧力と樹脂温度が必要です。
ガス抜き溝を適切に設置し、焼けやシルバーストリークを防止します。

押出成形

PETシートやPBTフィラメントは冷却ロールで急冷させることで表面光沢を付与できます。
PCシートは透明性を確保するために溶融水分管理と混入物の除去が不可欠です。
表面硬度を高める際は、PCシートにハードコートを施す二次加工が併用されます。

真空・圧空成形

ポリエステルシートは結晶化に伴う白化が生じやすく、深絞りには不向きです。
ポリカーボネートは高温まで可塑化できるため、深いリブ形状や三次元曲面でも割れが起こりにくいです。

切削加工

ガラス繊維強化ポリエステルは切削時に工具摩耗が大きいため、超硬やダイヤモンド工具の使用が推奨されます。
ポリカーボネートの切削は比較的容易ですが、発熱による溶着やクラックの発生を防ぐために低送りかつ高切削速度を選択します。

3Dプリンターによる積層造形

PET系フィラメントはWarpが少なく積層接着性が良好です。
PCフィラメントは高温プラットフォームが必須で、チャンバー温度を安定させないと剥離や反りが起きます。
高強度部品をプリントする場合は、ガラス充填PCやブレンドフィラメントが候補になります。

製品設計で注意すべきポイント

ポリエステル樹脂でヒンジ構造を設けると疲労割れが生じやすいです。
ポリカーボネートはクリープが大きいため、長期荷重を受ける部位ではリブ補強や肉厚設計が欠かせません。
肉厚差が大きいと冷却収縮差による残留応力が発生し、亀裂が入りやすくなります。
均一肉厚設計とフィレット追加は両材料に共通する基本です。

コストと環境負荷の比較

ポリエステル樹脂は汎用グレードで約250〜350円/kg、PCは約450〜600円/kgと一般に高価です。
近年、リサイクルPETの活用が進み、価格を20〜30%低減できるケースがあります。
ポリカーボネートもリサイクル材が流通していますが、透明性と強度を維持するためバージン材とのブレンド比率に制限が生じます。
環境面では、ポリエステル樹脂は飲料ボトル回収スキームが確立されており、マテリアルリサイクル率でPCを上回ります。

代表的な用途例

ポリエステル樹脂
・電装コネクター、スイッチハウジング
・プリンター部品、ギア、軸受
・食品コンテナ、医療トレー

ポリカーボネート樹脂
・スマートフォンカバー、ウェアラブル端末筐体
・自動車ヘッドランプレンズ、グレージング部材
・防護シールド、ヘルメットバイザー

選定のチェックリスト

1. 耐衝撃性が最重要 → PCが第一候補
2. 高剛性かつコスト重視 → PETまたはPBT
3. 耐熱温度120℃超 → PCまたはガラス繊維強化PET/PBT
4. 大量生産・短サイクル → PET/PBT射出成形
5. 透明性が不可欠 → PCまたはPET-G
6. リサイクル材使用義務 → PETリサイクルグレード

まとめ

ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂は、強度と加工性のバランスが異なるため、用途に応じた使い分けが鍵となります。
ポリエステル樹脂は剛性、耐薬品性、成形サイクルで優れ、コストメリットが大きいです。
ポリカーボネート樹脂は高い耐衝撃性、耐熱性、透明性が求められる場面で圧倒的な優位性を発揮します。
設計段階で要求仕様を明確にし、適切なグレード選定と加工条件の最適化を行うことで、製品性能と生産効率の最大化が実現できます。

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