繊維の赤外線反射特性制御と防寒・遮熱用途への応用

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赤外線と熱移動の基礎

赤外線は波長0.78〜1000µmの電磁波であり、人体や物体が放射する熱エネルギーの大部分を担います。
繊維に当たった赤外線は、吸収、透過、反射の三つの経路をたどります。
吸収された赤外線は繊維内部で熱に変換され、透過した赤外線はそのまま外部へ抜け、反射された赤外線は表面で跳ね返ります。
防寒や遮熱を考える際、いかにして赤外線を反射または吸収するかが鍵となります。

繊維における赤外線反射特性とは

繊維の赤外線反射率は、繊維表面の屈折率差、表面粗さ、顔料やフィラーの有無に大きく依存します。
高反射率=低放射率となるため、発熱量を外部に逃がさず内部に保持できます。
逆に、外部からの熱侵入を防ぎたい遮熱用途では、外界放射を反射することで内部温度上昇を抑えられます。

評価指標

ASTM C1371やJIS A1412で規定される赤外放射率測定が一般指標です。
放射率εと反射率ρは1−透過率τ−吸収率αで結ばれており、繊維の場合τが小さいため、ε+ρ≒1となります。
よって放射率を下げる=反射率を上げるという設計指針が成り立ちます。

赤外線反射率を高める素材開発のアプローチ

無機微粒子の高充填

酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムなど、高屈折率の無機酸化物を繊維に練り込むと界面での散乱が増えます。
特に酸化チタンは屈折率2.5と高く、遠赤外域の散乱源として機能します。
ナノ粒子化することで可視光への影響を最小限にしつつ赤外域散乱を最大化できます。

多層膜コーティング

真空蒸着やゾルゲル法を用い、屈折率の異なる材料を2〜5層重ねると干渉効果で特定波長の反射が向上します。
PET繊維にSiO₂/TiO₂を交互に積層した例では、8〜12µm帯で反射率70%超を達成した報告があります。

中空糸・多孔質構造

繊維内部に空気層を設けると、空気と固体との界面で多重散乱が発生し、実質的な反射経路が増えます。
また空気層自体が熱伝導率0.024W/mKと低いため、伝導熱も抑えられます。

メタマテリアル応用

周期構造をナノスケールで付与することで、選択的に赤外線のみを反射し、可視光を通す設計が可能です。
導電性ポリマーと金属ナノ格子を複合したウェアラブルシートでは、98%の可視光透過を維持しながら10µm帯で90%反射を報告しています。

加工技術による赤外線制御

プラズマ処理

表面エッチングで微細凹凸を形成し、散乱面積を増加させます。
さらにフッ素系ガスを用いると低放射性のフッ化膜が生成し、放熱抑制効果が高まります。

静電植毛

長繊維を垂直に立てることで、多重反射と空隙による断熱効果の両立が可能です。
アウターウェアの内面に適用すると、体熱を効率よく閉じ込められます。

レーザーテクスチャリング

パルスレーザーで周期的マイクロパターンを刻み、ブリュースター角条件を満たす構造を生成します。
これにより特定角度から入射する赤外線を選択反射し、ムレを軽減しつつ保温性を向上できます。

防寒用途への応用事例

アウトドア用アウター

アルミ蒸着フィルムをライニングに用いたスキーウェアは、内部温度を平均3〜4℃上昇させる実測データがあります。
また防水透湿メンブレンと組み合わせることで、汗処理と保温を両立しています。

寝具

遠赤放射粉末を練り込んだポリエステルわたは、就寝時の背面体温低下を約0.7℃抑制したと報告されています。
蓄熱性と速乾性が両立するため、冷え性対策製品として市場を拡大しています。

作業服・防寒インナー

消防士向けには、アラミド繊維にアルミ層を重ねた三層構造が使用され、赤外放射率0.15と極めて低い数値を実現しています。
高温環境でも体温上昇を抑え、熱ストレス低減に寄与しています。

遮熱用途への応用事例

建築用ファブリック

テントや膜屋根向けのPVDFコートガラスクロスは、太陽赤外域(0.8〜2.5µm)で反射率60%を達成し、屋内温度を最大5℃低減します。
軽量かつ耐候性に優れるため、スタジアムやイベント会場で採用が進んでいます。

農業用被覆材

赤外線高反射フィルムをハウス天幕に使用すると、夏季のピーク温度を3〜6℃抑制し、作物の光合成効率を維持できます。
さらに夜間放射冷却を低減することで、気温差ストレスの軽減にも寄与します。

車両用サンシェード

多層メタライズドポリエステルを用いたサンシェードは、車内温度を最大10℃低減し、エアコン負荷を15%削減します。
折りたたみ耐久性を確保するため、層間に耐クラック樹脂を挿入する設計が有効です。

設計時の注意点と評価方法

赤外線反射率向上と同時に、可視光の外観や手触り、通気性を損なわないことが重要です。
反射粉末の高充填は白化や増重につながるため、粒径分布や形状を最適化します。
耐洗濯性試験(ISO 6330)、摩耗試験(ASTM D4966)で機能保持を確認し、熱画像カメラによる表面温度分布評価を行います。
特にウェア用途では、人工気候室で着用状態の人間サーマルマネキンドールを用いた総合熱抵抗値(Rct)測定が推奨されます。

今後の研究動向と市場展望

ウェアラブルセンサーと組み合わせたスマートテキスタイルへの展開が注目されています。
例えば、赤外線反射層の下に温度センサーを印刷し、ウェアが自律的に通気孔を開閉するシステムが研究段階にあります。
また、リサイクルポリエステルへの赤外反射フィラー分散技術が確立されつつあり、サーキュラーエコノミー対応製品が増加する見込みです。
市場規模は2022年で防寒・遮熱機能繊維が約45億ドルとされ、年平均成長率CAGR8%で拡大すると予測されています。
建築膜や自動車内装といった非衣料分野での採用が牽引要因となるでしょう。

まとめ

繊維の赤外線反射特性を制御することで、体熱保持と外部熱遮断の両方が実現できます。
無機微粒子添加、多層膜コーティング、中空構造など、多岐にわたる手法が確立されつつあり、用途に応じたカスタマイズが可能です。
評価指標と耐久性試験を適切に行い、快適性と機能を両立させることで、市場での差別化が図れます。
今後はスマートテキスタイルや環境配慮型素材との融合が進み、産業全体の付加価値向上が期待されます。

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