バイオ由来原料を活用した環境対応型塗料の開発と自動車市場での展開

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バイオ由来原料を活用した塗料開発の背景

自動車産業は、車両の電動化や軽量化だけでなく、塗装工程においても脱炭素を求められています。
従来型塗料は石油由来溶剤を多用し、製造から塗装ラインでの乾燥工程まで多量のCO₂とVOC(揮発性有機化合物)を排出してきました。
こうした課題に対し、植物や微生物から得られるバイオ由来原料を配合した環境対応型塗料が注目されています。

自動車産業とCO₂削減の課題

自動車1台のライフサイクルCO₂排出量のうち、製造工程が占める割合は約20%とも言われます。
とりわけ塗装工程はエネルギー消費が大きく、1台あたり数十キログラムのCO₂を排出すると報告されています。
国際的なカーボンニュートラルの目標に向け、塗装材料自体の環境負荷低減が急務となりました。

従来塗料とVOC排出問題

溶剤型塗料は塗着効率や膜厚管理に優れる一方、乾燥過程でVOCを排出します。
VOCは大気汚染や光化学スモッグの原因となり、各国で排出規制が強化されています。
水性化や粉体化に加え、バイオ由来原料の導入はVOC削減を根本的に推進する手段として位置付けられています。

バイオ由来原料とは何か

バイオ由来原料とは、植物油、トウモロコシ、サトウキビ、海藻、さらには微生物発酵によって得られるモノマーや樹脂を指します。
再生可能資源であるため、化石資源の消費抑制とCO₂排出削減の双方に貢献します。

植物由来モノマー・樹脂の種類

代表的なものに、ヒマシ油由来のポリアミド、トウモロコシ由来の乳酸ポリマー、植物油をエポキシ化したバイオエポキシ樹脂などがあります。
これらは既存のアクリル樹脂やポリエステル樹脂と組み合わせることで、高光沢や耐チッピング性を維持しつつ、バイオマス度を高められます。

原料調達とライフサイクルアセスメント

バイオ原料でも、農地転換による森林破壊や食料競合が起きれば本末転倒です。
サトウキビ残渣や木材副産物など非可食系バイオマスの活用、RSPO認証パーム油の採用など、サプライチェーン全体で持続可能性を検証するLCAが必須です。

環境対応型塗料の技術動向

バイオ由来原料を配合する際、溶剤フリー化や水性化技術と組み合わせることで、さらなる環境性能が期待できます。

水性化技術と溶剤フリー化

水性ウレタンディスパージョン(PUD)は、イソシアネートを水中で安定分散させる技術です。
このPUDにバイオポリオールを導入すると、VOCを大幅に削減しながら柔軟性と耐擦傷性を両立できます。
粉体塗料でも、生分解性ポリエステルをベースにすると、180℃以下の低温焼付が可能となり、エネルギー使用量を削減できます。

バイオポリオールの利用による性能向上

大豆油やヒマワリ油由来のポリオールは、鎖長が長く柔軟性に富むため、低温でも割れにくい塗膜を形成します。
また、植物特有の不飽和結合をエポキシ化することで、架橋密度を高め、高硬度かつ耐薬品性の高いトップコートを実現します。

自動車市場での採用事例

実車採用が進むにつれ、環境配慮だけでなく、生産効率やデザイン自由度が向上するケースも報告されています。

主要自動車メーカーの取り組み

トヨタ自動車は、車体内部のデッキコートにサステナブルポリオールを用いた水性塗料を導入し、VOCを従来比60%削減しました。
フォードは、大豆油由来ポリオールをバンパー塗料に採用し、年間約2百万キログラムの石油使用を削減したと公表しています。
欧州ではBMWやメルセデスが、リサイクルPETとバイオモノマーを組み合わせたクリアコートを量産ラインで適用しています。

部品別適用領域(外装・内装)

外装では紫外線やチッピングへの耐久性が要件となるため、バイオエポキシクリアやバイオポリエステルベース色材が主流です。
内装では臭気・VOC規制が厳しく、ステアリングやダッシュボードに低VOCの水性バイオウレタンが採用されています。
さらにホイールリムや燃料キャップなど小物部品での局所塗装に粉体バイオポリエステルが活躍しています。

商業化に向けた課題と解決策

環境適合性と性能を満たしていても、コストや品質保証の壁を越える必要があります。

コスト競争力の確保

バイオ原料は収穫量や為替相場の影響で価格変動が大きい点が課題です。
化学会社は多原料混合や副産物転用によるスケールメリットを追求し、OEMは長期調達契約で価格安定を図ることで解決を目指しています。

耐久性と品質保証

自動車塗料は10年保証が標準とされるため、新規材料は加速耐候試験、塩水噴霧試験、石はね試験など厳格な評価を受けます。
データ不足を補うため、塗膜シミュレーションと実車両フィールドテストを組み合わせる手法が活発化しています。
各国の認証機関によるバイオマス度表示制度も導入が進み、透明性確保に寄与しています。

今後の展望とビジネスチャンス

2030年までに世界の自動車用塗料市場は年平均3〜4%で伸長し、そのうちバイオ由来塗料の比率は15%に達すると予測されています。
EVシフトが進むことで車体温度管理が重要となり、遮熱性顔料とバイオ樹脂を融合した高機能塗料の需要が高まります。
また、カーボンクレジット創出により、バイオ塗料を採用した車両1台ごとにCO₂削減量を可視化し、販売促進につなげるスキームも期待されます。
塗料メーカー、原料サプライヤー、自動車OEMが連携し、LCAを公開することで消費者の信頼を獲得し、新たな付加価値を創出できるでしょう。
バイオ由来原料を活用した環境対応型塗料は、単なる代替材料ではなく、自動車産業全体のサステナビリティを牽引するコア技術として成長していくと考えられます。

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