環境対応型難燃性塗料の開発と建築業界での規制対応

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環境対応型難燃性塗料とは

環境対応型難燃性塗料は、火災時の延焼を抑制しながら、揮発性有機化合物や有害ハロゲンを極力含まないことを目的に設計された塗料です。
従来の難燃性塗料は、有機リン系やハロゲン系の難燃剤を大量に添加することで性能を確保してきました。
しかしこれらの成分は、焼却時にダイオキシン類が発生する懸念や、製造工程での環境負荷が問題視されています。
環境対応型難燃性塗料は、無機系フィラーやリン窒素系難燃剤、バイオマス由来樹脂を組み合わせることで、同等以上の難燃性能を確保しつつ環境負荷を低減します。

開発の背景と必要性

建築物の省エネ化に伴い、断熱材や複合パネルなど可燃性の高い材料が多用されるようになりました。
その結果、火災リスクを抑制する難燃性塗料への需要が急速に高まっています。
同時に、国際的な環境規制が強化され、建材に含まれる化学物質の安全性が厳しく問われるようになりました。

従来の難燃剤の課題

ハロゲン系難燃剤は少量で高い難燃効果を発揮しますが、燃焼時に腐食性ガスや黒煙を発生させます。
また廃棄や焼却時に有害物質を生成するため、処理コストが上昇しライフサイクル全体での環境負荷が大きくなります。

持続可能性への要求

SDGsやグリーン調達の観点から、製品ライフサイクル全体で環境負荷を最小化することが求められています。
環境対応型難燃性塗料は、低VOC、再生可能資源の利用、リサイクル容易性を満たすことで市場ニーズに応えています。

環境対応型難燃性塗料の主な技術

環境負荷を抑えつつ難燃性を向上させるため、複合的なアプローチが採用されています。

難燃メカニズム

リン窒素系難燃剤は、熱分解時に膨張した炭化層を形成し、酸素と熱の供給を遮断します。
これにより可燃ガスの発生を抑え、火炎伝播を遅延させます。
無機系水酸化物やシリカエアロゲルを加えることで、熱伝導率を下げ、さらなる耐火性を付与できます。

低VOC化技術

溶剤型から水性型への転換により、塗装作業時に排出されるVOCを90%以上削減可能です。
さらに、植物由来エマルションや可塑剤フリー樹脂を採用することで、室内空気質の改善にも寄与します。

バイオベース樹脂の活用

トウモロコシ由来ポリオールやヒマシ油系ポリウレタンなどの再生可能資源を導入することで、化石資源依存を低減します。
バイオ樹脂は熱分解時に安定した炭化層を形成しやすく、難燃助剤との相乗効果が期待できます。

国内外の規制と建築基準

難燃性塗料の性能はもちろん、含有化学物質の安全性も規制対象となります。

日本の建築基準法とJIS規格

日本では建築基準法第35条に基づき「不燃材料」「準不燃材料」「難燃材料」の区分が定義されています。
環境対応型難燃性塗料は、不燃認定を取得することで大規模施設の内装制限をクリアできます。
JIS K 6911やJIS A 1321による発熱量試験、煙濃度測定が求められます。

欧州REACH規制と米国GREENGUARD

欧州連合ではREACHにより、SVHC候補物質を含む製品は登録や報告義務が発生します。
ハロゲン系難燃剤の一部はSVHCに指定されており、環境対応型製品への置き換えが進行中です。
米国ではGREENGUARD Gold認証が室内空気質を重視する建築プロジェクトで採用され、VOC排出の厳しい上限値が設定されています。

建築業界での導入事例

環境対応型難燃性塗料は公共施設や集合住宅を中心に採用が拡大しています。

公共施設での採用

東京都内の大型図書館では、木質ルーバー天井に水性リン窒素系難燃塗料を適用し、不燃認定を取得しました。
施工時の臭気が少なく、利用者スペースを閉鎖せずに塗装できた点が評価されています。

民間住宅と内装材

ZEH仕様の戸建住宅では、石膏ボード上にバイオエマルション系難燃塗料を塗布し、省エネ性能と防火性能を両立しました。
住民アンケートでは、塗装後のにおい低減や結露抑制効果への満足度が高く報告されています。

導入によるメリットと課題

環境対応型難燃性塗料の最大の利点は、火災安全性と環境保全性を同時に満たせる点です。
低VOC化により作業員の健康被害を抑え、近隣への臭気苦情も減少します。
一方で、従来品と比較して原材料コストが高い、乾燥硬化に時間がかかるといった課題があります。
シリカ系フィラーの沈降を防ぐための撹拌管理や、規定膜厚を確保するための施工技術も重要です。

実務での選定ポイント

まず、建物用途と法規制区分を明確にし、不燃もしくは準不燃の認定番号を確認します。
次に、塗料メーカーが提供するSDSでVOC含有量やPRTR該当物質をチェックします。
第三者機関の認証マークやLCAデータの有無も、環境性能を裏付ける指標となります。
施工環境に応じた乾燥条件や上塗り適合性を評価し、試験施工で付着性と外観を確認することが推奨されます。

今後の展望と研究動向

環境対応型難燃性塗料は、ナノテクノロジーやAI設計の導入によりさらなる高性能化が期待されています。

ナノテクノロジーとの融合

ナノシリカやナノクレイを分散させることで、同じ添加量でも炭化層の強度が向上し、塗膜の薄膜化が可能になります。
薄膜化は材料使用量を削減し、コストと環境負荷の双方を低減するメリットがあります。
また、機械学習を用いた配合最適化技術により、数万通りの組成から最適な難燃性能と塗装作業性を短期間で見つけ出す研究も進行中です。

まとめ

環境対応型難燃性塗料は、従来の難燃技術を進化させ、火災安全と環境保全を同時に実現する鍵となる材料です。
国内外の規制強化やグリーンビルディング需要の高まりを背景に、建築業界での採用は今後さらに拡大すると見込まれます。
課題であるコストや施工適性についても、ナノ材料やAI設計による技術革新が解決策を提供しつつあります。
持続可能な社会を実現するためには、建築関係者、塗料メーカー、規制当局が連携し、環境対応型難燃性塗料の普及を加速させることが不可欠です。

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