環境負荷低減型シリコーン系塗料の開発と建築業界での適用

建築業界が求める環境負荷低減の背景

世界的な気候変動対策の加速にともない、建築物の省エネ性能のみならず、使用する建材や仕上げ材の環境性能にも注目が集まっています。
特に外装仕上げに使われる塗料は、施工時のVOC放散や廃棄時の環境負荷が問題視されてきました。
その解決策として、近年、環境負荷低減型シリコーン系塗料の開発が急速に進んでいます。

シリコーン系塗料とは何か

シリコーン系塗料は、主にシリコーン樹脂をバインダーとした塗料を指します。
シリコーン樹脂は耐候性、低汚染性、耐熱性に優れ、これまでも橋梁やプラントなど高い耐久性が必要な分野で採用されてきました。
従来のシリコーン樹脂は溶剤型が主体でVOC排出量が多い傾向にあり、一般建築分野への普及を阻んでいました。
環境負荷低減型の開発により、水系や高固形分タイプが実用化され、VOC排出を大幅に削減できるようになっています。

環境負荷低減型の定義

環境負荷低減型シリコーン系塗料は、以下のいずれか、または複数を満たす製品として定義されることが一般的です。
・溶剤を極力使用しない水系または高固形分（ハイソリッド）仕様
・製造から廃棄までのライフサイクルでCO₂排出量を削減
・長期耐久性による塗り替え頻度の低減
・再生原料やバイオマス由来成分を一定割合含有

開発技術の最新動向

環境負荷低減型シリコーン系塗料の中核技術は、シリコーン樹脂の改質と低溶剤化技術に集約されます。

水系シリコーンエマルション技術

シリコーン樹脂は本来疎水性が高く水と相容れません。
そこで、特殊な界面活性剤を用いてマイクロエマルション化することで、水系塗料として調合可能にしています。
近年は界面活性剤の環境毒性を抑えたバイオマス系の材料が採用され、さらなる環境負荷低減が図られています。

ハイブリッド樹脂技術

アクリルやウレタン樹脂とシリコーンを化学的に結合させるハイブリッド化により、低粘度かつ高固形分を実現しています。
これにより、希釈溶剤を減らしながらシリコーン特有の耐候性を保持できます。

バイオマスシリコーンの導入

シリコーン骨格は基本的に無機有機ハイブリッドですが、メチル基やフェニル基の一部を植物由来原料で置換する試みが進んでいます。
これにより、化石資源依存度を抑え、カーボンニュートラル化に貢献します。

環境負荷低減型シリコーン系塗料のメリット

環境性能の向上に加え、建築物のライフサイクルコスト削減にも寄与する点が大きな魅力です。

長期耐候性によるメンテナンス低減

シリコーン骨格は紫外線や酸性雨に対して非常に安定であり、一般的なアクリルシリコン塗料の1.5〜2倍の耐候年数が期待できます。
これにより、再塗装周期を延ばし、建物使用者のライフサイクルコストと環境負荷の両方を軽減します。

低汚染性能と外観保持

塗膜表面に親水性基を適切に配列することで、雨水によるセルフクリーニング効果が発現します。
これにより、外壁の美観維持と洗浄用の水・洗剤使用量が削減できます。

室内環境への配慮

水系化や高固形分化により、塗装作業時のVOC濃度が大幅に低下します。
作業員の健康保護はもちろん、近隣住民への臭気影響や室内空気質への配慮が可能です。

建築業界での適用事例

環境負荷低減型シリコーン系塗料は、新築だけでなく改修市場でも導入が進んでいます。

公共施設の外壁改修

某地方自治体の庁舎では、既存のフッ素樹脂塗装面を環境負荷低減型シリコーン系塗料で上塗りし、再塗装周期を20年に延長しました。
工事時のVOC発生量は従来仕様比で70％削減となり、入札評価で高得点を獲得しました。

ZEH住宅への採用

省エネ住宅の外壁仕上げとして水系シリコーン塗料を採用するケースが増えています。
高断熱仕様の外壁と組み合わせることで、住宅の長寿命化と環境負荷低減を両立させています。

商業施設の屋根防水塗装

高温環境にさらされる屋根面では、耐熱性の高いシリコーン系塗料が有効です。
遮熱顔料と組み合わせることで、室内温度上昇を抑制し、空調負荷を約15％削減した事例があります。

採用時の設計・施工ポイント

効果を最大化するためには、素材特性を理解したうえで設計・施工することが重要です。

下地との付着性評価

シリコーン樹脂は低表面エネルギーのため、下地との密着を確保するには専用プライマーが必須です。
改修工事では、既存塗膜との相溶性も確認し、試験塗りによる密着試験を実施することが求められます。

塗装環境と養生

水系塗料の場合、温度5℃以下や湿度85％以上では硬化不良を起こす恐れがあります。
施工計画時に季節変動と作業時間を考慮し、必要に応じて仮設養生や加温設備を準備します。

乾燥時間と工程管理

環境負荷低減型シリコーン系塗料は従来型よりも乾燥時間が長い場合があります。
工期に余裕を持たせ、天候リスクを減らす工程管理が重要です。

法規制・認証制度との関係

日本国内では、建築基準法に基づくシックハウス対策や大気汚染防止法がVOC排出量削減を促しています。
環境負荷低減型シリコーン系塗料は、F☆☆☆☆認定やエコマーク取得を目指すメーカーが増えており、公共工事の入札条件に適合しやすくなっています。
また、国際的にはLEEDやBREEAMなどのグリーンビルディング認証でも、低VOC塗料の採用が加点対象となります。

コスト比較と投資回収

初期材料費は一般的なウレタン塗料に比べて20〜30％高い傾向があります。
しかし、塗替え周期の延長と省メンテナンス効果により、20年間のライフサイクルコストは15％程度低減すると試算されています。
さらに、環境配慮型建材の採用は企業のESG評価向上や物件価値向上につながり、間接的な投資回収メリットも期待できます。

今後の課題と展望

環境負荷低減型シリコーン系塗料は、性能と環境性の両立を実現した次世代塗料として注目されています。
今後の課題として、さらなる原料のバイオマス化、廃塗膜のリサイクル技術確立、コストダウンが挙げられます。
一方、建築業界ではカーボンニュートラル化に向けた法規制が強化される見通しであり、本塗料の需要が拡大する可能性が高いです。
メーカー、設計者、施工者が連携し、技術開発と普及促進を図ることで、建築物の環境性能向上に大きく寄与すると期待されます。

まとめ

環境負荷低減型シリコーン系塗料は、VOC削減、耐候性向上、メンテナンス低減を同時に実現する革新的な仕上げ材です。
建築業界が直面するサステナビリティ課題の解決策として採用が進んでおり、公共施設から住宅、商業施設まで幅広い分野で実績を積み重ねています。
今後も技術革新と制度整備が進むことで、より環境負荷の少ない建築物の実現が期待されます。