低VOCシリコーン系塗料の開発と自動車市場での環境対応

低VOCシリコーン系塗料とは

低VOCシリコーン系塗料は、揮発性有機化合物（VOC：Volatile Organic Compounds）の排出を抑えつつ、優れた耐久性や耐熱性を持つ次世代の塗料です。

近年、自動車産業においては環境負荷の低減が世界的な課題となっており、その一環として塗料の環境性能向上への関心が高まっています。

特に自動車の外装・内装部品やエンジンパーツへの使用において、省資源でありながら高品質な仕上がり、加えて大気汚染防止に寄与する素材が求められています。

VOCとは何か

VOC（揮発性有機化合物）は、室温下で容易に揮発し大気へ放散される有機化合物の総称です。

代表的なVOCとしては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどが挙げられます。

これらは塗料の溶剤やシンナー、接着剤等に広く使われてきました。

VOCが大気中に排出されると光化学スモッグの発生要因となるほか、人体への有害性も問題となっています。

特に自動車塗装工程で大量に使われる従来の溶剤型塗料は、VOC排出の主要な原因の一つです。

シリコーン系塗料の特徴

シリコーン系塗料は、主成分に有機シリコーン樹脂を採用しています。

シリコーン樹脂は、炭素―酸素―ケイ素（C‐O‐Si）結合を持ち、一般的な有機樹脂よりも耐熱性や耐候性、柔軟性に優れているのが特徴です。

シリコーン系塗料は、自動車のエンジン回りのパーツや排気管、ブレーキ部品など高温域にも耐えうるコーティングとして活用されています。

また、撥水性や防汚性に優れ、車体外装への応用でも美観の維持やメンテナンス性の向上が実現できます。

低VOC化技術の開発動向

従来の製造工程では、溶剤型塗料が中心であり多くのVOCが大気中に排出されていました。

しかし近年、低VOC化、すなわち塗料から揮発する有機化合物の量を大幅に削減する技術開発が進んでいます。

水性塗料技術

最も基本的な低VOC化手法は、水性塗料への切り替えです。

従来の溶剤を水に置換することで、VOC発生を大幅に低減します。

水性シリコーン系塗料は、水を主溶媒としVOC含有率を1％未満に抑えることも可能です。

一方で、塗着効率や塗膜形成の難しさ、乾燥時間の増加など技術的なハードルもあります。

高固形分塗料・UV硬化技術

もう一つのアプローチは、塗料中の固形分比率を高める「高固形分型」や、短時間で硬化させる「UV（紫外線）硬化」技術です。

これらは塗布後の揮発成分をそもそも減らし、VOC発生を最小限に抑える効果があります。

シリコーン架橋技術の進化により、これら低VOCプロセスへの適用が進んでいます。

自動車市場でのニーズと導入状況

世界的な自動車メーカーは、グローバルな環境規制の強化、特に中国や欧州を中心としたCO2削減や排ガス規制の流れを重要視しています。

車両の塗膜工程自体においてもVOC削減が求められており、低VOCシリコーン系塗料の研究開発と本格導入が加速しています。

外装用途の拡大

自動車外装においては、耐候性や撥水性、防汚性が重視されます。

従来、これらの性能を高める添加剤やコーティングには、VOCを多く含むものが採用されていました。

しかし、低VOCシリコーン系塗料への置き換えにより、同等以上の防汚性能や光沢保持性、さらに長期にわたる色彩安定性を実現できるケースも増えています。

エンジン回り・高耐熱部品への適用

シリコーン系塗料は耐熱性に優れることから、エンジンや排気管、ターボチャージャーなどの高温部品への採用が進んでいます。

これまでこれらのパーツには有機溶剤型の特殊塗料が必要でしたが、低VOC型への切り替えにより、工場環境や作業者の健康リスク低減にも寄与しています。

内装部品への展開

自動車室内空気環境の向上を目指し、内装部品にも低VOC商品の採用が拡大しています。

揮発成分の抑制による新車臭対策、乳幼児や高齢者への健康配慮も利点です。

低VOCシリコーン系塗料がもたらす環境的メリット

低VOCシリコーン系塗料の導入は、自動車メーカーのみならず社会全体に大きな恩恵をもたらします。

大気環境汚染の低減

VOC排出量が減ることで、光化学スモッグ対策や都市部の大気浄化に役立ちます。

これは特に自動車産業が集中している都市部では重要な要素です。

作業者の健康リスク削減

工場現場でのVOC暴露による健康被害リスクが低減し、作業環境の向上につながります。

生産プロセスの省エネルギー化

高固形分型やUV硬化型低VOC塗料は、乾燥・焼き付け工程の省エネ化も期待できます。

これにより、車1台あたりの製造時CO2排出量削減にも貢献します。

循環型経済への寄与

水性や低VOC型塗料は、塗装ブースの排水・排ガス処理工程でも環境負荷低減が可能になります。

環境規制の強化にも柔軟に対応しやすく、今後のカーボンニュートラルやSDGsの推進にも結びつく技術となっています。

今後の技術開発と課題

低VOCシリコーン系塗料は、環境性能の高さとともに、各種の課題もあります。

性能面の最適化

塗膜の耐候性、耐傷付性、密着性の向上に加え、色彩表現の幅拡大や高級質感の創出など、多様な自動車デザインへの適応が求められます。

最新の有機無機ハイブリッド技術やナノ粒子分散技術の応用も進みつつあります。

コスト競争力の確保

水性や高固形分シリコーン系塗料は原料価格や設備投資が課題となる場合があります。

一方で、長期的には環境コスト削減やSDGs対応による市場競争力向上につながる点も重要です。

グローバルな規格適合

自動車産業はグローバルなバリューチェーンを持つため、各国のVOC規制やREACH規制など、国際的な法規制への適合が不可欠です。

供給可能な品質・性能を維持しつつ、現地法に則した設計が求められています。

まとめ

低VOCシリコーン系塗料は、自動車市場における次世代塗料としての地位を確立しつつあります。

優れた耐久性や防汚性に加え、揮発性有機化合物削減という明確な環境的メリットを実現します。

今後は更なる性能進化とコスト低減、グローバル対応力の強化により、さらなる普及が期待されています。

企業の環境経営や社会的責任、持続可能なものづくりを進める上でも、低VOCシリコーン系塗料の開発・導入は大きな役割を果たしていくでしょう。