水性インクと油性インクの違いと環境負荷の比較

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インクの基本構造と原理

インクは顔料または染料、溶剤、樹脂、添加剤で構成されます。
水性インクは主に水が溶剤になり、油性インクは石油系または植物系溶剤が主成分です。
顔料は粒子が大きく耐光性や耐水性に優れ、染料は発色性が高い一方で耐久性が劣ります。
樹脂は紙やフィルムとの密着性を高め、添加剤は乾燥性や滑性、保存安定性を調整します。

水性インクの溶剤としての「水」

水は揮発温度が低く、乾燥時に有害な揮発性有機化合物(VOC)がほとんど発生しません。
一方で水は蒸発に時間がかかるため、速乾性を高める改良が不可欠です。

油性インクの溶剤としての「有機溶剤」

油性インクに使われるトルエン、キシレン、IPAなどの有機溶剤は乾燥が速く、印刷速度を向上させます。
しかしVOC排出量が多く、環境負荷と作業者の健康リスクが課題です。

水性インクの特徴

水性インクは低臭気で室内作業に向きます。
VOC排出が少ないため、オフィスプリンターや家庭用インクジェット、食品包装向けなど幅広い分野で採用されています。
顔料系水性インクは水に弱いという弱点を樹脂分散技術で克服し、耐水性・耐候性が向上しています。

メリット

・VOC排出量が微量で環境に優しい。
・火気リスクが低く、危険物保管規制の対象外が多い。
・インク成分が水系なので洗浄や廃液処理が容易でコスト削減につながる。

デメリット

・速乾性が劣るため、速いラインスピードではブロッキングが起きやすい。
・耐摩耗性が弱く、後加工でラミネーションやニス引きが必要な場合がある。
・多孔質の紙には浸透しやすいが、フィルム基材では表面処理が不可欠。

油性インクの特徴

油性インクは長年の歴史と実績があり、特に新聞印刷、オフセット印刷、グラビア印刷で主流です。
速乾性と優れた密着力により、大量生産ラインで高い生産効率を発揮します。

メリット

・揮発が速いため連続印刷でも乾燥待ち時間が少なく、生産性が高い。
・耐摩耗性、耐水性、光沢感が高い仕上がりを実現しやすい。
・幅広い基材に対して下処理なしで密着するケースが多い。

デメリット

・VOC排出が多く、大気汚染物質の一因となる。
・溶剤臭が強く、作業者に健康被害を及ぼす恐れがある。
・消防法や労働安全衛生法の規制対象であり、設備投資や保管管理コストが高い。

水性と油性の環境負荷比較

近年はSDGsやカーボンニュートラルの視点から、インク選定の決め手が環境性能に移行しています。

ライフサイクルアセスメント(LCA)

LCAで比較すると、水性インクは製造時のエネルギー消費がやや高いものの、使用時および廃棄時の環境負荷が圧倒的に低いです。
油性インクはVOC排出と燃焼処理によるCO₂排出が多く、トータルでは水性インクが優位とされます。

揮発性有機化合物(VOC)の排出量

一般的な油性グラビアインクは1kgあたり400〜500gのVOCを含むのに対し、水性グラビアインクは50g未満です。
排出規制が厳しい地域では、油性から水性への切り替えが急速に進んでいます。

廃液処理とリサイクル性

水性インクの廃液は凝集沈殿やろ過で顔料を分離し、上澄み水を再利用できます。
油性インクは溶剤回収装置で再蒸留する必要があり、エネルギーコストが高いです。
包装材料のリサイクルでも、水性インクは洗浄で除去しやすく、再生プラスチックの品質を保ちやすいです。

選択時のポイント

印刷方式、基材、用途、ランニングコストを総合的に判断することが重要です。

印刷方式別適合性

インクジェットでは水性が主流ですが、溶剤インクジェット(油性)も屋外広告で活躍しています。
オフセットは油性が多いものの、H-UVやLE-UVと組み合わせた水性ハイブリッド技術も登場しています。
グラビアやフレキソでは水性化が進み、特に紙ストローや紙カップなど食品接触材料に採用が拡大しています。

基材との密着性

紙や段ボールは水性が優位ですが、ポリエチレンやBOPPフィルムなど非吸収性基材では油性が先行しています。
近年はコロナ処理やプライマー塗布で水性でも十分な密着が得られる事例が増えています。

コスト比較

インク単価は水性がやや高い傾向にあります。
しかしVOC処理設備や溶剤回収の運用費、危険物保管費を含めるとトータルコストで水性が逆転するケースも多いです。

今後の技術動向とサステナビリティ

グリーン印刷認定やエコマーク取得には、水性インクの採用がポイント化されています。
欧州ではEUPIAガイドラインに基づき、食品包装インクの溶剤残留基準が強化され、水性インクが標準化しつつあります。
日本でも環境配慮設計指針やプラスチック資源循環法に対応する形で、水性への更新投資が加速しています。

バイオマスインクと植物油インク

水性、油性の両方でバイオマス由来原料を使用したインクが開発されています。
水性バイオマスインクは水と植物性樹脂を組み合わせ、再生可能資源比率を高めています。
油性でも植物油インクがVOCを低減し、PETボトルラベルなどで採用事例が増えています。

無溶剤化と固体インク

UV硬化型インクやEB硬化型インクは溶剤を含まないため、VOCゼロを実現します。
ただし紫外線照射設備の投資や食品安全性に関する法規制への適合が課題です。
水性とUVを組み合わせたハイブリッドシステムも登場し、多様な選択肢が今後さらに広がります。

まとめ

水性インクはVOC排出が少なく、環境負荷低減や廃棄コスト削減に優れています。
速乾性や耐摩耗性の課題は技術革新により着実に改善されています。
油性インクは生産性と耐久性で依然優位な場面があるものの、環境規制強化に伴いコストとリスクが増大しています。
印刷方式や基材、製品用途を考慮し、LCAやトータルコストを試算して最適なインクを選定することが重要です。
持続可能な社会を実現するために、メーカーとユーザーは水性インクを含む環境配慮型インクの採用を積極的に検討すべき段階に来ています。

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