水性フレキソ印刷とグラビア印刷の違いと最適な用途選択

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水性フレキソ印刷とグラビア印刷の基本原理

水性フレキソ印刷は、弾性のある樹脂版に水性インキを供給し、アニロックスローラーで計量してから被印刷体に転写する方式です。
凸版印刷の一種で、版が柔らかいため段ボールやフィルムなど凹凸のある素材にも追従しやすいです。
一方、グラビア印刷は銅めっきシリンダーにレーザーや電鋳で凹部を形成し、溶剤系インキをドクターブレードで拭き取りつつインキ溜まりから転写する凹版方式です。
エッチングされた凹部の深さと面積でインキ量を制御できるため、濃淡表現や写真再現に優れます。

インキの種類と乾燥方式の違い

水性フレキソ印刷のインキ特性

水性フレキソインキは水と微量のアルコールを主溶剤とし、揮発速度が穏やかです。
乾燥はホットエアや赤外線で水分を蒸発させる方式が一般的です。
揮発性有機化合物(VOC)の排出が少なく、消防法や大気汚染防止法への対応が容易です。

グラビア印刷のインキ特性

グラビアインキはトルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を多用します。
乾燥は高温エアブローと排気装置を併用し、回収システムがない場合VOC排出量が多くなります。
速乾性に優れる一方、溶剤管理や爆発対策が必須です。

画質・色再現性の比較

グラビア印刷は1ドット当たり均一な凹部深さでインキ層が厚く、広い濃淡レンジと鮮やかな発色を実現します。
写真やグラデーションが含まれる食品包装や化粧品パウチで高い採用率を誇ります。
水性フレキソ印刷はアニロックスローラーのセル容量と網点形成で色を制御するため、過去はハイライト飛びやモアレが課題でした。
しかし近年は高線数プレートとHDフレキソ技術により、175〜200線相当の高精細印刷が可能となっています。

生産コストとロット適性

版・シリンダー作成コスト

水性フレキソの樹脂版はフォトポリマーをレーザーイメージャーで直接製版でき、1セット数万円から10万円程度です。
グラビアシリンダーは銅めっき、クロムめっき、研磨、彫刻の多工程が必要で、1色あたり数十万円規模になることもあります。

ランニングコストとロットサイズ

グラビア印刷機は最大600m/分以上で走行でき、大ロットでの生産効率が極めて高いです。
一方で版替えに時間と費用がかかるため数万〜数十万メートルのロングラン向きです。
水性フレキソ印刷機は200〜400m/分程度が一般的で、版替えも短時間で済むため中小ロットやSKUが多い製品群に適合します。

環境負荷と法規制対応

水性フレキソ印刷はVOC排出量がグラビア比で約90%削減できるとされています。
排気設備や溶剤回収装置のイニシャルコストも抑えられ、ISO14001やカーボンニュートラル目標への貢献度が高いです。
グラビア印刷は溶剤回収でエネルギーコストが増大するものの、回収溶剤の再利用や有機溶剤焼却による熱回収を行えば環境負荷を低減できます。
EUではVOC指令、日本でもPRTR制度、労働安全衛生法の規制強化が進んでおり、事業規模に応じた設備投資が求められます。

紙・フィルム・アルミなど素材適性

水性フレキソ印刷は吸収性が高いクラフト紙や未晒段ボールライナーで良好な密着性を示します。
ポリエチレン、ポリプロピレンフィルムでは表面処理とインキ改良が必要ですが、最近は水性プライマーとトップコートの併用で密着問題を解決しています。
グラビア印刷はポリエチレン、PET、ナイロン、アルミ蒸着フィルムへの密着が良好で、高バリア包装に広く使用されます。
紙への印刷も可能ですが、溶剤が紙に浸透しやすく裏抜けや巻取り乾燥が課題となるため、ニスコートや表面処理が推奨されます。

代表的な用途と事例

水性フレキソ印刷の活用例

・宅配段ボール、青果用段ボール
・クラフト紙袋、紙製ショッパー
・紙ストロー、紙コップなどプラスチック代替品
・ラミネートレス紙包装(モノマテリアル)
・軟包装フィルム(スタンドパウチ、レトルト向け)の環境対応版

グラビア印刷の活用例

・スナック菓子用ポリプロピレンフィルム
・レトルト用アルミ三層フィルム
・冷凍食品包材、ピロー包装
・化粧品サンプルパウチ、転写ホイル
・たばこ外装、セキュリティホログラム

選択フローチャートで見る最適工法

1. 印刷ロットが5万m未満か
 →イエス: 水性フレキソの検討を優先
 →ノー: 2へ進む
2. 写真品質やメタリック表現が必須か
 →イエス: グラビア印刷が有利
 →ノー: 3へ進む
3. 包装材料が紙中心かフィルム中心か
 →紙中心: 水性フレキソ
 →フィルム中心: 4へ進む
4. 環境認証やVOC規制が厳しい市場向けか
 →イエス: 水性フレキソ、高固形分水性グラビアの両 option
 →ノー: 従来型グラビアがコスト優位

導入時に確認すべきチェックポイント

・基材表面処理(コロナ、プラズマ)の有無と値
・インキ粘度、pH管理、温度管理体制
・乾燥装置のゾーン数と排気風量
・版・シリンダー保守と洗浄溶剤の環境対応
・ラミネートやヒートシールとの相溶性試験
・最終製品での摩擦係数、ブロッキング、移行試験

まとめ

水性フレキソ印刷とグラビア印刷は、印刷方式・インキ・設備構成が大きく異なります。
環境負荷の低減や小ロット多品種には水性フレキソが優位です。
高精細な写真再現と大ロット生産、広範なフィルムバリア構成にはグラビア印刷が適しています。
技術開発により両者の境界は近年急速に縮まっていますが、ロット規模、画質要件、規制対応、素材特性を総合的に評価して最適な工法を選定することが、コスト削減とブランド価値向上につながります。

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