製紙工場の省エネルギー対策と熱回収システムの導入効果

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製紙工場におけるエネルギー消費の現状

製紙工場は原料の蒸解から乾燥まで多段階の熱プロセスを伴います。
そのため重油や天然ガスなどの燃料消費量が大きく、電力よりも熱エネルギーがコスト比率の大半を占めます。
エネルギー価格の高騰とカーボンニュートラルの潮流を背景に、各社は省エネと排出削減の両立を迫られています。

エネルギーコストの内訳

一般的なクラフトパルプ工場では、ボイラー燃料費が総エネルギーコストの約六割を占めます。
残りは蒸気駆動ポンプやリファイナーなどの電力が三割、その他補機類が一割です。
この構成比からも、熱エネルギーの効率化が最重要課題であることが分かります。

温室効果ガス排出量への影響

日本製紙連合会の統計によれば、製紙産業のCO2排出量は国内産業全体の約四パーセントを占めます。
その七割超が自家ボイラー由来であり、化石燃料の削減が温暖化対策に直結します。

省エネルギー対策の基本概念

省エネ対策は大別してプロセス最適化、高効率設備への更新、運用改善の三本柱で構成されます。
いずれも単独では限定的な効果にとどまるため、総合的な取り組みが必要です。

プロセス最適化

パルプ工程では黒液濃縮度を高めることで蒸発エネルギーを削減できます。
抄紙工程では多段式プレスや真空システムの圧力最適化により水分除去効率を向上させます。

高効率設備への更新

最新型のコンビンド・ヒート・アンド・パワー設備は旧式ボイラーより燃焼効率が一五パーセント以上高いです。
ベルトプレス脱水機や高効率モーターも電力使用量の低減に寄与します。

運用改善と人材教育

リアルタイムエネルギーモニタリングにより蒸気圧力や温度を適切に維持し、ムダな蒸気放散を抑制します。
運転員の省エネ意識を高める研修も、改善効果を持続させる鍵になります。

熱回収システムとは

排気や排水に含まれる低品位熱を再利用し、燃料消費を抑える仕組みを総称して熱回収システムと呼びます。
代表的な技術として排熱ボイラー、熱交換器、ヒートポンプが挙げられます。

排熱回収ボイラー

回転グリッド式石炭ボイラーやライムキルンの高温排ガスを余熱ボイラーへ導入し、蒸気を再生成します。
これにより新規燃料投入量が一〇〜二〇パーセント削減されます。

熱交換器とヒートポンプ

抄紙機ドライヤ部からの排気は一〇〇度前後の潜熱を含んでいます。
プレート式熱交換器により白水予熱や給水加温へ活用することで、年間数千トンの蒸気を節減できます。
さらにヒートポンプを組み合わせ、六〇度程度の低温排熱を八〇度へ昇温し、工場給湯や漂白工程へ供給する事例も増加しています。

焼却炉熱利用

スラッジ焼却炉の高温排ガスは多管式ボイラーで蒸気化し、発電タービンを回すことで電力自給率を高めます。
廃棄物削減とエネルギー回収を同時に達成できる点が特徴です。

導入効果の定量評価

省エネ投資の意思決定には定量的指標が欠かせません。
代表的な評価項目としてエネルギー使用量削減率、CO2排出削減量、投資回収期間が挙げられます。

エネルギー使用量削減率

排熱ボイラーを導入したあるクラフトパルプ工場では、蒸気使用量を年平均で一四パーセント削減しました。
同時にボイラー燃料消費も一一パーセント減少し、年間二億円の燃料費圧縮につながりました。

CO2排出削減量

同工場の削減量は八千トンCO2に達し、森林面積換算で約六百ヘクタールの吸収量に相当します。
この実績は環境報告書やESG投資家へのアピール材料としても有効です。

投資回収期間

導入費用二億五千万円に対し、燃料・電力削減効果が年二億円であったため、一点三年で償却を完了しました。
補助金や税制優遇を活用すれば、更なる短縮が期待できます。

導入事例

中規模クラフトパルプ工場のケース

北欧の中規模工場では、蒸解工程からの高温黒液を多段蒸発器に通し、生成した蒸気を漂白ラインへ供給するシステムを導入しました。
結果として化石燃料の使用量が二十五パーセント削減され、年間一万トンのCO2排出を抑制しました。
また余剰蒸気をタービン発電に利用し、工場内部の電力自給率を四五パーセントから七〇パーセントへ向上させました。

新聞用紙工場のケース

国内新聞用紙工場では、抄紙機フードからの湿潤排気を熱交換器で回収し、プロセス水を六十度まで加温しています。
以前はボイラー蒸気で行っていたため、年間三千トンの蒸気削減を達成しました。
投資額八千万円に対し、三年弱で回収できたとの報告があります。

課題と今後の展望

老朽設備との整合性

熱回収装置は高温高湿環境で腐食が進みやすく、既存配管との接続部でトラブルが生じる場合があります。
改修時は耐食性材料の選定や流体シミュレーションによる熱応力解析が不可欠です。

デジタル化とのシナジー

近年はIoTセンサーで蒸気流量や温度をリアルタイム監視し、AIが最適な回収率を自動制御する技術が実用化しています。
これにより従来の静的設定より三〜五パーセント追加で省エネ効果を上乗せできます。
将来的には全社横断でデータを共有し、複数工場の最適運転を行うバーチャルパワープラント構想も期待されています。

まとめ

製紙工場における省エネルギー対策は、燃料コスト削減と脱炭素を同時に達成する経営上の最優先課題です。
中でも熱回収システムは排熱という未利用エネルギーを直接利益に転換できる即効性の高い手段です。
導入効果を最大化するには、プロセス最適化、高効率設備、運用改善を組み合わせた全体最適が欠かせません。
老朽化や運転管理の課題をデジタル技術で補完しつつ、補助金制度やグリーンファイナンスを活用すれば、短期間での投資回収も現実的です。
今後も製紙業界は熱回収技術を核に、循環型で競争力の高い生産システムへの転換を加速させる必要があります。

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