無機材料の機能向上と半導体産業での活用

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無機材料の基礎知識

無機材料とは、炭素を主骨格としない化合物や元素から構成される材料全般を指します。
主に金属、セラミックス、ガラス、酸化物、窒化物、カーボン系などが含まれ、電子部品から建築分野まで幅広く利用されます。
特に半導体産業では、デバイス性能を左右する電気特性、熱特性、機械特性を最適化できる点が重視されています。

元素と結晶構造

無機材料の特性は、結晶格子内に含まれる元素の種類と配列によって決定されます。
シリコンウエハーのようにダイヤモンド構造を取る場合、高いキャリア移動度と安定した化学的耐久性が得られます。
一方、酸化インジウムスズ(ITO)などはペロブスカイト系構造を取り、透明導電性を実現します。
結晶構造を制御することで、光学バンドギャップや誘電率、熱伝導率を自在に調整できるため、機能向上の起点となります。

特性分類

無機材料の特性は、大きく電気特性、光学特性、熱特性、機械特性に分類されます。
電気特性では、導電性、絶縁性、高誘電率が注目されます。
光学特性としては透過率や屈折率、蛍光発光などがあり、次世代ディスプレイやセンサーに応用されます。
熱特性は熱伝導率と熱膨張係数が中心で、パッケージングや放熱設計に直結します。
機械特性には硬度、靭性、耐摩耗性があり、長期信頼性と歩留まりに影響を与えます。

機能向上の背景

半導体産業では、ムーアの法則の継続を支えるために材料機能の高度化が必須となっています。
10 nm以下の微細加工領域では、従来材料の限界が顕在化し、絶縁膜リークや高抵抗化が問題化しています。
また、5G通信、AI、IoT、自動運転向けに高周波動作と低消費電力を両立する需要が高まっています。

微細化と高温環境

配線幅の縮小に伴い、信号遅延や抵抗上昇を抑えるために低誘電率(Low-k)材料や高導電金属が求められます。
同時に、演算密度の増大が発熱を加速させ、300℃近い局所温度が発生するため、高耐熱セラミックスや高熱伝導フィラーが不可欠です。

SDGsと環境要求

脱炭素社会の実現に向け、RoHSやREACHなどの規制強化が進み、有害元素の使用制限が厳格化しています。
リサイクル性を高める無機材料の設計や、資源リスクの低い元素への切り替えが研究開発の主流となっています。

主要無機材料と改質技術

半導体プロセスでは、多種多様な無機材料が機能別に組み合わされます。
以下では代表的な材料系と、機能向上を実現する改質技術を解説します。

酸化物系材料

酸化ハフニウム(HfO₂)は高誘電率ゲート絶縁膜として広く採用され、SiO₂のゲートリーク問題を解消しました。
また、酸化ガリウム(β-Ga₂O₃)はワイドバンドギャップ特性により、高耐圧パワーデバイス向けに期待されています。
原子層堆積(ALD)やスパッタリングでの酸素分圧制御により、欠陥密度を低減し信頼性を向上させます。

窒化物系材料

窒化ガリウム(GaN)は高周波特性と耐圧性能を両立し、5G基地局や電動車のオンボードチャージャーに使用されています。
窒化シリコン(SiN)は優れた機械強度と酸化耐性を活かし、パッシベーション膜やストレスエンジニアリング材料として利用されます。
プラズマ強化CVDで水素含有量を最適化し、膜中応力を制御することで信頼性を高めます。

カーボン系インオーガニック

ダイヤモンド‐ライク‐カーボン(DLC)は極めて高い硬度と低摩擦係数を持ち、ウェハーハンドリング部品の耐摩耗層として活躍します。
グラフェンやカーボンナノチューブは高い熱伝導率と電子移動度を備え、将来の配線材料やトランジスタチャネル候補です。
化学気相成長(CVD)での大面積成膜や転写技術の確立が実用化の鍵となります。

半導体産業での活用事例

無機材料の革新は、ロジック、メモリ、パワー、パッケージングの各分野で顕著な成果をもたらしています。

先端ロジックデバイス

FinFETやGAA(Gate-All-Around)構造では、高誘電率ゲート酸化膜とコバルト配線が組み合わされ、チャネル制御性能と低抵抗を両立します。
さらに、ソース/ドレイン領域にシリサイド形成を行い、接触抵抗を数十%削減しました。
極紫外線(EUV)リソグラフィに対応するため、硬膜レジストとして無機系ハイブリッド材料が導入されています。

パワーデバイス

SiC MOSFETは高耐圧と低オン抵抗を兼ね備え、電力変換効率を大幅に向上させます。
酸化ガリウムデバイスはさらに大きな絶縁破壊電界を持ち、航空機や産業機器向け高耐圧モジュールで注目されています。
絶縁ゲート酸化膜にはAl₂O₃やSiO₂の多層構造が採用され、界面欠陥密度を低減して閾値シフトを抑制しています。

パッケージングと熱対策

高出力チップでは、放熱シートとして窒化アルミニウム(AlN)や窒化ホウ素(h-BN)フィラーを混合したTIMが使われます。
フリップチップ接合には、低熱膨張のガラスセラミック基板と無電解ニッケル-パラジウム-金(ENEPIG)めっきが採用され、熱ストレスを緩和します。
また、シリコン貫通ビア(TSV)の絶縁層としてプラズマ酸化SiO₂を成膜し、電気的クロストークを抑制します。

実装時の課題と対策

無機材料は優れた性能を示す一方で、成膜時の応力、熱膨張差、界面反応といった課題があります。
応力クラックを防ぐため、膜厚を最適化し、サンドイッチ構造で応力を分散させます。
界面反応による金属拡散を防ぐため、TaNやTiNのバリア層を挿入します。
また、薄膜剥離を抑止するために、表面粗さをナノオーダーで調整し、自己組織化モノレイヤー(SAM)を用いた接着力の向上が行われます。

今後の展望と研究開発動向

量子コンピューティングに向けて、超伝導酸化物やトポロジカル絶縁体の実装研究が加速しています。
フォトニックデバイスでは、シリコン‐ニトリド(SiN)導波路と酸化物レーザーを統合し、低損失と小型化を実現する試みが進んでいます。
さらに、印刷プロセスと無機ナノインクの組み合わせにより、低温・低コストで大面積エレクトロニクスを製造する技術が注目されています。
サーキュラーエコノミーの観点からは、レアメタルフリー材料や高効率リサイクルプロセスが研究テーマの中心になると考えられます。

まとめ

無機材料の機能向上は、微細化や高機能化が進む半導体産業の発展を支える重要な要素です。
酸化物、窒化物、カーボン系など多様な材料が、それぞれの特性を活かしてデバイス性能を引き上げています。
今後も環境規制や新規アプリケーションへの対応が求められ、材料開発とプロセス最適化の両面でイノベーションが続くでしょう。
技術者は材料特性を深く理解し、設計から実装まで一貫した最適化を行うことで、さらなる性能向上と持続可能性を両立できると期待されます。

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